家族

水流見カンゴ

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「お父さん」と「わたし」

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 お父さんは「男」ということもあり、なかなか慣れなかった。優しさは感じていたが、どこかで信頼していいのかという迷いがあった。散歩していてもわたしの後ろにいることが不安で仕方がなかった。

 ある日、「お客さま」という人間が家に来た。その人は「女」だった。なぜかわたしはその人間のことが好きにはなれなかった。男ではないが、わたしを蔑視しているように見えて、好きにはなれなかった。あゆみもかおりも、そしてお母さんでさえその人間をあまり好きではない様子が窺えた。わたしは吠えた。吠えても吠えても嫌悪感が消え去らない。いつも以上に吠えているわたしをみてお父さんが怒った。手を振り上げた。わたしは昔を思い出した。案の定、頭を叩かれてしまった。

??、、、痛くない、、、

お父さんの顔を見ると声は怒っていたが表情からは怒りが感じられなかった。わたしを叩いた手も頭に触れる直前までは勢いよく振り下ろしているのだが、頭に触れる直前に手を止め、叩くというより頭の上に手を乗せているだけだった。
 お父さんはいつもそうだった。声だけを聞くと怒っているのだが、わたしに対して痛い事は全くしなかった。お父さんが怖くない人だと気づくのに時間は掛からなかった。

 お父さんはみんなに対しても優しかった。怒ったら一番怖いのだが、大抵の場合はお父さんが他の人間に怒られることが多かった。お父さんは外から帰ってくるといつも疲れているのだが、「お酒」という飲み物を飲むと元気になる。ほぼ毎日飲んでたと思う。その時にいつも「つまみ」という物を食べているのだが、上機嫌になったお父さんは時々そのつまみをわたしにくれた。

「ビビに変な物食べさせないで!」

そうあゆみからいつも怒られていた。でも、、、ごめん、あゆみ、、、わたしはつまみが大好きだったんだ。少し塩辛くて食べた後に飲む水まで美味しく感じさせてくれるつまみが大好きだった。あゆみに怒られて、いつかつまみをもらえなくなるのではとヒヤヒヤしたがお父さんはずっと食べさせてくれた。

 ある時、お父さんが「がん」という病気になった。みんなの表情が沈んでいたのを今でもよく覚えている。お父さんは帰ってきてからしばらくお酒もつまみもやめた。つまみを食べられないのは残念だったけど、病気を治すには必要なことと話しているのを聞いたからわたしは我慢した。つまみが食べられなくなることよりお父さんがいなくなるほうが嫌だったから。

 お父さんはしばらくして、お酒も飲めるようになったし、つまみも食べられるようになった。あゆみに怒られながらもまたわたしにつまみをくれた。美味しかった。また一緒に食べたい。今日は珍しくお酒を飲まずにわたしのそばにいる。
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