ラビュステル 〜呼ばれし者と死者たちの王国〜

くー

文字の大きさ
10 / 18
第一章 失くした記憶と巡り会う運命

10. 適性検査

しおりを挟む
 ギルドには、冒険者の魔法の習得適正や魔力を計測する機器が設置されていた。ルークの口利きで、僕たちは冒険者登録の前に各々の適正を計測をしてもらうことになった。
 
 計測器である腕輪を装着し、椅子に着席する。ギルドの術士が魔法を唱え、見慣れない機器を何やら操作している。しばらくすると羽ペンがひとりでに動き出し、紙に何かを書き付け始めた。
 あれも魔法か——?すごいな……
 
「計測は終わりです。次の方どうぞ」
 次はクロの番だ。クロの計測を待つ間に僕の検査結果が出たようで、魔法の羽ペンによって自動筆記された結果用紙を渡された。細かい文字がぎっしりと並んでいる。
 
「アルシュ……わかる?」
「どれどれ…………あ!」
 アルシュが嬉しそうな声を上げた。
「ミツキは治癒魔法の才能があるって!」
 
「治癒魔法?」
 治癒魔法を使えば、傷を癒し、魔物などから受けた毒を解毒し、疲れを軽減させたりすることができるそうだ。極めれば瀕死の傷すらも治癒できるらしい。
 
「僕にそんな力が……」
「よかったね、ミツキ!」
「でも、どうやったら使えるようになるんだろう……」
「魔術を使うための道具はいくつかあるが、初歩学習に適しているのはやはり、杖だろう」
「クロ!」
 なんでも知っているんだなあ……記憶喪失なのに……
 
「次はぼくの番だ!行ってくるね」
 アルシュは計測係の術士に大きな声で、お願いします!と挨拶していた。
「明日、街にある店に杖を見に行こう」
「……けっこう高い?」
「いや……初級者用の杖ならば、それほどかからないだろう」
 よかった……心苦しいけれど、アルシュにお願いして立て替えてもらおう。
「クロは検査どうだった?」
「まだ結果待ちだ。そろそろ……ああ、ちょうどいま出たようだ」
 
 クロは検査の結果、治癒魔法と四大元素魔法、両方の適正があるらしい。四大元素魔法とは、火、水、風、地を司る四つの元素を操る魔法で、魔物との戦闘時には主に攻撃魔法として用いられている。また、日常生活においても多岐に渡って応用が可能で、明かりを点けたり水を生成したりと、工夫次第で生活を極めて便利にできるという。
 
「私は治癒魔法よりも、四大元素魔法の方が適正値が高いようだ。ふむ……ソーサラーを目指すべきかな」
「クロはどっちの適正もあっていいなあ」
 でもまあ、異世界出身であるにもかかわらず、魔法の適正があっただけよかった。もしも、適正ゼロと検査結果が出ていたら……これといった特技もないし…………考えるのはよそう。

「どれ……」
 クロは身を乗り出して、僕の結果用紙を覗き込んだ。
「ミツキは私よりも治癒魔法の適正値が高いぞ」
「えっ……ほんと?」
「それに、四大元素魔法の素質も僅かだがある。努力次第で十分に習得可能なはずだ」
 
 クロと自分の結果を見比べてみたが、まだ不慣れな文字のせいでよくわからなかった。けれども、クロがどちらかといえば不得意な分野の方に適正があるらしきことは嬉しい。これから先、冒険者としてパーティを組んだとき、お互いの弱点を補って助け合えれば……何だか、少し希望が見えた気がした。
「ミツキはヒーラーだな」
「ヒーラーかあ……」

 計測の準備を待っている間に教えてもらったのだが、この世界の冒険者にはジョブという、扱える技能をにちなんだ呼称があるようだ。近接武器による物理攻撃を主体とするならばファイター、治癒魔法を用いてパーティの回復・補助役を担うならばヒーラー、四大元素魔法を自在に操り魔法で敵を攻撃するならば、ソーサラーといった具合らしい。

 魔法の修行を積まないとな……でも、一体どうやるんだろう……
 
「ミツキ、クロ!見て見てー!」
 検査を終えたアルシュが、結果用紙を掲げて小走りに駆けてきた。
 
「ぼくはね、ほんのちょっぴりだけど四大元素魔法の適正があるんだって!」
「ふうん……アルシュは弓の才能に加えて、魔法適正まであるのか」
「えへへへ…まあね!ぼくは弓が専門のアーチャーを鍛えたいんだ。それでね、四大元素魔法を使えると、色んな技が使えるようになるんだって、シャルロ兄ちゃんが言ってたの」
 へえ……魔法には色々な使い方があるんだなあ。
 
「よかったね、アルシュ」
「うん!」
「明日はみなの装備を、店に見繕いに行かなければな」
「みんなで買い物⁉︎何それ楽しそう!」
「……だね!」
 お金の心配をせずにはいられないけど……なんとかなるといいなあ……


 
「よっ!終わったみたいだな」
 部屋の隅の方でギルドの職員と何事か話し込んでいたルークが、僕らの方へ近づいてきた。
 
「ルーク!聞いて聞いて!ぼくたちみんな、魔法が使えるようになるんだって!」
「おぉっ!すげぇじゃん。俺にも見せてくれよ」
 ルークに僕らの検査結果をまとめて渡した。
 
「ふんふん…………ミツキはヒーラー、クロはソーサラー、アルシュはアーチャーか。悪くないバランスだが、できれば前衛で戦えるファイターがほしいな」
「うーん。たしかに……ミツキとクロが呪文を詠唱している間、魔物を前に出て食い止めないとね……」
「実は俺、ファイターなんだよな」
「え……じゃあ……」
「ああ!俺たちでパーティ組もうぜ。盾役は任せときな」
「やったー‼︎」

 アルシュは素直に喜んでいるが、問題は……。僕は恐る恐る、クロの方へと振り返った。
 
「…………」
 
 クロは腕を組み目を伏せ、何事か思案しているようだ。
「クロ?」
「ルーク……」
「なんだよ、クロ?」
「きみは余程のお人好しで、かつ暇人のようだな。一体……」
「もう、クロったら!ルークはとってもいい人なの!失礼なこと言ったらダメ!」
 クロの言葉を遮り、アルシュは強い口調でいった。どうやらアルシュはルークの味方らしい。

「アルシュ……」
「ははは。ありがとうな、アルシュ」
 くしゃり、と少年の金色の髪を撫でるルーク。チッ……という、クロの舌打ちが聞こえた。
「ミツキはどう思う」
「僕は……」
 
 クロはルークをかなり疑っている。何か裏があるのではないか、と……
 うーん……
 
「ルークはギルドに顔がきくし、経験のある冒険者だよね。駆け出しの僕たちとパーティを組んでも、あまりメリットがない気がするんだけれど」
 ルークは片眉を上げ、肩を竦めた。
「メリットね……"仕事は楽しく"が俺のモットーなんだ。あんたたちとなら楽しくやれそうだと思ったんだが……それだけじゃだめか?」
「だめじゃないよう!」
「まあ……正直、盾役がいてくれると有難い……気がするなあ」
 
 クロにちらりと目線をやると、ああもう——ルークを鋭く睨みつけていた。対するルークは薄笑いを浮かべ、クロの剣幕を前にしても常と変わらず飄々としている。
 クロとルークの視線がぶつかり合う。重苦しい空気が場に流れ——先に目を逸らしたのはクロだった。
 
「勝手にすればいい……」
 顔を逸らし、不承不承といった態度を崩さないクロ。ルークはアルシュの方へと振り返り、ニッと笑いかけた。
「……だってさ」
「やったー!ルークが仲間だー!」
 
 
 クロとルーク……残念な事に、二人はあまり相性がよくなさそうだ。クロは警戒心が強いから、出会って間もないルークを警戒しているんだろうな。パーティを組んで一緒に過ごしていく内に、良い方向に関係が変わっていってくれるといいんだけど……
 
 ——ん?
 
 僕とアルシュともクロと出会ったばかりじゃないか。ルークと一体何が違うんだろうか……


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...