某国の皇子、冒険者となる

くー

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第2章 魔術師の試練

4. 思わぬ歓迎

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「きみ、とっても可愛いね」
ぞっとした。左頬に生温かいい吐息を感じた。俺の左隣のソファに男が座っていた。
「……っ!」
「「ノア!」」
右隣に座っていたエトワールが男から俺を引き離すため、腕を掴んで自らの方へ引き寄せた。
ウィルは剣の柄に手をかけ、「何者だ!」と語気荒く叫ぶように男に尋ねる。

男はククク…と喉の奥で押し殺したような笑いを漏らした。
「たしかに驚かせようとはしたけど…そんなに驚かなくてもいいじゃないか」
「あなたはもしかして……」
「そう、私こそが魔法の真髄を極めし大魔術師ホルデウム。この屋敷のあるじだ」
大魔術師ホルデウムと名乗った男は、三十代後半くらい。髪は黒と銀が半々に混ざったような色合いをしていて、眼の色は黒かった。口元にはホクロがある。背は185㎝くらいあるウィルよりも少し高そうだ。
歳をとった分、多少くたびれてはいるが端正な顔立ちをしていた。服装はあまり魔術師らしくはない。魔術師は魔力を高める効果のあるローブを着ているものだが、彼は違っていた。襟付きのシャツを着用し、豪奢な上着を肩に羽織っている。

「…こんな変態が?」
ウィル……代弁ありがとう。でもちょっと黙っとこうか、と目で合図を送る。

「私はノア・スタークと申します。こちらの二人は私の友人、ウィルとエトワール。二人はとても友人思いで、心配性なのです。ご無礼をお許しください」
「別に気にしてないよ。よく見たら、きみたち三人とも美形だし…その美しさに免じて許してあげようかな…フフフ」

ウィルが思いきり眉を顰めている。
その気持ちわかる――こんな変態めいた発言をするヤツが、高名な魔術師?誰か嘘だと言ってくれ……



「ノア!素敵な名前だね」

魔術師の言動を省みて、弟子入りしても大丈夫かと悩んでいた途中だったのだが、向こうから先に声をかけられてしまった。

「それで、どんな用があってこんな辺鄙なところに来たんだい?」
「えーと……用と言うか…ただ偶然、迷ってしまって…」

「私にウソは通じないよ、ノア」
「…!?いえ、その……」
「これでも高名な魔術師だからねぇ…ふむ……きみは魔術の心得があるようだね!私のところに弟子入り志願に来たってところか」
「そ、そういうわ「もちろん!大歓迎さ♪ノア!」

「………」
ウィルとエトワールは互いに顔を見合わせている。
どうしよう……

「ノア、こういうタイプは、はっきり言わないと伝わりませんよ」
はい!そうします!


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