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第一章 失くした記憶と巡り会う運命
9. 冒険者ギルド・ブールギニョン
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「ぼくのせいだ……みんな、迷惑かけてごめんなさい……」
「アルシュは悪くないよ」
「だが、不注意だったことは確かだな。これからは注意していこう」
ルークは苦笑した。
「あんたら、どうにも危なっかしいなあ……。もう日も暮れて暗いし、冒険者ギルドに向かう道中でも狙われちまうんじゃねえか?」
「……話を聞いていたのか?」
クロは腕を組んで訝しげにルークを見上げた。
「耳に入っちまったんだよ。いつでも動けるよう、神経を尖らせてたからな」
「ぼくたちのためにありがと、ルーク!」
「おう。まあ、たいしたことじゃないさ」
ルークはしゃがみ込んでアルシュと目線を合わせ、街灯の光を受けて輝く金の頭を撫でた。
「えへへ……」
「ついでに、ギルドまで護衛してやるよ」
「えっ…?いいの⁉︎」
「そこまで世話になるわけにはいかない」
「クロ……」
はあ……とルークはため息を吐いた。
「あんたら、冒険者ギルドで依頼をこなして金を稼ごうとしてるみたいだが……何の紹介もなしに冒険者登録はできないぞ?」
「え……紹介?」
「やっぱり知らなかったか……ギルドも依頼人からの大事な依頼を、得体のしれない旅人風情に任せるわけにはいかないからな」
それもそうか……どうしよう……
「ま、俺はこの街のギルド、ブールギニョンの冒険者としてそれなりの実績がある。俺があんたらをギルドに紹介してやるよ」
「なっ……?」
「ほんとに⁉︎」
「待て、二人とも……」
喜びかけた僕とアルシュとルークを遮るように、クロは前に進み出た。
「ルークと言ったな……何故そこまで私たちの世話を焼こうとする?何か裏があるのではないか?」
「クロっ!やめなよ、せっかく……」
ルークはクロに、なるほど、と見定めるような視線を向けた。
「クロは疑り深いんだな。冒険者としてうまくやってくには無暗に人を信じないことも重要だが、頼ってもいい人間を見極める目も必要だぜ?」
「見極める目くらい、持っている」
ルークとクロに険悪な空気が流れ始めたが、
「ケンカはだめだよう」
アルシュがクロの腕を取って、ルークを睨みつけるのを止めさせようとする。
「……ケンカというわけではない。私はただ」
「ごめんな、アルシュ。俺はおまえたちを助けてやりたかっただけなんだが……」
マズイ……このままじゃ、ギルドに紹介してもらえるという話が立ち消えになってしまう……クロのせいで。なんとかしなきゃ……!
「ルーク……」
「ん?」
僕は大きく息を吸って、声を発した。
「僕らをギルドに紹介してほしいです。どうか、お願いします!」
「へえ~。あんたはミツキって言うのか。ひょろっこいけど、なんか使えるのか?」
「つ、使う?いや、特に何も……」
「ふーん……。魔法が使えると便利なんだが」
「魔法も全然……」
「うーん……。ま、ギルドには冒険者としての適正を測る計測機みたいなものがあるから、一度見てもらうといい」
そんなものがあるのか……。適正……あるのかなあ。
「あ!ぼくもぼくも!ギルドに紹介お願い、ルーク!」
「アルシュは弓を使うのか?」
「うん!モネルの村で鳥を射るのが一番上手いのは、ぼくだよ!」
「そりゃ頼もしいな。さて、クロはどうする?」
「……紹介料をとる気か?」
「クロ……!」
アルシュがクロを嗜めるが……それは僕もはっきりさせておきたいな。
「ご心配なく、無料で紹介させていただきますとも」
「もう、クロったら……ごめんね、ルーク」
クロの態度にヒヤヒヤしたが、ルークは機嫌を損ねたようではなかった。よかった……
それから僕たちは冒険者ギルドへ向かって、宵闇に包まれたクリュシェットの街を歩き始めた。
「ふーん……クロは記憶喪失で、ミツキは海の向こうからやってきたラビュステルなのか……」
「うん!そうなんだ!」
アルシュがルークに元気よく答えた。アルシュ……初対面の人と打ちとけるの早いなあ……
「ルークはどこから来たの?」
「俺はシュバリエ―ル王国の出だ。シュバリエ―ル王国は知ってるか?」
「もちろん!シュバリエ―ル王国はアーヴィング連盟の盟主国だよね。村の学校の先生から習ったよ」
「正解!よく勉強してるな、アルシュ。えらいぞ」
「えへへへ」
褒められて素直に喜んでいるアルシュとは対照的なのは、クロだ。
「ルフェーブル王国はアーヴィング連盟の北西、シュバリエ―ル王国は南東……何故きみは故郷から遠く離れた土地で冒険者をしているのだ、ルーク?」
クロの口調には少しトゲがあった。やはりまだ、ルークをあまり信用していないようだ。
「長い話になるんだが……おっと残念、もうギルドに着いちまった」
前方には、暗い色の煉瓦で造られた建物が立っていた。両面開きの扉は重厚感のある木材で造られている。
「ここが……」
「クリュシェットの街の冒険者ギルド・ブールギニョンへようこそ。どうぞお入りください——なんてな」
ギイィ——と軋む扉を潜り抜け、僕たちは冒険者ギルドへと足を踏み入れた。陽が暮れて若干肌寒くなっていたが、部屋の中は暖炉に火が入れられており温かい。扉の近くに設けられた受付に向かうと、カウンターに立っている茶髪の女性がこちらへ会釈した。
「ルーク。お久しぶりね」
「やあ、エミリア。元気そうだな」
女性とルークは親しげな雰囲気だ。
「ルークも元気そうで何よりだわ。最近、めっきりギルドに顔を出してくれなくなったから、みんな噂していたのよ」
「まいったな。どっかで死んじまったと思われてたか」
「外れ。ルークのことだから、どこかの女に入れ上げて、お仕事が疎かになってるって噂よ」
「な、何言ってるんだよ」
慌ててこちらを振り返ったルークを迎えたのは、クロの絶対零度の視線だった。
「なるほど……」
「だから違うんだって……」
「安心してくれ。きみの人物評価などにそれほど興味はない。そんなことよりも、こちらにはまだ幼い子どもがいるのだ。夜が更ける前に目的を果たしたいのだが?」
「あ、ああ。わかってるって。エミリア、こいつらの用件を聞いてやっちゃくれないか?」
「あら、失礼しました」
受付の女性は僕らと目を合わせ、笑顔を浮かべてハキハキと話し始めた。
「みなさん、クリュシェットの街の冒険者ギルド・ブールギニョンへようこそ。本日はどういったご用件でしょうか?」
「あ、あの……僕たち、冒険者向けの仕事を紹介していただきたいのですが」
「当ギルドでの冒険者登録はお済みでしょうか?」
「いえ、まだです」
「俺がこいつらの身元を保証する。だからさ、ちゃちゃっと登録してやって、楽で稼げるおいしい仕事を紹介してやってくれよ」
「あらまあ……」
エミリアは目を瞠ってルークを見た。
「ルークがそこまで親身になってあげるなんて、珍しいわねえ……?」
「そうか?俺だって、たまには人助けしたくなるときがあるのさ」
「アルシュは悪くないよ」
「だが、不注意だったことは確かだな。これからは注意していこう」
ルークは苦笑した。
「あんたら、どうにも危なっかしいなあ……。もう日も暮れて暗いし、冒険者ギルドに向かう道中でも狙われちまうんじゃねえか?」
「……話を聞いていたのか?」
クロは腕を組んで訝しげにルークを見上げた。
「耳に入っちまったんだよ。いつでも動けるよう、神経を尖らせてたからな」
「ぼくたちのためにありがと、ルーク!」
「おう。まあ、たいしたことじゃないさ」
ルークはしゃがみ込んでアルシュと目線を合わせ、街灯の光を受けて輝く金の頭を撫でた。
「えへへ……」
「ついでに、ギルドまで護衛してやるよ」
「えっ…?いいの⁉︎」
「そこまで世話になるわけにはいかない」
「クロ……」
はあ……とルークはため息を吐いた。
「あんたら、冒険者ギルドで依頼をこなして金を稼ごうとしてるみたいだが……何の紹介もなしに冒険者登録はできないぞ?」
「え……紹介?」
「やっぱり知らなかったか……ギルドも依頼人からの大事な依頼を、得体のしれない旅人風情に任せるわけにはいかないからな」
それもそうか……どうしよう……
「ま、俺はこの街のギルド、ブールギニョンの冒険者としてそれなりの実績がある。俺があんたらをギルドに紹介してやるよ」
「なっ……?」
「ほんとに⁉︎」
「待て、二人とも……」
喜びかけた僕とアルシュとルークを遮るように、クロは前に進み出た。
「ルークと言ったな……何故そこまで私たちの世話を焼こうとする?何か裏があるのではないか?」
「クロっ!やめなよ、せっかく……」
ルークはクロに、なるほど、と見定めるような視線を向けた。
「クロは疑り深いんだな。冒険者としてうまくやってくには無暗に人を信じないことも重要だが、頼ってもいい人間を見極める目も必要だぜ?」
「見極める目くらい、持っている」
ルークとクロに険悪な空気が流れ始めたが、
「ケンカはだめだよう」
アルシュがクロの腕を取って、ルークを睨みつけるのを止めさせようとする。
「……ケンカというわけではない。私はただ」
「ごめんな、アルシュ。俺はおまえたちを助けてやりたかっただけなんだが……」
マズイ……このままじゃ、ギルドに紹介してもらえるという話が立ち消えになってしまう……クロのせいで。なんとかしなきゃ……!
「ルーク……」
「ん?」
僕は大きく息を吸って、声を発した。
「僕らをギルドに紹介してほしいです。どうか、お願いします!」
「へえ~。あんたはミツキって言うのか。ひょろっこいけど、なんか使えるのか?」
「つ、使う?いや、特に何も……」
「ふーん……。魔法が使えると便利なんだが」
「魔法も全然……」
「うーん……。ま、ギルドには冒険者としての適正を測る計測機みたいなものがあるから、一度見てもらうといい」
そんなものがあるのか……。適正……あるのかなあ。
「あ!ぼくもぼくも!ギルドに紹介お願い、ルーク!」
「アルシュは弓を使うのか?」
「うん!モネルの村で鳥を射るのが一番上手いのは、ぼくだよ!」
「そりゃ頼もしいな。さて、クロはどうする?」
「……紹介料をとる気か?」
「クロ……!」
アルシュがクロを嗜めるが……それは僕もはっきりさせておきたいな。
「ご心配なく、無料で紹介させていただきますとも」
「もう、クロったら……ごめんね、ルーク」
クロの態度にヒヤヒヤしたが、ルークは機嫌を損ねたようではなかった。よかった……
それから僕たちは冒険者ギルドへ向かって、宵闇に包まれたクリュシェットの街を歩き始めた。
「ふーん……クロは記憶喪失で、ミツキは海の向こうからやってきたラビュステルなのか……」
「うん!そうなんだ!」
アルシュがルークに元気よく答えた。アルシュ……初対面の人と打ちとけるの早いなあ……
「ルークはどこから来たの?」
「俺はシュバリエ―ル王国の出だ。シュバリエ―ル王国は知ってるか?」
「もちろん!シュバリエ―ル王国はアーヴィング連盟の盟主国だよね。村の学校の先生から習ったよ」
「正解!よく勉強してるな、アルシュ。えらいぞ」
「えへへへ」
褒められて素直に喜んでいるアルシュとは対照的なのは、クロだ。
「ルフェーブル王国はアーヴィング連盟の北西、シュバリエ―ル王国は南東……何故きみは故郷から遠く離れた土地で冒険者をしているのだ、ルーク?」
クロの口調には少しトゲがあった。やはりまだ、ルークをあまり信用していないようだ。
「長い話になるんだが……おっと残念、もうギルドに着いちまった」
前方には、暗い色の煉瓦で造られた建物が立っていた。両面開きの扉は重厚感のある木材で造られている。
「ここが……」
「クリュシェットの街の冒険者ギルド・ブールギニョンへようこそ。どうぞお入りください——なんてな」
ギイィ——と軋む扉を潜り抜け、僕たちは冒険者ギルドへと足を踏み入れた。陽が暮れて若干肌寒くなっていたが、部屋の中は暖炉に火が入れられており温かい。扉の近くに設けられた受付に向かうと、カウンターに立っている茶髪の女性がこちらへ会釈した。
「ルーク。お久しぶりね」
「やあ、エミリア。元気そうだな」
女性とルークは親しげな雰囲気だ。
「ルークも元気そうで何よりだわ。最近、めっきりギルドに顔を出してくれなくなったから、みんな噂していたのよ」
「まいったな。どっかで死んじまったと思われてたか」
「外れ。ルークのことだから、どこかの女に入れ上げて、お仕事が疎かになってるって噂よ」
「な、何言ってるんだよ」
慌ててこちらを振り返ったルークを迎えたのは、クロの絶対零度の視線だった。
「なるほど……」
「だから違うんだって……」
「安心してくれ。きみの人物評価などにそれほど興味はない。そんなことよりも、こちらにはまだ幼い子どもがいるのだ。夜が更ける前に目的を果たしたいのだが?」
「あ、ああ。わかってるって。エミリア、こいつらの用件を聞いてやっちゃくれないか?」
「あら、失礼しました」
受付の女性は僕らと目を合わせ、笑顔を浮かべてハキハキと話し始めた。
「みなさん、クリュシェットの街の冒険者ギルド・ブールギニョンへようこそ。本日はどういったご用件でしょうか?」
「あ、あの……僕たち、冒険者向けの仕事を紹介していただきたいのですが」
「当ギルドでの冒険者登録はお済みでしょうか?」
「いえ、まだです」
「俺がこいつらの身元を保証する。だからさ、ちゃちゃっと登録してやって、楽で稼げるおいしい仕事を紹介してやってくれよ」
「あらまあ……」
エミリアは目を瞠ってルークを見た。
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