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勇者と魔王
過去編:勇者と魔王のお話
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世界のシステムというものはどこにでも存在すると僕は思っている。つまりそれは常識と呼ばれるもののことだ。勇者と魔王の関係も同じだと僕は考えている。この世界にも勇者の英雄譚は存在するし実際に魔王も勇者も一定周期で存在する。たしか150年ごとに両者が生まれるはずだ。
僕は自分のギルドハウスの書庫に収まっている最も新しい勇者の英雄譚を手にとって開いた。もう何回読んだだろうか、その内容はすべて覚えている。長寿の種族を除けばふつうは100歳前後が寿命だが、戦いが常の世界においてそこまで生きていられる者はすくない。この本の出来事も多くの者にとっては“過去の出来事”だろう。だが僕たちにとってはついこの前の出来事だ。何が起きたかもすべて知っている。どこまでが事実なのかも。
僕の手にある6代目勇者の英雄譚。光の力を神より授かった勇者は闇の力を持った魔王を打倒し、世界を救うお話。すべての英雄譚にも共通していることは勇者が絶対に勝ち魔王は絶対に負けて消滅するということだ。
―その昔、絶大な闇の力を持った魔王はその力で魔族を束ね悪逆非道の限りを尽くした。力を持たない人々を虐殺し世界を絶望に染めた―
―正義の勇者はその魔王の行為に激怒し、対となる光の力を持って立ち向かう。勇者パーティーは勇者を中心に一丸となり魔王に立ち向かった―
―魔王はものすごい勢いで力をつける勇者たちを恐れ、多くの魔族を勇者のもとに放つがそのことごとくを勇者は打ち破りさらなる力をつけていった―
―勇者パーティーはついに魔王城にたどり着きその王座に満身創痍になりながらもたどり着いた―
―勇者は魔王に訪ねた“なぜこんなひどいことができるんだ!”と。魔王は何も答えなかった―
―勇者は訪ねた“もうこんなことはやめろ!人の命を弄ぶなんて!命を何だと思っているんだ!”と。魔王はただ笑うだけで何も答えなかった―
―もはや何を言っても通じないと思った勇者は魔王に向かって聖剣を抜き放った―
―最初は魔王が圧倒していた。が、窮地に陥るたびに勇者の力は上がっていき、ついに勇者の聖剣は魔王の胸に突き刺さった。―
―魔王を滅した6代目勇者は救世の勇者として人々にたたえられた―
大まかなあらすじはこんなものだろうか。悪の魔王に正義の勇者は立ち向かい、窮地に陥れば覚醒し、最後には魔王を打倒し、多くの民を救った。結果多くの国々、特に勇者が生まれた王都はその後大きく発展していったという。
実に良い話だ。多くの子供が勇者に憧れるのもわかる。みんなが勇者を褒め称える。勇者様のようになりたいと夢見る子も多いだろう。本を読む者たちは思う。正義は必ず勝ち、悪は滅びるのだと。魔王なんか滅びるのが当然だと。勇者こそが正義であり勝つのが当然だろうと。そしてそれを誰もが望んでいる。
誰もがその結果を受け入れ信じる。勇者が正義の味方であることを疑わない。勇者は正義であることを自ら、または他人から定義され人々を救うのだ。
本には他にもいろいろと書かれている。勇者の苦悩。その仲間たちの苦労。どのように成長していったのか。
最後のページは勇者が王都の姫様と結ばれ、その華々しい式典の様子がとてもきれいに描かれていた。誰もが認めるハッピーエンド。
そっと本を閉じる。実に良い話だ。
そして……なんて愚かで、無知で、傲慢な本なのだろう。
僕は知っている。いや誰でも知っている。魔王や魔族には魔物とは違い知能があることを。そしてほとんどの者が知らない。魔王がどうやって生まれるのか。人々は考えない、魔王側の気持ちを。自分たちは正義だと信じて疑わないその心は思考を停止させる。
だから届かないのだ。決して誰にもそれが届くことは無い。
魔王の叫びが。願いが。魔王の胸を焦がすその想いを伝えるものは誰もいない。
世界のシステムは世界の均衡を守る。
僕はすべての勇者と魔王の物語を知っている。いや実際に視てきた。
どれも似たような物語だ。
すべての魔王は勇者の前で散っていった。最期の瞬間……顔を憎悪に染めながら。
その憎悪の正体を僕は知っている。
僕自身、今更正義を振りかざす気はない。自分は自分のために、大切なヒトのために多くを犠牲にしてきた。あの世界でも、この世界でも。
ただ一回だけ、僕はその物語に干渉した。してしまった。後悔はしていない。ただ、自分の行いがいかに身勝手なことか、それを考えると少し気分が悪くなる。
今、弟子たちは出かけている。買い出しにでも行っているのか。僕は今、一人でいるからだろうか。少し自分の記憶の蓋をそっと開けてみる。
初代魔王、その記録だけは存在しない。ただ魔王がいた。どこへ消えたのかも誰も知らない。
僕は思い出す。懐かしい記憶だ。
初代魔王、リグレクト・ノア・テノールライト。
勇者と魔王の物語の中で、唯一人、最期の瞬間、笑いながら一筋の涙を目からこぼした魔王。
僕は自分のギルドハウスの書庫に収まっている最も新しい勇者の英雄譚を手にとって開いた。もう何回読んだだろうか、その内容はすべて覚えている。長寿の種族を除けばふつうは100歳前後が寿命だが、戦いが常の世界においてそこまで生きていられる者はすくない。この本の出来事も多くの者にとっては“過去の出来事”だろう。だが僕たちにとってはついこの前の出来事だ。何が起きたかもすべて知っている。どこまでが事実なのかも。
僕の手にある6代目勇者の英雄譚。光の力を神より授かった勇者は闇の力を持った魔王を打倒し、世界を救うお話。すべての英雄譚にも共通していることは勇者が絶対に勝ち魔王は絶対に負けて消滅するということだ。
―その昔、絶大な闇の力を持った魔王はその力で魔族を束ね悪逆非道の限りを尽くした。力を持たない人々を虐殺し世界を絶望に染めた―
―正義の勇者はその魔王の行為に激怒し、対となる光の力を持って立ち向かう。勇者パーティーは勇者を中心に一丸となり魔王に立ち向かった―
―魔王はものすごい勢いで力をつける勇者たちを恐れ、多くの魔族を勇者のもとに放つがそのことごとくを勇者は打ち破りさらなる力をつけていった―
―勇者パーティーはついに魔王城にたどり着きその王座に満身創痍になりながらもたどり着いた―
―勇者は魔王に訪ねた“なぜこんなひどいことができるんだ!”と。魔王は何も答えなかった―
―勇者は訪ねた“もうこんなことはやめろ!人の命を弄ぶなんて!命を何だと思っているんだ!”と。魔王はただ笑うだけで何も答えなかった―
―もはや何を言っても通じないと思った勇者は魔王に向かって聖剣を抜き放った―
―最初は魔王が圧倒していた。が、窮地に陥るたびに勇者の力は上がっていき、ついに勇者の聖剣は魔王の胸に突き刺さった。―
―魔王を滅した6代目勇者は救世の勇者として人々にたたえられた―
大まかなあらすじはこんなものだろうか。悪の魔王に正義の勇者は立ち向かい、窮地に陥れば覚醒し、最後には魔王を打倒し、多くの民を救った。結果多くの国々、特に勇者が生まれた王都はその後大きく発展していったという。
実に良い話だ。多くの子供が勇者に憧れるのもわかる。みんなが勇者を褒め称える。勇者様のようになりたいと夢見る子も多いだろう。本を読む者たちは思う。正義は必ず勝ち、悪は滅びるのだと。魔王なんか滅びるのが当然だと。勇者こそが正義であり勝つのが当然だろうと。そしてそれを誰もが望んでいる。
誰もがその結果を受け入れ信じる。勇者が正義の味方であることを疑わない。勇者は正義であることを自ら、または他人から定義され人々を救うのだ。
本には他にもいろいろと書かれている。勇者の苦悩。その仲間たちの苦労。どのように成長していったのか。
最後のページは勇者が王都の姫様と結ばれ、その華々しい式典の様子がとてもきれいに描かれていた。誰もが認めるハッピーエンド。
そっと本を閉じる。実に良い話だ。
そして……なんて愚かで、無知で、傲慢な本なのだろう。
僕は知っている。いや誰でも知っている。魔王や魔族には魔物とは違い知能があることを。そしてほとんどの者が知らない。魔王がどうやって生まれるのか。人々は考えない、魔王側の気持ちを。自分たちは正義だと信じて疑わないその心は思考を停止させる。
だから届かないのだ。決して誰にもそれが届くことは無い。
魔王の叫びが。願いが。魔王の胸を焦がすその想いを伝えるものは誰もいない。
世界のシステムは世界の均衡を守る。
僕はすべての勇者と魔王の物語を知っている。いや実際に視てきた。
どれも似たような物語だ。
すべての魔王は勇者の前で散っていった。最期の瞬間……顔を憎悪に染めながら。
その憎悪の正体を僕は知っている。
僕自身、今更正義を振りかざす気はない。自分は自分のために、大切なヒトのために多くを犠牲にしてきた。あの世界でも、この世界でも。
ただ一回だけ、僕はその物語に干渉した。してしまった。後悔はしていない。ただ、自分の行いがいかに身勝手なことか、それを考えると少し気分が悪くなる。
今、弟子たちは出かけている。買い出しにでも行っているのか。僕は今、一人でいるからだろうか。少し自分の記憶の蓋をそっと開けてみる。
初代魔王、その記録だけは存在しない。ただ魔王がいた。どこへ消えたのかも誰も知らない。
僕は思い出す。懐かしい記憶だ。
初代魔王、リグレクト・ノア・テノールライト。
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