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第5章 砂漠の国の錬金術師
13. 聖域
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ニケに手を引かれて足を踏み入れたその部屋は、静謐な空気が満ちていた。
中央には土が敷かれており、色とりどりの草花が植えられていた。その上には大きな箱が置かれている。
「こんばんは、かあさま……」
その箱は、棺だった。中には白いドレスを着た女性が横たえられていた。
「その人…ニケのお母上?臥せってるって言ってたけど……亡くなったの?」
「誰が亡くなったって!?」
ニケの剣幕に、はっとした。
「ご、ごめん。棺に入っているからてっきり……」
「……僕の方こそ大声出してごめん。話、聞いてもらってもいい?」
「うん、もちろん……」
「僕の母は……帝国出身だ。旅芸人の一座の踊り子で、当世一と謳われたほどだった。この国での興行中に王である父に見初められ、四番目の妃となった。母はすぐに懐妊し、王子である僕を産んだけど……肌の色の違う僕たちに、この国の人たちは冷たかった。この国で僕と母がなんの疑いもなく信頼できたのは、お互いだけだった。でも、僕が十歳の頃――母は体調を崩した。僕が治癒師になったのもその頃だ。でも、どんな高名な治癒師でも手の施しようがなく……僕もなんとかしようと本を読んだり薬を作ったりして努力したけどけどダメだった。それから母はどんどん悪くなっていって……僕が十五歳の頃、とうとう目を覚まさなくなった」
「……彼女は眠っているの?」
「そうだ。死んでいるわけじゃない、鼓動はあるんだ……僕はいまも母を治す方法があるんじゃないかって、絶対にあるはずだって探し続けてる。そのためなら……かあさまを守るためなら、どんなことだってする。そういえば……アラゴグを倒すまでエトワールをもたせた魔法があっただろ、あれを母にもずっと使っているんだ。すこしでも、可能性を広げるために……」
「…………」
なんと声をかけたらいいのかわからなくて、俺は棺を覗き込み、女性の顔を見つめた。そして、気がついた。
「あれ……この人、夢に出てきたことがある……」
「えっ!?」
ニケは立ち上がり、俺の肩を強い力で掴んだ。
「いつ!?」
「えっと……この国に来た最初の日…」
「何か…何か言ってた!?」
「えぇっと…声を聞いたわけじゃないんだけど、ありがとうって言ってたかな。それと、ごめんなさいも……」
「なんで!なんで声を聞いてないのにわかったんだよっ」
「え…唇の動きで……なんとなくだけど……」
「はは…は…」
「……ニケ?」
「俺の夢にはちっとも出てきてくださらないのに……なんでノアなの、かあさま……」
こんなときなんと声をかければいいのか……ちっとも言葉が浮かばない気の利かない俺は、ニケの手をぎゅっと握りしめることしかできなかった。
「ノア…」
「俺には何にもできないけど……ニケがすごくがんばってるってことはわかるよ」
「あのね、ノア……」
「ん?」
「ノアにできること、あるよ」
カシャンッ――
ニケは、俺の右腕に見覚えのない金の腕輪を嵌めた。
「ニケ……?なに、これ……」
「ずっとここにいてよ。ノア――」
中央には土が敷かれており、色とりどりの草花が植えられていた。その上には大きな箱が置かれている。
「こんばんは、かあさま……」
その箱は、棺だった。中には白いドレスを着た女性が横たえられていた。
「その人…ニケのお母上?臥せってるって言ってたけど……亡くなったの?」
「誰が亡くなったって!?」
ニケの剣幕に、はっとした。
「ご、ごめん。棺に入っているからてっきり……」
「……僕の方こそ大声出してごめん。話、聞いてもらってもいい?」
「うん、もちろん……」
「僕の母は……帝国出身だ。旅芸人の一座の踊り子で、当世一と謳われたほどだった。この国での興行中に王である父に見初められ、四番目の妃となった。母はすぐに懐妊し、王子である僕を産んだけど……肌の色の違う僕たちに、この国の人たちは冷たかった。この国で僕と母がなんの疑いもなく信頼できたのは、お互いだけだった。でも、僕が十歳の頃――母は体調を崩した。僕が治癒師になったのもその頃だ。でも、どんな高名な治癒師でも手の施しようがなく……僕もなんとかしようと本を読んだり薬を作ったりして努力したけどけどダメだった。それから母はどんどん悪くなっていって……僕が十五歳の頃、とうとう目を覚まさなくなった」
「……彼女は眠っているの?」
「そうだ。死んでいるわけじゃない、鼓動はあるんだ……僕はいまも母を治す方法があるんじゃないかって、絶対にあるはずだって探し続けてる。そのためなら……かあさまを守るためなら、どんなことだってする。そういえば……アラゴグを倒すまでエトワールをもたせた魔法があっただろ、あれを母にもずっと使っているんだ。すこしでも、可能性を広げるために……」
「…………」
なんと声をかけたらいいのかわからなくて、俺は棺を覗き込み、女性の顔を見つめた。そして、気がついた。
「あれ……この人、夢に出てきたことがある……」
「えっ!?」
ニケは立ち上がり、俺の肩を強い力で掴んだ。
「いつ!?」
「えっと……この国に来た最初の日…」
「何か…何か言ってた!?」
「えぇっと…声を聞いたわけじゃないんだけど、ありがとうって言ってたかな。それと、ごめんなさいも……」
「なんで!なんで声を聞いてないのにわかったんだよっ」
「え…唇の動きで……なんとなくだけど……」
「はは…は…」
「……ニケ?」
「俺の夢にはちっとも出てきてくださらないのに……なんでノアなの、かあさま……」
こんなときなんと声をかければいいのか……ちっとも言葉が浮かばない気の利かない俺は、ニケの手をぎゅっと握りしめることしかできなかった。
「ノア…」
「俺には何にもできないけど……ニケがすごくがんばってるってことはわかるよ」
「あのね、ノア……」
「ん?」
「ノアにできること、あるよ」
カシャンッ――
ニケは、俺の右腕に見覚えのない金の腕輪を嵌めた。
「ニケ……?なに、これ……」
「ずっとここにいてよ。ノア――」
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