114 / 142
第8章 呪われた世界
3. 来訪
しおりを挟む
私が、グラヴィスを止めなければ――
外への出入り口である岩を掘って造られた通路の付近には、たくさんの魔族たちが集まっていた。
角と翼を持った姿の魔族が多く、里は騒然としていた。無理もない……里を守る魔法の扉が外から壊されてしまったのだから。通路の先には元は扉だったろう瓦礫が積み重なり、陽の光が差し込んでいた。
ジンは殺気立つ魔族たちの前に進み出ると、手を上げて彼らの行く手を遮ろうとしている。
「みんな、落ち着いて!」
「ジン!これはどういうことなんだ!おまえの仲間の仕業なのか!?」
「ち、違う……たぶん違うけど!俺たちがなんとかするから、手出し無用で頼む!」
「はあ!?里が攻撃を受け破壊されたというのに、何もせず黙って見ていろと言うのか!?」
「難しいだろうけど……誰にも傷ついてほしくないんだ!」
魔族たちはざわめき、口々にジンの言動への疑問を唱えている。
「みんな!ここはジンに任せてみよう!」
ミーカがジンの隣へ並び立ち、魔族たちへと訴えかけた。
「ミーカ!おまえまで……」
魔族たちはジンとミーカの要望を渋々ながらも受け入れ、しばらくは事を静観すると約束してくれたのだった。
ひとまず、最悪の事態は避けることができたが、安堵するにはまだ早いだろう。
グラヴィスと魔族たちを争わせるわけにはいかない。
「閣下……俺たちに何かできることはありますか?」
ウィルが心配げな面持ちで伺いを立ててきた。
「私が単独で陛下と話をしてくる。悪いが……ニケ、きみはどこか……目につかない場所で待機していてくれ」
「……わかりました」
私は振り返って仲間たちににひとつ頷くと、通路の先へと歩を進めた。
破壊された扉の残骸がそこかしこに飛び散っている。
遠目からも確認できていたが、扉があった場所に立っているのは、ベルムデウス帝国皇帝であるグラヴィス・ベルムデウスだった。
その背後には少し距離をおいて十数名の騎士たちが控えていた。
少し――痩せたか?それに、顔色も悪い……無理もないが……
「グラヴィス」
「ラウルス……!」
グラヴィスはこちらに走り寄ってきた。
「おまえ、腕の怪我は……呪いを解いたのか?一体どうやって……」
「ああ、仔細は後程話すが……いきなり門を破壊するとは、まずいことをしてくれたな。住民たちは殺気立っているぞ」
「……ここにはノアがいるだろう。だが、人間ではない者たちの魔力を多数感じる。居ても立ってもいられなかったのだ」
グラヴィスは眉根を寄せ、苦悩しているようであった。
「王都で別れたときよりは落ち着いてはいるようだな。まあ……ここに来ている時点で冷静とは到底言えないが……」
今頃、帝国の軍務や政務を担う者たちは、どうしているのだろうか……。突然にもたらされた最高指導者の不在に、混乱せずにいられるわけがない。
考えると胃がキリキリと痛みだした。やめよう……
「ああ……あの日の私はどうかしていた。おまえが止めてくれなければ、取り返しのつかないことをしていただろう」
「……その言葉を信用していいものか、まだ確証は持てないが……こちらもかなり厄介なことになっている」
「どういうことだ?」
「サナトリオルムが絡んでいる」
グラヴィスの顔色が変わった。
外への出入り口である岩を掘って造られた通路の付近には、たくさんの魔族たちが集まっていた。
角と翼を持った姿の魔族が多く、里は騒然としていた。無理もない……里を守る魔法の扉が外から壊されてしまったのだから。通路の先には元は扉だったろう瓦礫が積み重なり、陽の光が差し込んでいた。
ジンは殺気立つ魔族たちの前に進み出ると、手を上げて彼らの行く手を遮ろうとしている。
「みんな、落ち着いて!」
「ジン!これはどういうことなんだ!おまえの仲間の仕業なのか!?」
「ち、違う……たぶん違うけど!俺たちがなんとかするから、手出し無用で頼む!」
「はあ!?里が攻撃を受け破壊されたというのに、何もせず黙って見ていろと言うのか!?」
「難しいだろうけど……誰にも傷ついてほしくないんだ!」
魔族たちはざわめき、口々にジンの言動への疑問を唱えている。
「みんな!ここはジンに任せてみよう!」
ミーカがジンの隣へ並び立ち、魔族たちへと訴えかけた。
「ミーカ!おまえまで……」
魔族たちはジンとミーカの要望を渋々ながらも受け入れ、しばらくは事を静観すると約束してくれたのだった。
ひとまず、最悪の事態は避けることができたが、安堵するにはまだ早いだろう。
グラヴィスと魔族たちを争わせるわけにはいかない。
「閣下……俺たちに何かできることはありますか?」
ウィルが心配げな面持ちで伺いを立ててきた。
「私が単独で陛下と話をしてくる。悪いが……ニケ、きみはどこか……目につかない場所で待機していてくれ」
「……わかりました」
私は振り返って仲間たちににひとつ頷くと、通路の先へと歩を進めた。
破壊された扉の残骸がそこかしこに飛び散っている。
遠目からも確認できていたが、扉があった場所に立っているのは、ベルムデウス帝国皇帝であるグラヴィス・ベルムデウスだった。
その背後には少し距離をおいて十数名の騎士たちが控えていた。
少し――痩せたか?それに、顔色も悪い……無理もないが……
「グラヴィス」
「ラウルス……!」
グラヴィスはこちらに走り寄ってきた。
「おまえ、腕の怪我は……呪いを解いたのか?一体どうやって……」
「ああ、仔細は後程話すが……いきなり門を破壊するとは、まずいことをしてくれたな。住民たちは殺気立っているぞ」
「……ここにはノアがいるだろう。だが、人間ではない者たちの魔力を多数感じる。居ても立ってもいられなかったのだ」
グラヴィスは眉根を寄せ、苦悩しているようであった。
「王都で別れたときよりは落ち着いてはいるようだな。まあ……ここに来ている時点で冷静とは到底言えないが……」
今頃、帝国の軍務や政務を担う者たちは、どうしているのだろうか……。突然にもたらされた最高指導者の不在に、混乱せずにいられるわけがない。
考えると胃がキリキリと痛みだした。やめよう……
「ああ……あの日の私はどうかしていた。おまえが止めてくれなければ、取り返しのつかないことをしていただろう」
「……その言葉を信用していいものか、まだ確証は持てないが……こちらもかなり厄介なことになっている」
「どういうことだ?」
「サナトリオルムが絡んでいる」
グラヴィスの顔色が変わった。
1
あなたにおすすめの小説
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
a life of mine ~この道を歩む~
野々乃ぞみ
BL
≪腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者≫
第二王子:ブライトル・モルダー・ヴァルマ
主人公の転生者:エドマンド・フィッツパトリック
【第一部】この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~
エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。
転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。
エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。
死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。
「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」
「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」
【第二部】この道を歩む~異文化と感情と、逃げられない運命のようなものと~
必死に手繰り寄せた運命の糸によって、愛や友愛を知り、友人たちなどとの共闘により、見事死亡フラグを折ったエドマンドは、原作とは違いブライトルの母国であるトーカシア国へ行く。
異文化に触れ、余り歓迎されない中、ブライトルの婚約者として過ごす毎日。そして、また新たな敵の陰が現れる。
二部は戦争描写なし。戦闘描写少な目(当社比)です。
全体的にかなりシリアスです。二部以降は、死亡表現やキャラの退場が予想されます。グロではないですが、お気を付け下さい。
闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったりします。
本編ド健全です。すみません。
※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。
※ 閑話休題以外は主人公視点です。
※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。
フードコートの天使
美浪
BL
西山暁には本気の片思いをして告白をする事も出来ずに音信不通になってしまった相手がいる。
あれから5年。
大手ファストフードチェーン店SSSバーガーに就職した。今は店長でブルーローズショッピングモール店に勤務中。
そんなある日・・・。あの日の君がフードコートに居た。
それは間違いなく俺の大好きで忘れられないジュンだった。
・・・・・・・・・・・・
大濠純、食品会社勤務。
5年前に犯した過ちから自ら疎遠にしてしまった片思いの相手。
ずっと忘れない人。アキラさん。
左遷先はブルーローズショッピングモール。そこに彼は居た。
まだ怒っているかもしれない彼に俺は意を決して挨拶をした・・・。
・・・・・・・・・・・・
両片思いを2人の視点でそれぞれ展開して行こうと思っています。
【完結】我が兄は生徒会長である!
tomoe97
BL
冷徹•無表情•無愛想だけど眉目秀麗、成績優秀、運動神経まで抜群(噂)の学園一の美男子こと生徒会長・葉山凌。
名門私立、全寮制男子校の生徒会長というだけあって色んな意味で生徒から一目も二目も置かれる存在。
そんな彼には「推し」がいる。
それは風紀委員長の神城修哉。彼は誰にでも人当たりがよく、仕事も早い。喧嘩の現場を抑えることもあるので腕っぷしもつよい。
実は生徒会長・葉山凌はコミュ症でビジュアルと家柄、風格だけでここまで上り詰めた、エセカリスマ。実際はメソメソ泣いてばかりなので、本物のカリスマに憧れている。
終始彼の弟である生徒会補佐の観察記録調で語る、推し活と片思いの間で揺れる青春恋模様。
本編完結。番外編(after story)でその後の話や過去話などを描いてます。
(番外編、after storyで生徒会補佐✖️転校生有。可愛い美少年✖️高身長爽やか男子の話です)
完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました
禅
BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。
その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。
そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。
その目的は――――――
異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話
※小説家になろうにも掲載中
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
カランコエの咲く所で
mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。
しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。
次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。
それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。
だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。
そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる