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勇者と魔王
新しい世界と自己紹介(エピローグ?)
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僕が精霊とこの世界に来てから一体どれほどの時が過ぎただろうか?
あの世界から転移してきてから、まず僕は自分に起こった影響を確認した。禁忌の魔法の使用の後遺症は思っていたのとはだいぶ違っていた。
まずアイオーンは精霊としての力をほぼすべて失い、黒刀に変化する能力だけが残った。とはいっても刀としての機能である、不壊という性質と圧倒的なまでの切れ味は健在である。そして常に実体をもつようになり、その姿は20歳のお姉さんではなく、10歳になるかどうかの幼女に変貌を遂げた。転移してきた当時は、自分の姿を見るなり胸のあたりをじっと見つめながら一晩中さめざめと泣いていた。まぁ、気持ちはわかる。アイ(アイオーンの愛称)の場合精霊なので成長するという概念がない。よって永遠にその姿のまま。もちろん“時の魔法”の力も失われその行使権は僕に委譲した。そこはあまり気にしてないようだ。とは言いつつも僕の体の時間も止まってしまったのだが。大体15歳くらいだろうと思うのだが、女顔の影響か少し幼く見えてしまう。僕とアイは、銀髪で蒼と紅のオッドアイ。隣に並ぶと誰が見ても兄妹に見える。そのくらいだろうか禁忌の魔法の影響は。
そしてこの数百年(数千年だったかな?)の間何をしていたのかというと簡単にいえば冒険者になって依頼をこなし、自分のギルドを創った。そして金を稼いだ後、引きこもった。
ギルドとは、パーティーのような一時の集まりではなく、様々な掟にのっとって冒険者同士が集まり活動する組織である。そして創設は冒険者ギルドでしかるべき手続きをして初めてギルドと認められる。
「でもでも。マスターはしかるべき手続き?とってませんよね?」
アイの言う通り、僕は冒険者ギルドで手続きをとっていない。そう言うギルドのことを蔑称で“野良ギルド”“孤立ギルド”などと呼ばれ、一般的に恥にしかならないためほとんど存在しない。
僕のギルドをなぜ正規手続きしなかったのかは、まぁ単に冒険者ギルドに活動報告をするのや、過剰に探られるのを防ぐためだったりする。なにせ秘密が多いので。
「にぃに・・・・人付き合い苦手」
そのような理由もあって一般的にギルドは20人から50人、有名ギルドなら100人を超えるが、僕のギルドは僕を入れてたった5人しかいない。
「静かにするのなの。マスターが説明しているのなの」
冒険者にはランクがあり、それぞれF、E、D、C、B、A、S、SS ランクがあり、Bで一人前、Sが人間の最高峰、SSで化け物レベルといわれている。実はその上にXランクが存在し、3人いるといわれているが2人は世界2大ギルドのマスターであり、神聖視されているものの、3人目は空想の人物といわれていたりする。なにせ人前に姿は現さないし、目撃情報も皆無。知っている者の数も両手の指の数で足りている。だが噂によればその3人目は他の2人とは別格の実力を持っているんだとかいないんだとか。
「マスターですよね。3人目のXランクって?そうですよね?」
そう。この僕が3人目のXランクだったりする……って
「簡単にばらすんじゃない。面白くないだろ。」
思わず突っ込んでしまった。先ほどからちょくちょく話に割り込んで来てるのが、僕のギルドメンバーであり、自慢の弟子たちだ。
上からアイ(アイオーンから略して新しくつけた名前)、ノア、ユヅキ、コハク、という。姓はない。では気を取り直して自己紹介と行こうか。
「僕は孤独ギルド“幻想”のマスターを務めているノワールというものです。Xランクで主に“時空魔法”“刀術”“霊術全般”を使って戦闘する。見た目は15歳。よろしく」
「いきなりどうしたんですか、マスター?」
「いいから読者様に自己紹介しなさい」
「ええ!?読者様って何?まぁいっか。私はアイオーン。アイって呼んでね。戦闘力は皆無だけど、マスターの精霊として黒刀になってマスターの手助けをするんだ!趣味は~」
「はい、そこまで。にぃに、次はノアのばん」
「わかった。じゃあノアよろしく」
「えっ!?ちょっ、まだ言い終わって……」
「ん。ノアのなまえは……ノアっていう。SSランク。にぃにが……きたえてくれた“氷霊術”“2丁銃術”をつかう。見た目は11歳。よろしく」
「じゃあ次は、わたしがするの。わたしの名前はユヅキっていうの。ノアちゃんと一緒でSSランクなの。マスターに死ぬほどしごかれた“雷霊術”“鎌術”を使うの。見た目は13歳なの。 それにしてもあの修行は思い出したくないの……地獄なの!なんでみんな生きてるのか不思議なの!だってふつうは初めて戦う魔物はゴブリンとかスライムなの。だけど私の初体験は……リッチキングなの、Aランクの魔物なの!死ぬかと思ったの。実際に腕と足、一本ずつ持ってかれたの。そしたらマスターが時魔法で一瞬で元に戻してまた行けって。鬼なの。鬼畜なの。当時は本当に13歳だったの。かよわい女の子だったの。それなのにマスターは……ぶつぶつぶつ…………」
「姉がどこかにイってしまったので最後に私が自己紹介します。私の名はコハク。ユヅキとは双子で私が妹になります。SSランクです。マスターに鍛えていただいた“斥力霊術”“双剣術”を使います。趣味は家事全般です。どうぞよろしくお願いします。これでいいのでしょうか?マスター?聞いてますか?」
「………………っは!」
思わず眠ってしまった。ユヅキの僕に対する呪詛を聞いていたらいつのまにか眠気が。
「じー―」
「おほん。とりあえず自己紹介は終わったな。とりあえず、これからよろしく」
「だからマスター。誰に向かって言ってるの。ここには私たちしかいないの」
「姉さん。ちゃんといるではないですか。読者様が目の前に」
「はっ!!ほんとなの!マスターのことロリコンて思ってる人たちがたくさんいるのなの!」
「僕はロリコンではない。年齢詐称、見た目詐欺だろ全員」
「「「「マスター(にぃに)ほどじゃないけどね(なの)」」」」
「アイ……なぜお前までそんなこと言うんだ」
「さっきノアちゃんとマスターに無視されたからそのお返しだよっ」
「アイのおはなし、ながい。ね?にぃに?」
首をかしげながら小動物顔負けのかわいらしい仕草で同意を求めてくるノアに対して、少しアイに対する罪悪感を感じていた僕だったが。
「……ま、そうだな」
思わず同意してしまった。
「その間は何?本気で泣くよ!」
本気で拗ねそうになるアイを全力でなだめる。見た目10歳の幼女を抱きしめながら頭をなでる僕が大の大人だったら変質者。だが僕は見た目15歳。兄妹で通るセーフラインだ。そもそも僕はロリコンじゃない。みんな、自己紹介の時“見た目は”といっていただろう?僕を含めて数百年をみんな生きているからだ。本人たちの希望で修行をつけ、これまた本人たちの希望で全員の体の時間を止めて(ちょっと語弊がある。一人は勝手に不老になりやがったし。)、実質上の不老であるからだ。しかしなぜか口調からも幼さが抜けないのか不思議だが。
「じゃあみんな。もう今日は遅いから寝るか。自分の部屋に行きなさい」
「にぃに、ノアと一緒にねる」
するとなぜかノアがすがるように僕にお願いしてくる。まぁ理由はわかるが。
「あー!ノアちゃん抜け駆けはずるいのなの~」
「姉さん。早く部屋に行きますよ」
空気が読めない姉にしっかりとした妹が自分たちの部屋に連れていく。
♦♦♦
僕もそのままベットに倒れこんだ。ここは僕たちの家であり、ギルドハウスでもある。
前の世界で家族に捨てられた僕が、違う世界で家族と呼べる弟子を持つことになるとは皮肉なものだ。だけど僕にとっては数百年を一緒に過ごした大切な仲間なのである。絶対に命を懸けても守ると決めている。まぁ強くしすぎて、よっぽどな限り死なないと思うが。
今日は特別な日。僕が転移してきた日。一年の中でこの日だけは夢をみる。あの日の夢を。僕の大切なヒトが犯されそうになって、僕の兄に殺されて……なのに僕は間に合わなくて。
体の芯から熱くて狂おしい怒りが湧き上がってくる。全身から汗が噴き出して眠れる気がしない。
その時、僕のベッドに上がり込んでくる気配が一つ。
「ノアか?一緒に寝るって言ってたもんな?」
僕は平気な風を装って話しかける。
「にぃに、ノアどこにもいかないよ」
ノアがあおむけの僕のおなかの上に乗ってきてそのまま細くてきれいな腕をいっぱいに広げて抱き着いてくる。可愛らしく自己主張してくる小さな胸がおなかをこすってきて少し心地いい。整った人形めいた顔を甘えるようにうずめてくる。暗くてもわかる美しい青色の髪をなでてあげると「んぅっ」と幼さ故にに少し艶やかな雰囲気のある声を上げる。
「心配させたな。ごめん。今日は僕の苦い記憶の日だけれどノアと出会った日でもあるよな?」
「ん。にぃには、そのセナってヒト、たすけられなかったかも、しれないけど。ノアのことはたすけてくれたよ?まっくらなやみのせかいから、たすけてくれた。てきしかいないなかで、にぃにだけがノアのことたすけてくれた」
この世界にアイと転移してきたしばらくたってからだった。周囲の悪意にのまれそうになるこの子をほっとけなかった。それはただの贖罪だったのかもしれないけれど。この世界で初めての仲間。弟子たちの中で一番溺愛してしまっていることを自分でさえ自覚している。
ノアがうずめていた顔を少しずらして僕の鎖骨当たりを甘噛みしてくる。まるで何かを忘れたいと、一層激しく甘えてくる。
「んちゅっ。……にぃにも……にぃにも……して?」
「ノアにとってもつらい日だもんな。自分からしてくるなんてらしくないぞ」
「こうしたらもっと、にぃに、コーフンするってアイがいってたよ?」
ふむ。いつも受け身のノアが今日に限って積極的なのはアイの入れ知恵か。後でお仕置きだな、まったく。
え?自分の弟子たちと“なんてことしてんだ!”て?考えてもみろ。
数百年もこんなかわいい娘たちと同じ家に住んでて我慢できるわけねーだろ。僕も男なの。ちなみにアイも含めた全員としているぞ。何をとは言わないが。
「ノア、こわいゆめ、みたくない。そんなのわすれられるくらい、はげしくして?にぃに、はやくぅ……」
読者の諸君、このような甘えられ方を鎖骨を甘噛みされながらされることを想像してみろ。無理だろ。我慢できないだろ?僕も無理だ。というわけで僕はノアを精一杯かわいがることにするよ。うらやましかったら自分たちもしてもらえばいい。かつ丼とやらを食わされる事態になっても知らないけど。
今日は特別な日。毎年変わらずやってくるその日を、これからもずっと忘れずいられるように。少年は過去の残響を心の奥底に追いやり、少女はかつての自分を忘れようとするのだった。
あの世界から転移してきてから、まず僕は自分に起こった影響を確認した。禁忌の魔法の使用の後遺症は思っていたのとはだいぶ違っていた。
まずアイオーンは精霊としての力をほぼすべて失い、黒刀に変化する能力だけが残った。とはいっても刀としての機能である、不壊という性質と圧倒的なまでの切れ味は健在である。そして常に実体をもつようになり、その姿は20歳のお姉さんではなく、10歳になるかどうかの幼女に変貌を遂げた。転移してきた当時は、自分の姿を見るなり胸のあたりをじっと見つめながら一晩中さめざめと泣いていた。まぁ、気持ちはわかる。アイ(アイオーンの愛称)の場合精霊なので成長するという概念がない。よって永遠にその姿のまま。もちろん“時の魔法”の力も失われその行使権は僕に委譲した。そこはあまり気にしてないようだ。とは言いつつも僕の体の時間も止まってしまったのだが。大体15歳くらいだろうと思うのだが、女顔の影響か少し幼く見えてしまう。僕とアイは、銀髪で蒼と紅のオッドアイ。隣に並ぶと誰が見ても兄妹に見える。そのくらいだろうか禁忌の魔法の影響は。
そしてこの数百年(数千年だったかな?)の間何をしていたのかというと簡単にいえば冒険者になって依頼をこなし、自分のギルドを創った。そして金を稼いだ後、引きこもった。
ギルドとは、パーティーのような一時の集まりではなく、様々な掟にのっとって冒険者同士が集まり活動する組織である。そして創設は冒険者ギルドでしかるべき手続きをして初めてギルドと認められる。
「でもでも。マスターはしかるべき手続き?とってませんよね?」
アイの言う通り、僕は冒険者ギルドで手続きをとっていない。そう言うギルドのことを蔑称で“野良ギルド”“孤立ギルド”などと呼ばれ、一般的に恥にしかならないためほとんど存在しない。
僕のギルドをなぜ正規手続きしなかったのかは、まぁ単に冒険者ギルドに活動報告をするのや、過剰に探られるのを防ぐためだったりする。なにせ秘密が多いので。
「にぃに・・・・人付き合い苦手」
そのような理由もあって一般的にギルドは20人から50人、有名ギルドなら100人を超えるが、僕のギルドは僕を入れてたった5人しかいない。
「静かにするのなの。マスターが説明しているのなの」
冒険者にはランクがあり、それぞれF、E、D、C、B、A、S、SS ランクがあり、Bで一人前、Sが人間の最高峰、SSで化け物レベルといわれている。実はその上にXランクが存在し、3人いるといわれているが2人は世界2大ギルドのマスターであり、神聖視されているものの、3人目は空想の人物といわれていたりする。なにせ人前に姿は現さないし、目撃情報も皆無。知っている者の数も両手の指の数で足りている。だが噂によればその3人目は他の2人とは別格の実力を持っているんだとかいないんだとか。
「マスターですよね。3人目のXランクって?そうですよね?」
そう。この僕が3人目のXランクだったりする……って
「簡単にばらすんじゃない。面白くないだろ。」
思わず突っ込んでしまった。先ほどからちょくちょく話に割り込んで来てるのが、僕のギルドメンバーであり、自慢の弟子たちだ。
上からアイ(アイオーンから略して新しくつけた名前)、ノア、ユヅキ、コハク、という。姓はない。では気を取り直して自己紹介と行こうか。
「僕は孤独ギルド“幻想”のマスターを務めているノワールというものです。Xランクで主に“時空魔法”“刀術”“霊術全般”を使って戦闘する。見た目は15歳。よろしく」
「いきなりどうしたんですか、マスター?」
「いいから読者様に自己紹介しなさい」
「ええ!?読者様って何?まぁいっか。私はアイオーン。アイって呼んでね。戦闘力は皆無だけど、マスターの精霊として黒刀になってマスターの手助けをするんだ!趣味は~」
「はい、そこまで。にぃに、次はノアのばん」
「わかった。じゃあノアよろしく」
「えっ!?ちょっ、まだ言い終わって……」
「ん。ノアのなまえは……ノアっていう。SSランク。にぃにが……きたえてくれた“氷霊術”“2丁銃術”をつかう。見た目は11歳。よろしく」
「じゃあ次は、わたしがするの。わたしの名前はユヅキっていうの。ノアちゃんと一緒でSSランクなの。マスターに死ぬほどしごかれた“雷霊術”“鎌術”を使うの。見た目は13歳なの。 それにしてもあの修行は思い出したくないの……地獄なの!なんでみんな生きてるのか不思議なの!だってふつうは初めて戦う魔物はゴブリンとかスライムなの。だけど私の初体験は……リッチキングなの、Aランクの魔物なの!死ぬかと思ったの。実際に腕と足、一本ずつ持ってかれたの。そしたらマスターが時魔法で一瞬で元に戻してまた行けって。鬼なの。鬼畜なの。当時は本当に13歳だったの。かよわい女の子だったの。それなのにマスターは……ぶつぶつぶつ…………」
「姉がどこかにイってしまったので最後に私が自己紹介します。私の名はコハク。ユヅキとは双子で私が妹になります。SSランクです。マスターに鍛えていただいた“斥力霊術”“双剣術”を使います。趣味は家事全般です。どうぞよろしくお願いします。これでいいのでしょうか?マスター?聞いてますか?」
「………………っは!」
思わず眠ってしまった。ユヅキの僕に対する呪詛を聞いていたらいつのまにか眠気が。
「じー―」
「おほん。とりあえず自己紹介は終わったな。とりあえず、これからよろしく」
「だからマスター。誰に向かって言ってるの。ここには私たちしかいないの」
「姉さん。ちゃんといるではないですか。読者様が目の前に」
「はっ!!ほんとなの!マスターのことロリコンて思ってる人たちがたくさんいるのなの!」
「僕はロリコンではない。年齢詐称、見た目詐欺だろ全員」
「「「「マスター(にぃに)ほどじゃないけどね(なの)」」」」
「アイ……なぜお前までそんなこと言うんだ」
「さっきノアちゃんとマスターに無視されたからそのお返しだよっ」
「アイのおはなし、ながい。ね?にぃに?」
首をかしげながら小動物顔負けのかわいらしい仕草で同意を求めてくるノアに対して、少しアイに対する罪悪感を感じていた僕だったが。
「……ま、そうだな」
思わず同意してしまった。
「その間は何?本気で泣くよ!」
本気で拗ねそうになるアイを全力でなだめる。見た目10歳の幼女を抱きしめながら頭をなでる僕が大の大人だったら変質者。だが僕は見た目15歳。兄妹で通るセーフラインだ。そもそも僕はロリコンじゃない。みんな、自己紹介の時“見た目は”といっていただろう?僕を含めて数百年をみんな生きているからだ。本人たちの希望で修行をつけ、これまた本人たちの希望で全員の体の時間を止めて(ちょっと語弊がある。一人は勝手に不老になりやがったし。)、実質上の不老であるからだ。しかしなぜか口調からも幼さが抜けないのか不思議だが。
「じゃあみんな。もう今日は遅いから寝るか。自分の部屋に行きなさい」
「にぃに、ノアと一緒にねる」
するとなぜかノアがすがるように僕にお願いしてくる。まぁ理由はわかるが。
「あー!ノアちゃん抜け駆けはずるいのなの~」
「姉さん。早く部屋に行きますよ」
空気が読めない姉にしっかりとした妹が自分たちの部屋に連れていく。
♦♦♦
僕もそのままベットに倒れこんだ。ここは僕たちの家であり、ギルドハウスでもある。
前の世界で家族に捨てられた僕が、違う世界で家族と呼べる弟子を持つことになるとは皮肉なものだ。だけど僕にとっては数百年を一緒に過ごした大切な仲間なのである。絶対に命を懸けても守ると決めている。まぁ強くしすぎて、よっぽどな限り死なないと思うが。
今日は特別な日。僕が転移してきた日。一年の中でこの日だけは夢をみる。あの日の夢を。僕の大切なヒトが犯されそうになって、僕の兄に殺されて……なのに僕は間に合わなくて。
体の芯から熱くて狂おしい怒りが湧き上がってくる。全身から汗が噴き出して眠れる気がしない。
その時、僕のベッドに上がり込んでくる気配が一つ。
「ノアか?一緒に寝るって言ってたもんな?」
僕は平気な風を装って話しかける。
「にぃに、ノアどこにもいかないよ」
ノアがあおむけの僕のおなかの上に乗ってきてそのまま細くてきれいな腕をいっぱいに広げて抱き着いてくる。可愛らしく自己主張してくる小さな胸がおなかをこすってきて少し心地いい。整った人形めいた顔を甘えるようにうずめてくる。暗くてもわかる美しい青色の髪をなでてあげると「んぅっ」と幼さ故にに少し艶やかな雰囲気のある声を上げる。
「心配させたな。ごめん。今日は僕の苦い記憶の日だけれどノアと出会った日でもあるよな?」
「ん。にぃには、そのセナってヒト、たすけられなかったかも、しれないけど。ノアのことはたすけてくれたよ?まっくらなやみのせかいから、たすけてくれた。てきしかいないなかで、にぃにだけがノアのことたすけてくれた」
この世界にアイと転移してきたしばらくたってからだった。周囲の悪意にのまれそうになるこの子をほっとけなかった。それはただの贖罪だったのかもしれないけれど。この世界で初めての仲間。弟子たちの中で一番溺愛してしまっていることを自分でさえ自覚している。
ノアがうずめていた顔を少しずらして僕の鎖骨当たりを甘噛みしてくる。まるで何かを忘れたいと、一層激しく甘えてくる。
「んちゅっ。……にぃにも……にぃにも……して?」
「ノアにとってもつらい日だもんな。自分からしてくるなんてらしくないぞ」
「こうしたらもっと、にぃに、コーフンするってアイがいってたよ?」
ふむ。いつも受け身のノアが今日に限って積極的なのはアイの入れ知恵か。後でお仕置きだな、まったく。
え?自分の弟子たちと“なんてことしてんだ!”て?考えてもみろ。
数百年もこんなかわいい娘たちと同じ家に住んでて我慢できるわけねーだろ。僕も男なの。ちなみにアイも含めた全員としているぞ。何をとは言わないが。
「ノア、こわいゆめ、みたくない。そんなのわすれられるくらい、はげしくして?にぃに、はやくぅ……」
読者の諸君、このような甘えられ方を鎖骨を甘噛みされながらされることを想像してみろ。無理だろ。我慢できないだろ?僕も無理だ。というわけで僕はノアを精一杯かわいがることにするよ。うらやましかったら自分たちもしてもらえばいい。かつ丼とやらを食わされる事態になっても知らないけど。
今日は特別な日。毎年変わらずやってくるその日を、これからもずっと忘れずいられるように。少年は過去の残響を心の奥底に追いやり、少女はかつての自分を忘れようとするのだった。
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