君を愛する権利がほしいと言う彼は他の誰かを愛している(に違いないと思われている)

葉月くらら

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「オリヴィア、最近何か変わったことはあるか?」
「いいえ? いたって平穏な日々です。カイル様がお忙しすぎるので、お身体が心配ですが」

 その日の晩、久しぶりに夕食を共にしたカイルはそわそわと正面に座るオリヴィアの様子を伺った。
 最近新しく花壇に植えた花の話や、新しく挑戦したお菓子のレシピの話。屋敷の侍女達と一緒に刺繍を始めた話。それに夜会で知り合った貴族の婦人達のお茶会に招かれた話など、どれも他愛もない、とても平和な話ばかりだ。
 そんなオリヴィアの話しを聞くのも心癒されて楽しいのだが、聞きだしたいのはフレデリカのことだ。

「その、フレデリカ・フェルトン殿にも菓子を送ったと聞いたんだが」
「ええ、カイル様がお世話になっていますので」

 その表情には嫉妬なんてまったく見えない。
 きゅるんとした大きな瞳でオリヴィアは喜んでもらえましたでしょうか? なんてのんきに言っているのを聞いて、カイルは内心脱力した。
 これはフレデリカが考えすぎだったのだろう。
 そして少しだけ残念に感じている自分にカイルはため息をついた。
 ――嫉妬してもらえたら嬉しい、なんてあまりにも大人げない。
 彼女が不安を感じていないのなら、それが一番じゃないか。
 そう考えて無理やり自分を納得させた。


 その日の晩、カイルは雨が風で窓に打ち付けられる音で目を覚ました。

「……しまった、眠ってしまっていたか」

 夜半まで執務室で仕事をしていたカイルは、そのまま机に突っ伏して眠っていたらしい。
 窓は風でカタカタと揺れて、ザァザァと雨が打ち付けてくる。いつの間にか降り出した雨はまるで嵐のようだった。
 外の様子を見ようと窓に近づくと、花壇の方に誰かが走っていくのが見えた。
 雨除けの外套から栗色の長い髪がひと房、零れ落ちている。

「……オリヴィア!?」

 時刻はすでに真夜中だ。
 屋敷の人々はほとんどが寝静まっている。どうしてこんな時間にオリヴィアが一人で庭に出て行くのだろう。
 慌ててカイルも外に飛び出した。

「オリヴィア!」
「……カイル様!?」

 外に出ると風が思った以上に強い。
 花壇の花はすでに風で大部分が散ってしまっていた。オリヴィアは今にも風で折れそうなブルーベリーの木に支柱を立て保護用のシートをかけようとしていた。
 強い風に吹かれてバランスを崩したオリヴィアをカイルが支える。

「こんな時に一体何を……」
「雨の音で目を覚ましたら外がこんな有様でしたので。このままだとブルーベリーの木が折れてしまうと思ったので」
「それなら誰かを呼べばよかっただろう。こんなに濡れて」
「すみません。ブルーベリーの木が嵐で折れそうになっている姿を見たら、いてもたってもいられなくて」

 仕方ない、とカイルがオリヴィアの手から支柱を取ると手早く木に沿わせて立てて固定した。それから二人で風よけのシートを設置する。
 終わる頃には二人ともずぶ濡れだった。

「お、奥様! 旦那様! すぐにお湯とタオルの準備を!」
「すまない、オリヴィアを先に頼む」

 屋敷に戻ると、二人の様子に気がついた使用人が慌てて二人にタオルを渡してくれた。
 これではすぐにでも温まらないと風邪をひいてしまうだろう。

「カイル様、申し訳ありません……。ご迷惑を」
「……迷惑ではない。だがあまり心配させないでくれ」
「ごめんなさい。でも、嫌だったんです。どうしても、あのブルーベリーが折れてしまうのは」

 そんなに嫌だったのか、とカイルは意外に思った。
 基本的にオリヴィアはあっさりしている。何事にもそこまで執着しない。だから彼女がたった一本のブルーベリーの木にこだわる理由がわからなかった。

「また植えるのでは駄目なのか?」
「駄目です。だってあれは、カイル様と二人で一緒に植えた、ブルーベリーですから」
「奥様、湯あみの準備が整いましたよ」

 カイルが何か口を開く前に、オリヴィアは侍女によりさっさと浴場へ連れて行かれてしまったのだった。
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