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32話
「マシュー? そんなことはないから……」
セシルは戸惑いつつもマシューに手を差し伸べた。だが、その手をしっかと握ったのは、マーサだった。
「今の言葉、本当だねっ!?」
「えっ」
マーサにずずいっと顔を覗き込まれたセシルは、並々ならぬ迫力に気圧され、思わず身をのけぞらせた。
「は、はい……本当、です」
「セシルっ! よく言ってくれたよぉ!」
「かあさんっ……!」
「マーサ……そこらへんにしときなさいね」
マーサは夫であるヨセフに窘められ、はっと我に返った。
「あんた……あたしったら、嫌だよぉ。つい熱くなっちまって……ごめんねぇ、セシル」
いえ——と苦笑を返すセシルだが、食卓は俄かにざわめき出していた。
「えっ? どういうこと!?」
頭上に疑問符を浮かべたビリーが、隣席のファビオと顔を見合わせ首を傾げている。
「セシルと兄貴って、まさか……」
「ちゃんと説明しろよ、兄貴」
ファビオに木の実の殻を軽く投げ付けられたマシューは、深く息を吸ってから家族たちに宣言した。
「実は、俺とセシルは交際してる」
「ええーっ!!」
マシューの兄弟たちと妹のアンヌに加え、ケヴィンの婚約者、ユニスの驚きの声が狭苦しい居間に大きく響く。
「マジで……」
「かあさんと、とうさんは知っていたの?」
目を見張るケヴィンの問いに、父と母はにっこりと、大きく首を縦に振った。
「もちろんさ。あたしたちの目は誤魔化せないよ」
「だが、わしらもこうやってマシューの口から直に聞いたのは、今日が初めてだ。嬉しいなあ……なんていい日なんだろう。かあさんや?」
「あんた……あたしゃ、もう……」
マーサは顔をくしゃくしゃにして、涙を流し始めた。
「か、かあさん?」
「どうなることやらと、あたしゃもう、心配で心配で……」
マーサは充血した目から涙を拭い、セシルに真剣な面持ちで向き合った。
「マシューは馬鹿だけど、気立てが良くて可愛い自慢の息子なんだ。幸せにしてやっておくれよ」
「は、はい」
一連のやりとりを呆然と見守っていた兄弟たちのひとり、四男のビリーがぼそりと言った。
「なんか、マシュー兄ちゃんが嫁に行くみたいだな……」
「こんなゴツイ——嫁……?」
ファビオの言葉は、マーサの一睨みにより遮られた。
「お兄ちゃん、お嫁さんになるの?」
末っ子のアンヌはくりっとしたはしばみ色の目を瞬かせ、不思議そうにマシューへ問うた。
「い、いや……って、俺が嫁?」
ははは……と、どうしたものかという困惑した笑みを浮かべたマシューに、マーサはきっぱりと言った。
「そうだよ。お前は嫁として、セシルをしっかり支えてやるんだよ」
「かあさん……」
「かあさんの言う通りにしておけば、間違いないよ。マシュー」
「と、とうさんまで……」
家長である父と実質的に家を切り盛りする母、ふたりの決定は絶対である。
「お兄ちゃん、私がおいしい焼き菓子の作り方、教えてあげるね」
「アンヌ……」
末娘からの可愛らしい提案に、食卓は朗らかな笑いがこぼれる。
「たしかに、花嫁修業に関してはアンヌが先輩になるね」
「兄貴まで……」
「あら、じゃあ私は、お掃除が得意よ。教えさせてくださいな」
兄ケヴィンの婚約者であるユニスもアンヌの提案に続き、マシューはたじろいだ。
「あ、ありがとう、ユニスさん」
「もちろん、あたしが家事全般、ビシバシ鍛えてやるからね。あたしは厳しいからねぇ……覚悟しとくんだよ、マシュー!」
マーサに背中をバシンとやられたマシューは、隣の席でマシューと家族たちのやりとりに笑っていたセシルと、顔を見合わせた。マシューの愛する人は、困ったような、幸せそうな笑みを浮かべていた。
「まったく……俺の家族は……」
どうしてこうもお節介なんだ、と続けたマシューに、家族たちから抗議の声が殺到したのだった。
セシルは戸惑いつつもマシューに手を差し伸べた。だが、その手をしっかと握ったのは、マーサだった。
「今の言葉、本当だねっ!?」
「えっ」
マーサにずずいっと顔を覗き込まれたセシルは、並々ならぬ迫力に気圧され、思わず身をのけぞらせた。
「は、はい……本当、です」
「セシルっ! よく言ってくれたよぉ!」
「かあさんっ……!」
「マーサ……そこらへんにしときなさいね」
マーサは夫であるヨセフに窘められ、はっと我に返った。
「あんた……あたしったら、嫌だよぉ。つい熱くなっちまって……ごめんねぇ、セシル」
いえ——と苦笑を返すセシルだが、食卓は俄かにざわめき出していた。
「えっ? どういうこと!?」
頭上に疑問符を浮かべたビリーが、隣席のファビオと顔を見合わせ首を傾げている。
「セシルと兄貴って、まさか……」
「ちゃんと説明しろよ、兄貴」
ファビオに木の実の殻を軽く投げ付けられたマシューは、深く息を吸ってから家族たちに宣言した。
「実は、俺とセシルは交際してる」
「ええーっ!!」
マシューの兄弟たちと妹のアンヌに加え、ケヴィンの婚約者、ユニスの驚きの声が狭苦しい居間に大きく響く。
「マジで……」
「かあさんと、とうさんは知っていたの?」
目を見張るケヴィンの問いに、父と母はにっこりと、大きく首を縦に振った。
「もちろんさ。あたしたちの目は誤魔化せないよ」
「だが、わしらもこうやってマシューの口から直に聞いたのは、今日が初めてだ。嬉しいなあ……なんていい日なんだろう。かあさんや?」
「あんた……あたしゃ、もう……」
マーサは顔をくしゃくしゃにして、涙を流し始めた。
「か、かあさん?」
「どうなることやらと、あたしゃもう、心配で心配で……」
マーサは充血した目から涙を拭い、セシルに真剣な面持ちで向き合った。
「マシューは馬鹿だけど、気立てが良くて可愛い自慢の息子なんだ。幸せにしてやっておくれよ」
「は、はい」
一連のやりとりを呆然と見守っていた兄弟たちのひとり、四男のビリーがぼそりと言った。
「なんか、マシュー兄ちゃんが嫁に行くみたいだな……」
「こんなゴツイ——嫁……?」
ファビオの言葉は、マーサの一睨みにより遮られた。
「お兄ちゃん、お嫁さんになるの?」
末っ子のアンヌはくりっとしたはしばみ色の目を瞬かせ、不思議そうにマシューへ問うた。
「い、いや……って、俺が嫁?」
ははは……と、どうしたものかという困惑した笑みを浮かべたマシューに、マーサはきっぱりと言った。
「そうだよ。お前は嫁として、セシルをしっかり支えてやるんだよ」
「かあさん……」
「かあさんの言う通りにしておけば、間違いないよ。マシュー」
「と、とうさんまで……」
家長である父と実質的に家を切り盛りする母、ふたりの決定は絶対である。
「お兄ちゃん、私がおいしい焼き菓子の作り方、教えてあげるね」
「アンヌ……」
末娘からの可愛らしい提案に、食卓は朗らかな笑いがこぼれる。
「たしかに、花嫁修業に関してはアンヌが先輩になるね」
「兄貴まで……」
「あら、じゃあ私は、お掃除が得意よ。教えさせてくださいな」
兄ケヴィンの婚約者であるユニスもアンヌの提案に続き、マシューはたじろいだ。
「あ、ありがとう、ユニスさん」
「もちろん、あたしが家事全般、ビシバシ鍛えてやるからね。あたしは厳しいからねぇ……覚悟しとくんだよ、マシュー!」
マーサに背中をバシンとやられたマシューは、隣の席でマシューと家族たちのやりとりに笑っていたセシルと、顔を見合わせた。マシューの愛する人は、困ったような、幸せそうな笑みを浮かべていた。
「まったく……俺の家族は……」
どうしてこうもお節介なんだ、と続けたマシューに、家族たちから抗議の声が殺到したのだった。
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