【ミステリー小説】 はんぱもの

蔵屋

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第一巻 

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 大谷結衣(25歳)が府中刑務所を出所したのは今から三ケ月前の年の瀬であった。
寒風の中、たった一人で出所したのだ。
 彼女の罪名は殺人未遂であった。
 相手の男性を刃物で刺したのである。
 彼女は相手の男性と交際をしていた。当時、二人は同じ会社で働く上司と部下であった。
 三上蒼太(35歳)は結衣の直属の上司であった。肩書きは人事部課長。結衣は慶應義塾大学経済学部を卒業した才女である。 
 結衣と蒼太は同じ人事部の新入社員の歓迎会で親密な関係になった。しかし蒼太は結婚していて幸せな家庭があった。にも関わらず結衣と肉体関係を持ったのだ。
 蒼太は好色な男であり人事という職権を利用して社内、社外を問わず色んな女性達と関係を持っていた。
 例えば大学医学部医局の教授秘書安田雅美(28歳)、人事部長の妻島倉艶子(33歳)、銀座のクラブのママ立花元子(33歳)、弁護士事務所秘書立花茜(23歳)など、交際相手は様々な職場の秘書や人妻達だった。
 蒼太は俳優の佐野優斗似のハンサムな男性である。
 新入社員歓迎会のその日、蒼太と結衣は同じ席に着いた。人事部長島倉潔が挨拶をしその日の主役である結衣を紹介した。
 「それでは本日の主役である大谷結衣さんに一言挨拶をして頂きます。それでは大谷結衣さん、お願いします」
 結衣は自分の席で立ち上がると挨拶を始めた。「先輩社員の皆さん、はじめまして。大谷結衣と申します。右も左も分からない未熟な私ですがどうか、よろしくお願いします」
 と言って挨拶をした。
 店内にいたその他の社員達は拍手をして新しく人事部員の仲間になった結衣に祝福と歓迎の拍手をしたのである。
 結衣は先輩社員達の素敵な笑顔に心が癒された。
 結衣にとっては初めての社会人としてのスタートでありまた、自分が大学時代に学問として経済学を学びその実践の部署として人事部を希望したのである。
 彼女の前途は正に薔薇色になる筈であった。
 しかしその薔薇色の前途も結衣の直属の上司である三上蒼太によってぶち壊されたのである。
 それは蒼太の甘い囁きの一言から始まった。
 
 結衣の幼少期は厳格な両親の躾により素直な子供に育てられた。
 彼女は勉強が好きで特に社会科学や宇宙物理学が好きだった。
 結衣は以前からイギリスの天才的宇宙物理学者・ホーキング博士が好きだった。
 彼の話はとても斬新な理論であり彼の無神論者発言に感動を覚えたのだ。
 ホーキング博士は「この世には神は存在しない」と断言した。そして彼は口を大にして言った。「私は無神論者である」と。
 また、次のように言った。
 「我々の暮らしている地球が所属する太陽系、銀河系には数えきれない星があり銀河がある。この銀河には地球と同じ生命体が存在する惑星が二百万以上ある。だから例え宇宙からある信号をとらえることが出来たとしても決して交信してはダメだ、と。もし交信したならば必ず宇宙戦争が勃発し地球は破滅するであろう!」
 結衣はこの話をある書籍で読んでいた。
 以来結衣はホーキング博士の虜になったのである。

 
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