ラビュステル 〜呼ばれし者と死者たちの王国〜

くー

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第一章 失くした記憶と巡り会う運命

5. エルフと人間

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「アルシュはあんたらにシャルロを重ねてるんだ」
「僕たち……二人に?」
「シャルロの髪は見事な白金色でな。クロ……あんたの髪の色……まあ、部分的にだがな。その色だよ」
 クロの髪は大部分が黒だったが、幾筋か白金色になっている。
「それからミツキ……シャルロはあんたと同じような青い目をしていた」

 青い目……そういえば……
『ミツキの青い目、とってもキレイだよ。だから、大丈夫!』
 って、言ってたっけ……

「俺はアルシュが心配だった。兄貴や両親のあとを追っかけて行っちまうんじゃないかってな。だが、今日のアイツの顔を見たらそんな心配、どこかへ吹っ飛んじまったよ」
 マスターは僕とクロの顔を交互に見回し、頷いた。
「だからな、あんたらにはしばらくアルシュと一緒にいてやってほしい」

 はあ……と、溜め息を吐いたのは、クロだ。
「アルシュと私たちは見ず知らずの他人だ。私に至っては記憶を失っているために素性も知れない。そんな人間にエルフが身寄りのない子どもを託すとは……失礼だが、あなたの常識を疑ってしまうな」
 クロの言葉は辛辣だった。僕は二人が口論に発展してしまうのではないかと心配で、冷や汗が流れた。

「常識ねぇ……あんた、記憶を失っちまってもやっぱり人間なんだなぁ」
「そうだ……エルフと人間は相容れない。寿命も文化もまったく違うのだから」
 マスターは目を伏せ、首を左右に振った。
 エルフと人間……アルシュの態度から、両種族は友好的な関係が築けているのではないかと思っていたが、そうではないのかもしれない。
 この世界に来たばかりで何もかも、わからないことだらけだ。この先、どうなるんだ?上手くやっていけるのだろうか……

「エルフは人間よりも直感力に優れてるんでね。常識外れだろうが気にしない。己の勘に従うまでさ」
「…………」
「そう心配するなって。エルフと人間だって、まったく相容れないってわけじゃないだろ?アイツとあんたらは上手くやっていける。俺の直感を少しは信じてみちゃくれないか?」
「私は——」

 クロの言葉は、店の扉が開かれる音によって遮られた。
「お待たせ!ごめんね、待たせちゃったかな?」
 アルシュが戻ってきた。ケープを羽織り、よく使い込まれた丈夫そうなブーツを履いている。背には弓矢を背負っていた。走ってきたのか少し息を切らしている。薔薇色の頬は赤みを増して、りんごのように赤くなっていた。

「おお、カッコいい!」
「ぼく、鳥を射るのなら村の大人たちにだって負けないよ」
 マスターの顔には、アルシュを誇らしく思う気持ちが浮かんでいた。
「アルシュの弓の腕はモネルの村で一番だぜ」
「えへへへ」
 アルシュは誇らしげに笑った。

「アルシュ……」
 クロが席を立ち、アルシュの前に進み出た。
「きみも私たちと一緒に来るつもりなのか?」
「うん!」
「なぜ?」
「クロとミツキだけじゃ心配だから。ぼくが助けてあげるんだ」
「私はきみのようなまだ小さな子どもが——」
 アルシュはクロの言葉を遮って、悲しげに眉をゆがめた。
「クロはぼくと一緒はイヤなの?」

 エルフの少年の目は潤み、いまにも涙がこぼれそうだ。
「そ、そういうわけではないのだ……私はきみの安全を第一に考えて……」
「安全って……クリュシェットにはぼく、何度も行ったことがあるんだよ。何にも知らないクロやミツキを二人よりも、ぼくひとりの方が安全なくらいなんだから!」
「なっ……」
 はっはっはっは……と、マスターは愉快そうに笑った。
「そういうことだ。アルシュ、二人の護衛は頼んだぜ」
「任せといて!」

 クロは呆れたように、小さくつぶやいた。
「まったく……お人好しなエルフたちがいたものだ」
 こうして、僕たちは三人でモネルの村の隣町、クリュシェットへと向かう事となったのだった。





 僕たちは店の扉を潜り、外へ出た。店の前でマスターはアルシュの前に膝を付き、力強く肩に手を置いた。
「魔物や山賊には十分気を付けるんだぞ。陽が暮れたら早い内に宿をとってゆっくり休め。夜は街中に出るのも極力控えるように。街の外に出るなんて、もっての外だぞ」
「はい、はい」
「なんだそのぞんざいな返事は」
「だってえ。マスター何回も同じ事言うから、もう聞き飽きちゃったよ」
 マスターはアルシュの頭にポン、と手を置いた。
「大事なことは何回も言ってやらなきゃだめなんだ。おまえのためなんだぞ、アルシュ」
「はーい」
「まったく……まあ、ここいらは魔物も少ない。大丈夫だとは思うが」

 立ち上がったマスターは、僕とクロに向き直った。
「アルシュのこと、頼むな」
「はい!」
「アイツは歳の割にはしっかりしてるが、まだ子どもだ。頑固で融通がきかない面もある。できるだけ気にかけてやっちゃくれないか?」
「……私たちはおそらく自分のことだけで手一杯だ。できる限り気を配る努力はするが、保証はできないぞ」
「ああ、わかってるさ」

 マスターは草笛を吹いてひとり遊んでいるアルシュの方へと顔を向けた。その表情はなんとも寂しげだった。
「アルシュは僕たちが守ります。心配しないでください」
「ああ……ありがとうな」



 僕たち三人は金の子山羊亭を後にした。振り返ると、マスターはまだ店の前に立って僕らを見送ってくれていた。
 モネルの村は小さい。村の東側の入り口にはすぐに到着した。ここから、クリュシェットの街へ——目の前には踏みならされた道、周囲には青々とした木々、遠くには切り立った山々が聳えている。

 この道の続く先には、いったい何が待ち受けているのだろうか——




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