君を愛する権利がほしいと言う彼は他の誰かを愛している(に違いないと思われている)

葉月くらら

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 それから瞬く間に日々は過ぎ、二人が結婚式を挙げてから半年が経とうとしていた。
 オリヴィアが花壇の前で難しそうな顔をしている。
 それを執務室から見かけたカイルは、気分転換と言い訳しながら庭に出て行った。

「オリヴィア、どうかしたのか?」
「カイル様。ブルーベリーの苗木の成長があまりよくなくて」
「そうなのか?」

 結婚式の翌日に二人で植えたブルーベリーの苗木はカイルの腰ほどの高さになっていたが、まだ葉も少なく実もできていないようだ。
 オリヴィアの花壇はこの半年ほどでたくさんの花々やハーブなどであふれていたが、ブルーベリーの場所だけはまだちょっと寂しかった。

「もう少し葉が生い茂ってもいいと思うのですが」
「肥料を変えてみてはどうだ?」
「そうですねえ」

 半年も経つと、なんとなく会話も気安くなってくる。
 いまだに初夜は済んでいないのだが。
 とにかく今はオリヴィアから信頼してもらおうとカイルは思っていた。

「何年先になるかはわかりませんけど」
「うん?」
「ブルーベリーの実ができるようになったら、収穫してタルトにしたいのです」
「それはいいなあ、あとジャムもほしい」
「いいですね。そうしたらパンも焼かなくちゃいけませんね」

 カイル様は食いしん坊ですからね、とオリヴィアが笑う。
 その微笑みは初めてカイルが出会った時のオリヴィアの飾らないものだ。ようやく最近、彼女がその笑顔を見せてくれるようになってカイルはとても嬉しかった。
 単に一緒に暮らし始めてカイルに慣れたのか、それとも心を開いてくれたのかはわからないけれど。
 特別なことはないけれど、こんな穏やかな日々がカイルはとても愛おしい。
 オリヴィアも一緒の気持ちだったらいいなとカイルは思った。


 そんなある日、領地の農地開拓の件で一人の女性がやって来た。

「フレデリカ・フェルトンです。よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしく頼む。カイル・ブランシェだ」

 フレデリカは利発そうな女性だった。長いブラウンの髪を一つにまとめた美人で、ドレスではなく男物の服を着ている。
 彼女は農地開拓を担当する周辺の町の町長の娘で、領主であるカイルと領民たちとの橋渡しをする秘書のような仕事をしていた。

「……ここにはもう少し人数が必要でしょう。あと農地を開拓するにあたっての器具が足りなくて」
「なるほど、ではこちらから融通しよう。どれほど必要だ?」
「そうですね……」

 この新しい農地の開拓はブランシュ領の今後にもかかわる大事な事業だった。農地を増やして生産量を上げれば、天候などで一時的に収穫が減るような事態も耐えられるようになる。
 そのためカイルは忙しく働いていた。
 現場へよく顔も出し、周辺の住民達とも交流し、他の領地の貴族達への根回しなどもある。おかげで最近はなかなか屋敷へ帰れない日も多かった。
 屋敷へ帰ればフレデリカがやって来て、また打ち合わせだ。

「ブランシュ卿、こちらの書類なのですが」
「ああ、ちょっと待ってくれ」

 さて、と目を通そうとしたところでふと窓の外にブルーベリーの木が見えた。少し前より大きくなっただろうか。葉が増えたような気がする。

(オリヴィア……最近はなかなか話せていないな)

 同じ屋敷に住んでいるというのに、最近は顔を合わせていない。ブルーベリーの木を見ていると、ふと栗色の頭が見えた。
 オリヴィアが侍女たちと花壇の世話をしているようだった。

「あ、そうでした、ブランシュ卿。実は今日、奥様からこちらをいただきました。ありがとうございます」
「ああ、手作りのクッキーか。オリヴィアがそんなことを……」

 フレデリカが取り出したのは可愛らしくラッピングされたクッキーの袋だった。
 オリヴィアは菓子作りが得意だ。きっとカイルがいない間に作ってくれたのだろう。時々執務室に届けられていることもある菓子をカイルは楽しみにしていた。

「君にはいつも助けられているからな。妻も感謝してくれているのだろう」
「……可愛らしい奥様ですね」
「?」

 ふふ、とフレデリカが笑う。
 確かにオリヴィアは可愛らしいが。
 意図するところがわからず、ぱちぱちと瞬いていると耐えきれずにフレデリカが笑う。

「奥様は、私に釘を刺したのですよ。最近、私が仕事とはいえブランシュ卿とずっと一緒なのでご心配になったのでしょう。安心させてあげてください」
「ええ!?」

 まったく予想していなかった答えにカイルは思わず素で驚いた。
 カイルはどうもオリヴィアからの好意に自信が持てない。
 結婚式当日に『結婚は家と家との契約。夫婦は上辺だけの関係』と言われてしまったのだから、仕方のない部分でもある。
 もちろんこの半年で、オリヴィアが少しずつカイルに心を許してくれているのも感じていたが。

「奥様からは『夫が大変お世話になっております。仕事での夫はどのような感じなのでしょうか? どんなお話をされているのですか?』と根掘り葉掘り聞かれましたよ。私はちゃんと自分には婚約者がいますのでと言っておきましたけど」
「それでオリヴィアが納得するかどうかは微妙だな……」

 なにしろ浮気上等な家族の中で育ったオリヴィアだ。婚約者がいようと恋愛と結婚は別なので浮気する可能性はあると思っていそうだ。フレデリカには大変失礼な話だが。

「オリヴィアが嫉妬……そんなことがあるのか……?」
「ご夫婦ですから普通のあるのでは?」

 事情を知らないフレデリカは怪訝な顔をしているが、カイルにとっては奇跡のような話だ。
 とにかくオリヴィアを不安にしておくわけにはいかない、とその日は早めに仕事を切り上げることにしたのだった。
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