ラビュステル 〜呼ばれし者と死者たちの王国〜

くー

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第一章 失くした記憶と巡り会う運命

7. クリュシェットの街へ

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「似てるのかなあ……魔法も魔物も存在しないから、けっこう違うのかも……あのさ……教えてもらってばかりで悪いけど、こっちの世界のこと、もっと教えてほしいんだ。本当に知らないことだらけで、これからちゃんとやっていけるかどうか、不安で……」
「ミツキはぼくが助けてあげるから大丈夫だよ!」
「ありがとう、アルシュ……」
「任せといてよ!」
 アルシュの言葉に、不安な気持ちが軽くなった。本当に、アルシュはいい子だな……

「……私も自分自身の身元が知れずに、きみと同じような不安を抱えている。お互い助け合っていけば……効率がいいはずだ」
「クロ……」
 クロと目を合わせようとすると、フイ——と顔を背けられた。
「え……」
「あ……いや……」
「ふふふ……クロは照れ屋さんなんだね!」
「ア、アルシュ……!」
 クロはアルシュに咎めるような視線を送った。

「ミツキ、クロはミツキと仲良くなりたいんだけれど、恥ずかしくて目が合わせられないんじゃない?」
 可愛いね、とアルシュは無邪気に笑った。
「な、何を言ってるんだ、アルシュ……」
「みてみて!クロったら赤くなってる!どうして?」
「……クロ?」
 今やクロは僕たちに背を向けているが、黒髪の間からのぞく形のよい小さな耳は、赤く染まっていた。

「……フン。早く行かなければ街に着く前に日が暮れてしまうぞ」
 そう言って、クロは突然走り出していった。
「クロ⁉︎待ってよー!」
 僕とアルシュもクロを追いかけて駆け出した。


 しばらく走ると、前を走っていたクロに追いついた。クロは地べたにしゃがみ込み、ゼイゼイと荒い息を吐いていた。
「大丈夫、クロ?」
 アルシュは笑いながらクロの背中をさすっている。
「ひとつ…わかった……」
 クロは息も絶え絶えだ。あれ?そんな距離でもなかったような……
「私は…まったく…体力が……ないようだ」
「クロはもやしっ子だね」
 アルシュは無邪気に笑っている。
「ああ……そうだがっ……はっきり言ってくれるな……アルシュ」

 まあ、見かけの印象から運動が得意そうには見えなかったから、予想通りと言えばそうだった。
「ぼくわかっちゃった!」
「何が?アルシュ」
「クロはたぶん、頭を使う仕事をしてたんじゃない?だから、こんなことになってるんだよ」
「うん……そんな気がするね」

 はあ……とクロはため息をこぼした。
「……余程忙しくしていたに違いない……ならば、仕方がないだろう」
「よし!それじゃ、これからうんと鍛えよう!さっそく街まで軽く走ってみようか?」
 アルシュのスパルタな提案に、うっ……とクロは息を詰まらせた。
「いや……街を散策する体力を残しておかねばならない。ここは徒歩で行くのが上策だ」
 そう言って、若干背を丸めて歩き出した。アルシュは運動の提案を必死の形相で回避したクロの様子を思い出してか、可笑しそうにくすくすと笑っている。

 ふふ……クロの弱点を見つけてしまったなあ……


 それからも途切れることなく会話を続け、街道を歩き続けた。クリュシェットの街が視界の端に見え始めたのは、陽が傾き空が茜に色付き始めた頃だった。

「魔物に遭遇しなくてよかったね」
「だね。ぼくたち運がいいかも!」
「だが、次に街の外に出る機会があれば、事前に戦闘用の装備を整えておくべきだろうな」
「確かに……」
「街には武器や防具のお店がたくさんあるよ!でも、その前にさ…」
 グゥ~……
 アルシュのお腹が、不満を訴えて盛大に鳴った。
「お腹空いたよお~」
「実は僕も……街に着いたらすぐにご飯にしない?」
「賛成だ。村から四時間は歩き通しだったからな」

 街についてからの予定を相談している間に、街の門へと到着した。赤茶の石材で作られた壁が、ぐるりと街を囲んでいる。門の前は槍を持った番兵が警備をしているが、門を通る人を呼び止めてはいなかった。
「門に番兵がいるけど、通行証とかはいらないの?」
「大丈夫だよ。番兵さんは魔物から街を守ってくれてるんだ」
 門をくぐり抜け、街へと入った。

「わぁ……」
 なんだか……映画の世界に入りこんだみたいだなあ。

 地面には石畳が敷かれ、建物も同様の石材で造られている。行き交う人々の服装はモネルの村人たちと同じような、西洋の民族衣装に似た出で立ちだった。
 モネルの村は小さな村だったせいか住民とすれ違うことはそうなかったし、村人はみなエルフだった。けれど、ここクリュシェットの街にはエルフに次いで人間も多いようだ。
 門から歩みを進め街の中心部へと近づいていくと、徐々に道幅が広くなってくる。それにつれて道の両脇には店が立ち並び、行き交う人々も増えてきていた。

「とっても、とーっても、いい匂い……」
 ちょうど夕食の時間帯のせいか、露店や店から立ち上ってくる食事の香ばしい匂いが辺りに漂い始めている。またお腹が鳴ってしまいそうだ。
「どこでもいいから店に入りたいな」
「クロに賛成……あの店はどうかな?」
 テラス席がいくつか設けられている料理店を指さした。黒板のメニューには肉料理やパエリアらしき料理や、飲み物の絵がチョークで描かれている。
「なんだか雰囲気よさそうなお店だね」
「決まりだな」

——カランカラン。
「いらっしゃいませ!」

 ランプの光に照らされた店内は適度な広さがあり、ほっとするような雰囲気だった。店員に案内され、店の奥のテーブル席に腰を下ろす。隣の席にアルシュが、向かいの席にクロが座った。
「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」
 そう言って店員から手渡されたメニューには、見慣れない記号——この世界の文字が並んでいた。

 もしかして……?眉根を寄せ目に力を入れてメニューに書かれた文字を睨みつけると、頭の中にぼんやりと言葉が浮かび上がってきた。
「……と…鳥……?……キノコ?」
 話し言葉は不自由なく理解できて意思疎通に困ることはないけれど、何故か文字を読むことは話すことよりも断然難しいようだ。それでも、じっと目を凝らして見慣れない記号の羅列を睨めつければ、不思議と頭にイメージが浮かんでくる。不思議だなあ……

「ミツキ?あ…そっか、ミツキは海の向こうから来た、ラビュステルだから……」
「うん……ほんの少しならわかるんだけどね」
「そうなのか……会話は完璧にできているようだが」
「実は、信じられないかもしれないけれど、こっちの言葉を勉強したわけじゃないのに何故か言葉を聞き取れるし、話せるんだ。でも、読み書きはこうやって……」

 メニューの他の行を読んでみる。……トウモロコシと…豚肉?が使われた料理があるようだ。
「集中して文字をじっ…と見つめて、ようやく単語のイメージが頭に浮かんでくるくらいなんだ。時間もかかるし……」
 まあ、まったく文字が読めないよりはいいけれど……

「大丈夫だよ!ぼくがミツキの代わりに読んであげるね」
「わからないことがあれば、なんでも聞いてくれ」
「ありがとう……二人とも」
 アルシュ、ミツキ……この世界で目覚めて早々に、二人と出会えてよかった。もしも二人が一緒でなければ、もっと困難な状況になっていたような気がする……


 注文してからしばらくすると、待ちに待った料理が運ばれてきた。美味しそうな匂い、見た目、そして肝心の味は……期待を裏切らない美味しさだった。
 加減よく焼いたクレープ生地と色とりどりの野菜、香辛料の効いたスープ、若鶏のオーブン焼き、白魚のフリット……どれも美味しくて量もあり、文句の付けようがない。

「美味しかったねー!」
 にこにこと上機嫌で笑うアルシュ。
「ああ」
 クロも満足気だ。
「また来たいなぁ……」
「ぜったい来よう!」
「賛成だ」

 またこの店に来て、みんなでおいしい食事をとる…………だが、そのためには必要不可欠なものがある。

それは、お金——

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