禁断の魔術と無二の愛

くー

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7話

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 少し肌寒くなり始めた日の早朝、マシューは小麦粉と、とれたての卵と、配達されて間もない搾りたての牛乳を混ぜ合わせて生地を作っていた。
 薄く油を引いて火にかけたフライパンに生地を流し込み、弱火でじっくり焼いていく。
「これで、セシルの機嫌が治ってくれるといいんだけど……」
「あんたたちまさか、ケンカでもしたのかい!?」
「うわっ」
 マシューが振り返ると、腰に手を当てて眉根を寄せたマシューの母、マーサがいた。白い三角巾を被り、肉付きのよい樽のような身体をしている。血色のいい頬は赤く、健康的である。
「驚かせるなよ、かあさん……」
「どうなんだい! えぇ!?」
「いや……そんな大したことじゃないんだけど」
「あんたの意見は当てにならないよ! ……まったく、どれ、ちょっと貸してみな」
 マーサはそう言うなり、マシューからフライパンをひったくり、生地の焼き加減を確かめた。
「パンケーキかい。これでセシルのご機嫌をとろうって算段だね」
「そうだけど……悪いかよ」
「いや、お前にしちゃあ上できだよ。ふぅむ……少し火が強いかねえ」
「あー……そうなのか」
 マーサは釜戸の火を調整し、木べらを使って生地の裏面を確認する。
「うん……このくらいがちょうどいいさね。ここはあたしが見といてやるから、あんたは他の準備を進めな」
「おう、助かるよ、かあさん」
「ちゃっちゃと、手早くやるんだよ。あったかい内に食べさせてやりたいからねえ」
 こうして朝食は滞りなく完成し、マシューは朝食を詰めたバスケットを提げ、実家からセシルの魔術塔への通い慣れた道を歩いていた。
 昨夜のセシルの痴態を思い出しては頬を染め、自身の振る舞いの碌でもなさに頭を抱え、その場にしゃがみ込む。誰ともすれ違わなかった運の良さに感謝した。
 ——平常心、平常心。
 普段通りに魔術師塔へと足を踏み入れるマシュー。
「はよー……」
「……おはよう」
 羽ペンを持ち、紙に何やら書きつけているセシルは、一瞬だけ顔を上げ、幼馴染に朝の挨拶を返す。セシルの顔色を窺い、マシューはホッと胸を撫で下ろした。
 ——よかった……いつも通りの仏頂面だ。
「なーんと、今日はパンケーキを焼いてきました」
 バスケットを高く掲げて見せるマシュー。
「ほう……」
「用意してくる。すぐ来られるか?」
「これを片付けたら行く」
 二階に上がり、マシューが上機嫌で朝食の用意を整えていると、セシルが階下から上がってきた。
「朝からおつかれさん。忙しいのか?」
「いや……朝にしか咲かない原料を使う薬が続いたせいで、早朝に作業するのが習慣になっているだけだ。それと……」
 セシルは生成り色の薬が詰められた瓶をテーブルの上に置いた。
「ホルヘさんに渡しておいてくれ」
「もうできたのか。爺さん喜ぶぜ」
「それは結構なことだ。さしたる手間もかかっていない。この軟膏は保管している材料だけでできるからな」
 セシルはこともなげに言うが、彼の作る薬は二流三流の魔術師に作れる代物ではない。だが、セシルにとって村人たちの求めるような薬作りは奉仕活動のようなもので、彼の本分は魔術の研究にあるという。
 王都の魔術学院の一画に研究室を与えられる程に優秀な魔術師である彼が、村へと戻ってきてからの日々を、マシューは思い返していた——。


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