142 / 142
最終章 死と光
最終話 これから
しおりを挟む
「ふぎゃあ、ふぎゃあ――」
よしよし、と兄上は赤子のルクスを懸命にあやしている。
「いい子だねえ、ルクス。どうしたのかな?」
ルクスをみつめる兄上の目は、優しげで――そこには、満ち溢れるほどの愛があった。
「ルクスがお腹を空かせているようだ。私は城に帰らねば。すまない、ノア――」
「あ、はい……お気をつけて」
兄上は足早に階段を降り、店を出て行ってしまった。
「……あの赤ん坊、今のところは大丈夫そうだな……」
「うん……でも、いつ何が起こるかわからないけれどね……」
サナトリオルムが消滅した場所に残された、ルクスの幼い頃にそっくりな赤子……兄上は目に入れても痛くないという可愛がりようだ。突然現れた赤ん坊の噂は城内はおろか帝都中に瞬く間に広まった。兄上は側近に尋ねられても詳しい説明をしなかったが、赤い髪と青い目を持ち兄上が溺愛する赤子を、周囲は言われずとも察したのだった。
赤子――ルクスは兄上の落とし子であると城の者たちには認識されていた。
「いったんこうすると決めた兄上は誰にも止められない……俺たちはただ、ルクスが何事もなく無事に成長するのを祈ることししかできないよ」
「うーん……ラウルス殿の苦悩する姿が目に浮かぶな……」
「ラウルス……」
そう考えると、俺の護衛とは言え帝都から離れられるのはラウルスにとって、悪い話じゃない……か?
五日後――
よく晴れた日。凛とした早朝の空気の中、俺は馬に乗って街道を進んでいた。
秋から冬に移り変わる季節の冷たい風が頬に吹きつけるが、暖かな外套に身を包んでいるおかげで。心地いいくらいだ。
隣にはラウルスの愛馬が馬首を並べている。服装は騎士の甲冑ではなく旅装だった。冒険者だと名乗っても少しも違和感のない装束だ。
この旅では、よほどのことが起きない限りは転移魔法は使わないと決めていた。
一度訪れたことのある場所ならどんなところへでも行ける魔法は便利すぎるけれども、旅の醍醐味をが失われるというか……味気なくなるというか……
「ノア、よろしくお願いします」
「ラウルス……ごめんなさい。忙しいのに付き合わせちゃって……」
「いいえ、むしろ感謝しております。今日まで働き詰めでしたので、ゆっくりと骨休めをさせていただけるのはありがたいです。貴方と旅をするのも楽しみですし」
「ほんと……?よかったあ」
馬の蹄が地面を打つ音が小気味よく響く。
新鮮な朝の空気を、深く吸う。
「二ヶ月だって。あっという間だろうねえ……」
「ええ、そうでしょうね」
「俺はもっと、旅を続けたいよ」
「それは……」
「わかってる。ラウルスを困らせる気はないんだ。一人で旅を続けるつもり」
「グラヴィスが許すかどうか……」
「……厳しいかな」
はあ――……
思っていたよりも、重いため息を吐いてしまった。
「連れ戻しに来ると思う?」
「ええ。今はルクスが手のかかる時期ですが……」
「ルクス……!俺に構ってるヒマなんてないんじゃ……」
「甘いですね、ノア」
「うう……」
「わかることはひとつ」
「ん?」
「より強い意志を持つ者が、望みを叶える」
ラウルスは穏やかに笑んでいた。
「ああ……そうだったなあ――」
やりたいことが、数えきれないほどたくさんある。
旅に出て色々なものを見る。それから――
ギルドの依頼をこなして、冒険者としての名を上げたい。
今度こそは、自分自身の実力で――
魔法の腕前をもっと上達させたい。クラフターは職人級を目指す。
それから、帝都でウィルとエトワールと語り合った……仲間たちと共同でカフェを開く……なんて、絶対面白そうじゃないか――
光満ちるこの世界を自由に、心赴くままに歩いていく。胸に夢と希望を抱いて――
これから先も、ずっと――
某国の皇子、冒険者となる・完
*
拙いお話をお読みいただき、ありがとうございました!
またどこかでお会いしましょう!
くー
よしよし、と兄上は赤子のルクスを懸命にあやしている。
「いい子だねえ、ルクス。どうしたのかな?」
ルクスをみつめる兄上の目は、優しげで――そこには、満ち溢れるほどの愛があった。
「ルクスがお腹を空かせているようだ。私は城に帰らねば。すまない、ノア――」
「あ、はい……お気をつけて」
兄上は足早に階段を降り、店を出て行ってしまった。
「……あの赤ん坊、今のところは大丈夫そうだな……」
「うん……でも、いつ何が起こるかわからないけれどね……」
サナトリオルムが消滅した場所に残された、ルクスの幼い頃にそっくりな赤子……兄上は目に入れても痛くないという可愛がりようだ。突然現れた赤ん坊の噂は城内はおろか帝都中に瞬く間に広まった。兄上は側近に尋ねられても詳しい説明をしなかったが、赤い髪と青い目を持ち兄上が溺愛する赤子を、周囲は言われずとも察したのだった。
赤子――ルクスは兄上の落とし子であると城の者たちには認識されていた。
「いったんこうすると決めた兄上は誰にも止められない……俺たちはただ、ルクスが何事もなく無事に成長するのを祈ることししかできないよ」
「うーん……ラウルス殿の苦悩する姿が目に浮かぶな……」
「ラウルス……」
そう考えると、俺の護衛とは言え帝都から離れられるのはラウルスにとって、悪い話じゃない……か?
五日後――
よく晴れた日。凛とした早朝の空気の中、俺は馬に乗って街道を進んでいた。
秋から冬に移り変わる季節の冷たい風が頬に吹きつけるが、暖かな外套に身を包んでいるおかげで。心地いいくらいだ。
隣にはラウルスの愛馬が馬首を並べている。服装は騎士の甲冑ではなく旅装だった。冒険者だと名乗っても少しも違和感のない装束だ。
この旅では、よほどのことが起きない限りは転移魔法は使わないと決めていた。
一度訪れたことのある場所ならどんなところへでも行ける魔法は便利すぎるけれども、旅の醍醐味をが失われるというか……味気なくなるというか……
「ノア、よろしくお願いします」
「ラウルス……ごめんなさい。忙しいのに付き合わせちゃって……」
「いいえ、むしろ感謝しております。今日まで働き詰めでしたので、ゆっくりと骨休めをさせていただけるのはありがたいです。貴方と旅をするのも楽しみですし」
「ほんと……?よかったあ」
馬の蹄が地面を打つ音が小気味よく響く。
新鮮な朝の空気を、深く吸う。
「二ヶ月だって。あっという間だろうねえ……」
「ええ、そうでしょうね」
「俺はもっと、旅を続けたいよ」
「それは……」
「わかってる。ラウルスを困らせる気はないんだ。一人で旅を続けるつもり」
「グラヴィスが許すかどうか……」
「……厳しいかな」
はあ――……
思っていたよりも、重いため息を吐いてしまった。
「連れ戻しに来ると思う?」
「ええ。今はルクスが手のかかる時期ですが……」
「ルクス……!俺に構ってるヒマなんてないんじゃ……」
「甘いですね、ノア」
「うう……」
「わかることはひとつ」
「ん?」
「より強い意志を持つ者が、望みを叶える」
ラウルスは穏やかに笑んでいた。
「ああ……そうだったなあ――」
やりたいことが、数えきれないほどたくさんある。
旅に出て色々なものを見る。それから――
ギルドの依頼をこなして、冒険者としての名を上げたい。
今度こそは、自分自身の実力で――
魔法の腕前をもっと上達させたい。クラフターは職人級を目指す。
それから、帝都でウィルとエトワールと語り合った……仲間たちと共同でカフェを開く……なんて、絶対面白そうじゃないか――
光満ちるこの世界を自由に、心赴くままに歩いていく。胸に夢と希望を抱いて――
これから先も、ずっと――
某国の皇子、冒険者となる・完
*
拙いお話をお読みいただき、ありがとうございました!
またどこかでお会いしましょう!
くー
6
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。
処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。
なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、
婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・
やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように
仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・
と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ーーーーーーーー
この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に
加筆修正を加えたものです。
リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、
あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。
展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。
続編出ました
転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668
ーーーー
校正・文体の調整に生成AIを利用しています。
光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる