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第2章 魔術師の試練
6. 従者は疑念を抱く
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「ふぅ、こんなもんか」
今朝仕留めた鴨の羽根をむしりながら、俺はノアの喜ぶ顔を思い浮かべていた。
(おいしい!ありがとうウィル)
おいしさはもちろん、栄養面もバッチリだ。
騎士となるため訓練を受けていた俺は、肉を中心とした食生活も筋肉増強のために欠かせないことを、身をもって知っていた。
なので、こうして厨房を預かり食事の用意を担当している。この屋敷に来てから四日が経っていた。
高名な魔法使いというだけあって、屋敷にはそこら中に魔法が溢れていた。
広い邸内の掃除や庭の手入れは、魔法がかけられた道具たちが決められた時間になると突然動き出し、それぞれの用途に従い屋敷中を磨いていくのだった。
なので、屋敷の使用人は、最初の日に俺たちを出迎えてくれた召使いの少年ただ一人だった。
この少年の主人である魔術師のことを聞き出そうと試みてみたが、寡黙な少年は、俺たちに心を開いていないようで、「僕はただの召使いです。詳しいことはご主人様にきいてください」と返すばかりで、俺たちの質問にほとんど答えてはくれなかった。
「あの魔術師、おかしいと思いませんか?」
昨日、エトワールと話したことを思い返していた。
「ああ…訓練嫌いのノアに、ああも簡単に筋トレのやる気を出させるなんて、ただものじゃない」
「それは……ええ、ノアの成長を促していただいていることは、大変素晴らしいのですが……そういうことではなく」
「ああ…魔術師にしては、ずいぶん鍛えてるよな。それに、身のこなしも悪くない。傭兵だってできそうだ」
「ええ…そうなのです。昨日、ブラウフォンスのノアの家から着替えや色々な荷物を持ってくるついでに、町で情報収集をしたのですが、どうも気にかかることがありまして……」
「そうだったな。ノアをひとりにしておけないからとはいえ、俺の分の荷物までありがとう」
「いえいえ、ですが、私ひとりでは持ち帰れる量に限界がありますので、一度三人で帰ったほうがいいですね」
「うんうん。明日、明後日あたりか――ノアに相談してみよう」
「ええ……話が逸れましたが、町で得た気にかかる情報についてですが……」
エトワールは魔術師について町の人々に聞き込みを行ったらしい。変わり者だが高名な魔術師――。二、三十年前の若き日には帝国の魔術師部隊に所属して活躍したこともあったらしい。
「二、三十年前って……アイツそんな歳なのか?」
「年齢を若く見せる魔術は存在しますが、とても珍しいです。それに、私はどうにもあの者に違和感を感じているのです」
「どういうこと?」
「うまく言い表せないのですが、おぞましい気配を感じると言うか……」
「アイツはたぶん、変態で男好きだろうな。初日に俺たちを美形だとか言ってたし、こっちを気味の悪い目でじっと見ていたり……」
ふいに思い出すと、その気持ち悪さに身震いしてしまった。
「ええ…まったく……ノアの身の安全が気がかりです」
「俺たちでノアを守っていこう」
「ええ、そうしましょう」
「……むう、捌く前は十分な量があるように見えたんだが…」
昨日のエトワールとのやりとりを思い返しながら鴨を捌いていたのだが、切り分けていくにつれ、思っていたよりも食べられる肉の量が少ないことに気づいた。
「あと2羽はほしい――ノアにもっともっと栄養をつけさせてやらないとな!」
「エトワール!いるか?」
居間でくつろいでいたエルフを見つけた。
「はい、なんでしょうか?」
「ノアを頼む。ちょっと夕食のおかずを獲りに行きたいんだ」
「狩りなら私のほうが得意ですよ。代わりに獲ってきましょうか?」
「いや、俺が自分で獲った獲物を、ノアに食わせてやりたいんだ。なるべく早く戻ってくるから、頼むな」
「わかりました。お気をつけて…」
そして、広い居間にエトワールだけが残された。
「ウィル、意外とだまされやすいね」
エルフは手を一振りした。すると姿が変わり、魔術師ホルデウムとなった。
「エトワールは町へお出かけだよ。さあノア、何して遊ぼうか……」
今朝仕留めた鴨の羽根をむしりながら、俺はノアの喜ぶ顔を思い浮かべていた。
(おいしい!ありがとうウィル)
おいしさはもちろん、栄養面もバッチリだ。
騎士となるため訓練を受けていた俺は、肉を中心とした食生活も筋肉増強のために欠かせないことを、身をもって知っていた。
なので、こうして厨房を預かり食事の用意を担当している。この屋敷に来てから四日が経っていた。
高名な魔法使いというだけあって、屋敷にはそこら中に魔法が溢れていた。
広い邸内の掃除や庭の手入れは、魔法がかけられた道具たちが決められた時間になると突然動き出し、それぞれの用途に従い屋敷中を磨いていくのだった。
なので、屋敷の使用人は、最初の日に俺たちを出迎えてくれた召使いの少年ただ一人だった。
この少年の主人である魔術師のことを聞き出そうと試みてみたが、寡黙な少年は、俺たちに心を開いていないようで、「僕はただの召使いです。詳しいことはご主人様にきいてください」と返すばかりで、俺たちの質問にほとんど答えてはくれなかった。
「あの魔術師、おかしいと思いませんか?」
昨日、エトワールと話したことを思い返していた。
「ああ…訓練嫌いのノアに、ああも簡単に筋トレのやる気を出させるなんて、ただものじゃない」
「それは……ええ、ノアの成長を促していただいていることは、大変素晴らしいのですが……そういうことではなく」
「ああ…魔術師にしては、ずいぶん鍛えてるよな。それに、身のこなしも悪くない。傭兵だってできそうだ」
「ええ…そうなのです。昨日、ブラウフォンスのノアの家から着替えや色々な荷物を持ってくるついでに、町で情報収集をしたのですが、どうも気にかかることがありまして……」
「そうだったな。ノアをひとりにしておけないからとはいえ、俺の分の荷物までありがとう」
「いえいえ、ですが、私ひとりでは持ち帰れる量に限界がありますので、一度三人で帰ったほうがいいですね」
「うんうん。明日、明後日あたりか――ノアに相談してみよう」
「ええ……話が逸れましたが、町で得た気にかかる情報についてですが……」
エトワールは魔術師について町の人々に聞き込みを行ったらしい。変わり者だが高名な魔術師――。二、三十年前の若き日には帝国の魔術師部隊に所属して活躍したこともあったらしい。
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「どういうこと?」
「うまく言い表せないのですが、おぞましい気配を感じると言うか……」
「アイツはたぶん、変態で男好きだろうな。初日に俺たちを美形だとか言ってたし、こっちを気味の悪い目でじっと見ていたり……」
ふいに思い出すと、その気持ち悪さに身震いしてしまった。
「ええ…まったく……ノアの身の安全が気がかりです」
「俺たちでノアを守っていこう」
「ええ、そうしましょう」
「……むう、捌く前は十分な量があるように見えたんだが…」
昨日のエトワールとのやりとりを思い返しながら鴨を捌いていたのだが、切り分けていくにつれ、思っていたよりも食べられる肉の量が少ないことに気づいた。
「あと2羽はほしい――ノアにもっともっと栄養をつけさせてやらないとな!」
「エトワール!いるか?」
居間でくつろいでいたエルフを見つけた。
「はい、なんでしょうか?」
「ノアを頼む。ちょっと夕食のおかずを獲りに行きたいんだ」
「狩りなら私のほうが得意ですよ。代わりに獲ってきましょうか?」
「いや、俺が自分で獲った獲物を、ノアに食わせてやりたいんだ。なるべく早く戻ってくるから、頼むな」
「わかりました。お気をつけて…」
そして、広い居間にエトワールだけが残された。
「ウィル、意外とだまされやすいね」
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