某国の皇子、冒険者となる

くー

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最終章 死と光

1. 居城

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我は醜い顔を持って生まれた。
魔法で顔を変え永遠に葬り去ったはずの生来の造形は幾千年の時を経ても、忌まわしい記憶として残り続けている。

親の顔なんて知らない。
ゴミを漁っていたことが一番古い記憶だ。
そして誰からも愛されることはなく、今日まで生きてきた。

ノア――我はおまえが嫌いだ。
美しい容姿を持つ上に、美しい人々から愛され、夢溢れる幸せな毎日を過ごしている。

そんなおまえを見ていると虫唾が走る。

だから、おまえが醜い姿で街をさまよう姿を眺めるのはとても愉快だった。

おまえの愛する仲間たちをすべて殺して、絶望という贈り物をくれてやろう。

そのときおまえはどんな顔をする?楽しみだ……





「ほんとうにあった……あれが……」

魔法で作られた霧――剣の間合い程も距離が離れると視界がきかなくなるほどにそれらは濃い。だが今、数十人の帝国軍精鋭魔術師たちが一丸となり、霧を無効化する呪文を唱え続けている。
そしてついに、魔術師達の尽力の成果が表れ始めた。

世界に厄災をもたらさんとする悪霊――サナトリオルム。
奴の拠点である地を目指して、帝国軍の約五百名の兵士達と五隻の艦隊が編成された。しかし、魔法によって操られた海流と、手強いモンスターの襲撃によって、三隻の船が沈められてしまい、残存兵数は今や二百名にも満たない。

その島には魔物が溢れかえっているのが遠目からでも見て取れたが、敵の根城を前にして兵を退くという選択肢などあり得ない。


船から島へと、帝国軍の兵士達は降り立った。
軍馬の嘶きと、兵を率いる騎士の声が戦場に響き渡る。
「魔物を引きつけろ!こっちだ!」

「よし……みな、私に続け!」
ラウルスを先頭に俺たちは魔物との戦闘を極力避け、島の中心部にある禍々しい外観の城を目指して走り出した。
敵の攻撃を引き付ける盾役にはラウルスとウィル。皆の傷を癒す回復役はニケ。兄上、俺、エトワール、ジンは魔物を攻撃する役割だ。



兵士たちの奮戦に助けられ、俺たちは魔物の包囲を抜けて、島の中心部にある城へと辿り着くことができた。
十数名の騎士や魔術師達も続いている。

城の前には、門を守るかのように魔物たちが待ち構えていた。

「この魔物は自分たちが引き受けます!陛下はどうか先へと進んでください」

魔術師たちの魔法が、城の門を破壊し、騎士たちが魔物とぶつかり合う。

そして俺たちは、サナトリオルムの待つ居城へと足を踏み入れた。

城の内部にも数多のモンスターが待ち構えていると思いきや、城内は静まり返っていた。
一切の光源がなく、闇に包まれている。
俺たちは各々が持つ装置に魔法の明かりを灯した。



そして、俺たちはついにサナトリオルムの待つ城の最奥――玉座の間へとたどり着いたのだった。


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