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第8章 呪われた世界
5. 病
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冷たい風が吹きすさび、俺は身を震わせた。
少しでも暖が取れればと、手を擦り合わせる。
季節はまだ秋を迎えたばかりのはずだが、この街――ミセリコルディアは帝国のある大陸より海を越えて北にあるために寒く、冬の訪れも早い。
俺は路地の角に座って物乞いをしていた。
椀に入っている小銭を数えてみると、昨日よりも少し多かった。
帰らないと……貧者の町へ――
みんながお腹を空かして、待っている。
俺は立ち上がり、パンが買える店へと向かった。
「これだけ?」
「あぁん?」
「さきほど渡した金額なら、もっと買えるはずでは……」
「病気持ちのくせに、アタシに意見しようってのかい」
「俺はただ……」
「アンタらに売れるようなモンはうちにはそれきりさ。わかったらさっさと出て行っとくれ。うつっちまったらどうしてくれるんだい!?」
「これだけじゃ家に帰れません。たくさんの餓えた人たちが俺の帰りを待っているんだ」
「ああ!?あんたの事情なんざ知ったこっちゃないよ!」
パン屋のおかみさんは厨房から下男を呼ぶと、俺を店からつまみ出した。
「二度とアタシの店に来るんじゃないよ!疫病神!」
唾を吐きかけられ、バタン――と強く扉を閉められてしまった。
「痛……」
店から追い出されたときに転んでしまい、したたかに肩を打ち付けてしまっていたが、なんとか立ち上がることができた。わずかなパンの入った背負袋を担ぎ、杖を頼りに街を出るために歩き始めた。
フードを目深に被っていてもわずかに覗く口元から、見た者に生理的嫌悪を抱かせる肌がさらされている。
服に縫い付けられた鈴の音に気づいた人々が、眉をしかめながら離れていった。
「化け物だ~!おばけが通るぞ~」
「みんな逃げろ~!」
「ママ~。あの人、どうして鈴をつけてるの?」
「こらっ!近づいちゃいけません!」
「ドブネズミが……この町に来るんじゃねえよ!」
人々に避けられ、ときには石を投げつけらながら、ようやく大きな町の出口へと辿り着くことができた。
日暮れ前には貧者の町へと戻らなければ。夜道はモンスターが出て危険なのだ。
瘡蓋から流れ落ちた膿がこめかみを伝って垂れている。
遠いな。からだはうまく動かないし……
このからだになって、もう何日経っただろうか……
この病は神経が侵され、痛みや感覚が鈍くなる症状があった。だが、こころの痛みは防ぎようがない。
ツラいなあ……ヤツの思惑どおりなのも、悔しい……
せせら笑いが含まれた、サナトリオルムの言葉を思い返す――
『ノア、知っているか?人は辛い経験を乗り越えていく度に成長していくのだ。おまえはこの世界では何度でも経験することができる。なんと恵まれていると思うだろう?おまえはどんな成長を遂げるのだろうか――とても楽しみだよ』
サナトリオルムが俺のために用意したの新しい器は、重度の皮膚病患者の男のものだ。
前の持ち主は既に天へと召された後だったのだろうか……俺の魂はそのからだに入れられ、目覚めたのは男の家の寝台の上だった。
家と言っても粗末な小屋だ。何台かの寝台があり、それらは病んだ人たちで埋まっていた。
貧者の町――
そこは西にある病や犯罪により、ミセリコルディアに住むことを禁止された人々が身を寄せ合って暮らしている場所だった。
人々はいつも餓えていたが、なんとか手を取り合って助け合い、命を繋いでいた。
少しでも暖が取れればと、手を擦り合わせる。
季節はまだ秋を迎えたばかりのはずだが、この街――ミセリコルディアは帝国のある大陸より海を越えて北にあるために寒く、冬の訪れも早い。
俺は路地の角に座って物乞いをしていた。
椀に入っている小銭を数えてみると、昨日よりも少し多かった。
帰らないと……貧者の町へ――
みんながお腹を空かして、待っている。
俺は立ち上がり、パンが買える店へと向かった。
「これだけ?」
「あぁん?」
「さきほど渡した金額なら、もっと買えるはずでは……」
「病気持ちのくせに、アタシに意見しようってのかい」
「俺はただ……」
「アンタらに売れるようなモンはうちにはそれきりさ。わかったらさっさと出て行っとくれ。うつっちまったらどうしてくれるんだい!?」
「これだけじゃ家に帰れません。たくさんの餓えた人たちが俺の帰りを待っているんだ」
「ああ!?あんたの事情なんざ知ったこっちゃないよ!」
パン屋のおかみさんは厨房から下男を呼ぶと、俺を店からつまみ出した。
「二度とアタシの店に来るんじゃないよ!疫病神!」
唾を吐きかけられ、バタン――と強く扉を閉められてしまった。
「痛……」
店から追い出されたときに転んでしまい、したたかに肩を打ち付けてしまっていたが、なんとか立ち上がることができた。わずかなパンの入った背負袋を担ぎ、杖を頼りに街を出るために歩き始めた。
フードを目深に被っていてもわずかに覗く口元から、見た者に生理的嫌悪を抱かせる肌がさらされている。
服に縫い付けられた鈴の音に気づいた人々が、眉をしかめながら離れていった。
「化け物だ~!おばけが通るぞ~」
「みんな逃げろ~!」
「ママ~。あの人、どうして鈴をつけてるの?」
「こらっ!近づいちゃいけません!」
「ドブネズミが……この町に来るんじゃねえよ!」
人々に避けられ、ときには石を投げつけらながら、ようやく大きな町の出口へと辿り着くことができた。
日暮れ前には貧者の町へと戻らなければ。夜道はモンスターが出て危険なのだ。
瘡蓋から流れ落ちた膿がこめかみを伝って垂れている。
遠いな。からだはうまく動かないし……
このからだになって、もう何日経っただろうか……
この病は神経が侵され、痛みや感覚が鈍くなる症状があった。だが、こころの痛みは防ぎようがない。
ツラいなあ……ヤツの思惑どおりなのも、悔しい……
せせら笑いが含まれた、サナトリオルムの言葉を思い返す――
『ノア、知っているか?人は辛い経験を乗り越えていく度に成長していくのだ。おまえはこの世界では何度でも経験することができる。なんと恵まれていると思うだろう?おまえはどんな成長を遂げるのだろうか――とても楽しみだよ』
サナトリオルムが俺のために用意したの新しい器は、重度の皮膚病患者の男のものだ。
前の持ち主は既に天へと召された後だったのだろうか……俺の魂はそのからだに入れられ、目覚めたのは男の家の寝台の上だった。
家と言っても粗末な小屋だ。何台かの寝台があり、それらは病んだ人たちで埋まっていた。
貧者の町――
そこは西にある病や犯罪により、ミセリコルディアに住むことを禁止された人々が身を寄せ合って暮らしている場所だった。
人々はいつも餓えていたが、なんとか手を取り合って助け合い、命を繋いでいた。
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