某国の皇子、冒険者となる

くー

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最終章 死と光

3. 答え

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「くっ……!」
「大丈夫だ、ノア」
「がんばって……ノア!」

視界がぐにゃりと歪んでいる。
からだの内側が灼熱の炎で焼かれているかのように、熱い……


『生きたいか?だが――なんのためにお前は生きるのだ?』

過ぎし日のサナトリオルムからの問いが、脳裏によみがえった。



――最初に浮かんだのは前世の記憶だ。

平凡な、どこにでもいる冴えない一般人。
世界は平和なのに不満で溢れていたけれど、それなりには幸せだった……

けれども不慮の事故で命を落とし、この世界で生きる事になった。


異世界サナトス――

そこは魔物が跋扈し、魔法を使うことのできる世界――前世で日々の合間に描いた空想の世界そのものだった。

俺は帝国の皇子ルクスという恵まれた境遇の人物へ転生し、新たな人生を歩むことになった。

周りの人たちから可愛がられ、愛され過ぎていく日々――

そして冒険者となり、かけがえのない仲間を得ることができた。


俺はもっと、この世界で生きたい。

知らないことを知りたい。

できることを増やして、成長したい。

大切な人たちが困っていれば、助けてあげられるような人になりたい。


『生きたいか?だが――なんのためにお前は生きるのだ?』

その問いかけに今はあのときよりもずっと、たくさんの答えを返すことができる――





「グラヴィス!こちらはそろそろ限界だぞ!」
「……くっ!……ノア、どうだ!?」
「このままでは……グラヴィス……っ!」
「あと少しなんだ……頼む、ノア……」
「閣下!俺たち、まだやれます!」
「陛下はノアの治療に専念を!」



みんな――



ありがとう……





「兄…上……」

「ノア!」

「俺はもう……大丈夫です」

上体を起き上がらせて立ち上がろうとしたが、よろめいてしまった。

「だ、大丈夫か!?」
「平気です。少し、ふらついただけですから……」
「よかった、ノア……」

ニケがからだを支えて助けてくれた。

「呪詛を打ち消すことはできたが、やはり負荷が高そうだ……おまえはしばらくここで休んでいなさい。私はラウルスたちに加勢してくる。ニケ、ノアを頼んだぞ」
「はい、任せてください!」


兄上がラウルスたちに加わり、押されていた形勢は一気に逆転した。
次々と倒れ、地に伏していく魔物たち。

まだかろうじて立っている魔物が二体になると、サナトリオルムが
は慌てふためき、玉座から立ち上がった。

「フン……つまらん……」

悪霊は呪文を詠唱し始めた。

「あ……あの呪文は……」

転移魔法?逃げるつもりか――!?

だが、サナトリオルムが詠唱を終え、魔法を唱えても転移魔法は発動しなかった。

「何故だ……まさか」

「おまえの浅知恵が私に通用するとでも?」

召喚された魔物の最後の一体に止めを刺し終えた兄上は、不敵な笑みを浮かべサナトリオルムを見据えた。

「兄上、転移魔法を阻害する結界魔法ですか?」
「ああ、そうだ。サナトリオルム、おまえの考えそうなことなどお見通しだ」

さすが兄上――!

「ちぃっ……!」

「覚悟を決めろ、サナトリオルム――おまえはこの世界に不要な存在なのだ」
サナトリオルムは懐から見覚えのある杖を取り出した。青い魔石が輝く杖――間違いない、奴がドラゴンに化けていた時、俺からだまし取った杖だ。
「我におまえが当然勝てると言わんばかりだな、グラヴィス――おまえは我に勝る魔法詠唱者なのか?我は何千年という歳月を魔術の研究に費やし研鑽を重ねてきた。その上、我の手には素晴らしい杖もある。いくらおまえが類まれなる才に恵まれていようとも、三十年やそこらで我を上回れるものでは――」
「見苦しいぞ、悪霊よ。おまえはわかっているはずだ」
「なんだと?」
「私と一対一ならば、おまえは負けはしないだろう。だが私には頼もしい仲間たちがいる」

「フン……雑魚が何人束になってかかって来ようが、我の敵ではない!」

兄上……!

サナトリオルムの顔から、笑みは消えていた。




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