根暗な魔女はキラキラ騎士様の秘密を知ってしまったわけですが

葉月くらら

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9話 初めてのデート

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 それから数日後の休日。

 アンダーソン家の馬車でウィル様が迎えに来てくれた。



「まあウィル様、今日も一段と素敵ですわね」

「おはようございます、ハーディング伯爵夫人。本日はお嬢様と出かけることをお許しいただきありがとうございます」

「いえいえ、私もとても嬉しいのですよ。娘をお願いしますね」

「はい、おまかせください」



 階下から出迎えに出たお母様とウィル様の会話が聞こえてくる。

 妙にそわそわして落ち着かない。



「ステラ、動かないで。……うん、よし。上出来ね」

「だ、大丈夫なのかな」



 最後の衣装チェックをしていたアメリア姉様は満足そうに頷いた。

 鏡の前の私はいつもとだいぶ雰囲気が違う。

 柔らかな素材の薄桃色のワンピースに白いカーディガン。髪はアメリア姉様が綺麗に巻いてくれたおかげでふわふわしてるし、薄化粧をしているからなんだか自分じゃないみたいだ。



「あ! ウィル貴様! よくもステラとのこと黙ってたな」

「セオドア!? ……あ、そっか。お前が兄だったか」

「貴様ー!」



 階下から何やら騒がしい不穏な声が聞こえてきた。

 アメリア姉様がぽんと私の背中を押す。



「ほら、これ以上ウィル様を待たせたら悪いから早く行きなさい」

「あ、ありがとうございます、姉様!」



 アメリア姉様がいなかったらきっと私はデートなんて何を着ていいのかわからず頭を抱えていたことだろう。口うるさいけれどいつだってアメリア姉様は私の味方になってくれる。

 慌てて表玄関に続く中央の階段を下りて行くとウィル様と目が合った。



「……お待たせ、しました。ウィル様」

「ステラ、お前本当にこいつでいいのか?」

「はいはいセオドアお兄様はこちらよ」

「アメリア!? 俺はまだ話が」



 呆気に取られているうちにアメリア姉様がセオドア兄様を引きずって行ってしまった。姉様本当にありがとう。



「まあまあ! ステラ、とっても可愛らしいじゃない。今日のために張り切ったのね」

「お母様……! そそそそんなことは」

「それじゃあ後はごゆっくり。楽しんでいらして」



 私の姿に嬉しそうなお母様に促されて私とウィル様は屋敷の外に出た。

 ぱたんと扉はあっさり閉じられて、思わず二人で顔を見合わせてしまった。



「あの、あの今日はよろしくお願いします」

「か、可愛いな」

「え!?」

「あ、いやその。ごめん、いつもと全然違うからびっくりして」



 よく見るとウィル様は少し照れているようだった。

 なぜかこちらまでちょっと恥ずかしくなってしまう。正門の前に停めてある馬車までゆっくりと歩く。



「アメリア姉様が張り切りまして……」

「そっか。アメリア嬢に感謝だな。そういえばハーディング伯爵は?」

「今日は仕事で登城してます。ウィル様に会いたがってましたけど」

「そっか。俺も今度ゆっくりお話ししたいな」



 なんだか会話もぎこちない。

 人と話すのが得意じゃない私はともかくウィル様はいつだって爽やかに自然に会話していたはずなのにどうしてだろう?

 こうしてお互い緊張しながらデートが始まったのだった。





「今日はどこへ行くんですか?」



 アンダーソン家の馬車はのどかな道を王都の郊外へと進んでいた。

 今日の予定は全てウィル様に任せてしまっているから私はどこへ向かっているのかもわからない。



「今日は先日のお礼だからな。ステラの好きそうなところにしたよ」

「私のですか?」

「そう、王立公園へ行こうと思って」



 そういえばデートに誘ってくれた理由はカフェに同行したからだったっけ。そんな大したことじゃないのにウィル様はとても感謝してくれていた。

 出発してからずっと緊張気味だった私達はようやくぎこちなくだけどいつもの調子で会話を始めていた。



「王立公園って、王都のはずれにある自然公園でしたっけ」

「行ったことある?」

「……幼い頃に一度だけ。あまり覚えてないですけど」

「だったら丁度良かった」



 ラザフォード王立公園は、王都のはずれにある広大な自然を利用した貴族も民間人も利用できる公園だ。

 子供の頃、両親に連れられて兄姉達と訪れたことが確かあったはずだけれ記憶はほとんどない。王都に住む人間にとっては割とポピュラーな場所だけれど、何せ私は魔法薬学にはまり成長してからは休日は引きこもり状態だったしここへ来るのはほぼ初めてと言っていい。





「わあっ……!」

「楽しそうだろう?」



 王立公園へとたどり着いた馬車から降りて、私達は園内へと足を踏み入れた。

 空まで覆ってしまいそうな大樹に自然に群生した花々。透き通った池には魚や虫の姿もある。王都の自然をありのまま残すのがここのコンセプトらしくて、人工的に管理されている感じはあまりしない。人間がしているのは木々や草花が自然と生きられるようにするための手助けなのだろう。

 そして何より私をときめかせたのは。



「すごい、この規模の薬草園はなかなかありませんよ!」

「ここの公園は一部がかなり大きな薬草園になってるって聞いたんだ。君は好きそうだろう?」



 公園の入ってすぐの所にある緑で出来たアーチを潜ると、そこは薬草園になっていた。王城の庭の一区画でも薬草は育てているけれど、それより広いかもしれない。

 中心には四阿が置かれ、そこから東西南北に通路が作られていた。様々な薬草がたくさん作られているみたいだ。



「イチヤクソウにオウギソウ……ムラサキソウまで!」



 ムラサキソウは治り辛い喘息等にも使えるけれど生息地がずっと北の方なのでこのあたりでは中々手に入らないのだ。まさかこんなところで育てているなんて。



「へえ、それは珍しいんだ」

「え、あ、ウィル様……! すすすみません。一人ではしゃいでしまって」



 つい興奮して一人で先に進んでしまっていたみたいで、ウィル様が後ろからのんびりとついてくる。しまった、と私は慌てて頭を下げた。令嬢にあるまじき振る舞いだ。

 けれどウィル様は気にした様子もなく笑っていた。



「謝ることないよ。ステラに喜んでほしくて連れて来たんだからさ」

「え?」

「ステラは魔法薬学が好きなんだろう? だったらこういう場所がいいかなって思って」

「そ、そうだったんですか。……ありがとう、ございます」



 ちゃんと私の趣味嗜好を考えてデートプランを考えてくるなんて、さすがウィル様だ。根っからのキラキラ太陽属性。常に人への配慮を欠かさない。

 関心してしまうのと同時に、なんだか妙に嬉しくて口元がにやけないように我慢するのが大変だった。ウィル様、意外と私のことちゃんと見てるのだなあって。

 最初は緊張していたけれどこんな素敵な場所に連れて来てくれるなんて、ウィル様の心遣いに私は感謝した。
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