某国の皇子、冒険者となる

くー

文字の大きさ
61 / 142
第4章 古代遺跡探索行

13. 入れ替わり

しおりを挟む
まさか、そんなことが……
頭の中から響く声の正体は、

――ルクス?

俺は今から9年前、10歳のときに高熱を出し、自分が異世界転生者であることを思い出した。
と思っていた。今、このときまでは。ルクス・ベルムデウスの声を聞くまでは。

9年前、俺は転生者であることを思い出したのではなく、熱で瀕死だったルクスの中に、魂だけの存在として入り込んだ……のだとしたら?
ノア・スタークと名乗り始めたことで、今まで眠っていたルクスの自我が表層化した――?

思えばここ最近、自分自身のものであるというには、違和感のある感情が芽生えることがあった。それは、主に兄上に相対したときに起こっていた。
兄上へのそういった想いは俺ではなく、ルクスのものだったに違いない……

そんな…だからって、どうしたらいいんだよ……

『だから、代わってって言ってるの。ぼくだって兄さまからすごいねって、褒められたい。お話したい。そこどいて……』

どくって、どうやって……

「ノア!大丈夫か!ノア!」
「兄上…急ぎましょう、早くここを出なければ」
「頭を抱えていたが、どこか痛むのか?見せてみろ……っ!」
兄上は俺の髪の毛をかき回し、傷の有無を確認したが、何も異常はみつからなかったようだ。
「ヒール!」
「大丈夫です。もう歩けます」
「念のため回復魔法をかけておいたが、ぜったいに無理はするなよ」

壁に刺さった剣を回収するために兄上は、俺から数秒間、目を離した。
そして俺は何かに足を滑らし、仰向けに倒れ、気を失ってしまった。




「ノア!お願いだ!目を開けてくれ!」
回復魔法のあたたかい波動を感じる。兄上は倒れた俺に何度もヒールをかけてくれていた。

もう大丈夫だって、知らせないと。兄上の魔力が尽きてしまう前に……
「……兄さま、ぼくもう大丈夫だよ」
「ノア……?」
「ねぇ兄さま……今はふたりきりなんだから、ルクスって呼んでほしいな」
「……いいのか?」
「うん、いいよ!」

兄上と話しているのは俺じゃない。俺の言葉は喉から発せなくなってしまっている。
今、兄上と話しているのはルクスだった。

俺はルクスにからだの主導権を奪われた。いや――取り返されたと言うべきなのか?


「ね、兄さま…ぼく、なんだか疲れちゃったみたい。少し、やすみたいな」
「なに!?それは大変だ。すぐに休もう」
兄は適当な小部屋を見つけると、次々と魔法を唱え、快適な空間を作り出した。
亜空間召喚魔法からふたりがけのソファやテーブルなど、さまざまなものを取り出す。
俺の亜空間召喚魔法の使用可能面積は狭めの風呂場から広めの風呂場という具合に、少しだけ拡張されたのだが、兄のはどれくらいの面積なのだろうか。質問できないのがもどかしかった。

『ルクス、おい、ルクスってば……』

さっきからルクスに呼びかけ続けているが、聞こえていないのか無視されているのか、ルクスからの返事はない。

ソファに三角座りをしているルクスは、兄上が魔法を唱えるのを興味深そうに見つめている。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

a life of mine ~この道を歩む~

野々乃ぞみ
BL
 ≪腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者≫  第二王子:ブライトル・モルダー・ヴァルマ  主人公の転生者:エドマンド・フィッツパトリック 【第一部】この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~  エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。  転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。  エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。  死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 【第二部】この道を歩む~異文化と感情と、逃げられない運命のようなものと~  必死に手繰り寄せた運命の糸によって、愛や友愛を知り、友人たちなどとの共闘により、見事死亡フラグを折ったエドマンドは、原作とは違いブライトルの母国であるトーカシア国へ行く。  異文化に触れ、余り歓迎されない中、ブライトルの婚約者として過ごす毎日。そして、また新たな敵の陰が現れる。  二部は戦争描写なし。戦闘描写少な目(当社比)です。 全体的にかなりシリアスです。二部以降は、死亡表現やキャラの退場が予想されます。グロではないですが、お気を付け下さい。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったりします。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 閑話休題以外は主人公視点です。 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

フードコートの天使

美浪
BL
西山暁には本気の片思いをして告白をする事も出来ずに音信不通になってしまった相手がいる。 あれから5年。 大手ファストフードチェーン店SSSバーガーに就職した。今は店長でブルーローズショッピングモール店に勤務中。 そんなある日・・・。あの日の君がフードコートに居た。 それは間違いなく俺の大好きで忘れられないジュンだった。 ・・・・・・・・・・・・ 大濠純、食品会社勤務。 5年前に犯した過ちから自ら疎遠にしてしまった片思いの相手。 ずっと忘れない人。アキラさん。 左遷先はブルーローズショッピングモール。そこに彼は居た。 まだ怒っているかもしれない彼に俺は意を決して挨拶をした・・・。 ・・・・・・・・・・・・ 両片思いを2人の視点でそれぞれ展開して行こうと思っています。

【完結】我が兄は生徒会長である!

tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。 名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。 そんな彼には「推し」がいる。 それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。 実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。 終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。 本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。 (番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)

完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました

BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。 その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。 そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。 その目的は―――――― 異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話 ※小説家になろうにも掲載中

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

処理中です...