導星のレガシー ~世界を導く最後の継承者~

烏羽 楓

文字の大きさ
18 / 40
第一章 忍び寄る灰の気配

第18話「無詠唱と魔力制御の理解」

しおりを挟む
「ガイ、それ本気で言ってるの? あんな完璧な魔力コントロール、普通できないよ! しかも無詠唱だよ!?」

 ララが驚いたように目を丸くして詰め寄る。
 
 図書館の静寂を破るわけにはいかず、声は抑えめだったが、感情の高ぶりは隠しきれていなかった。

 ルークは苦笑しながら、その様子を見ていた。

 魔法を扱うには本来、いくつもの工程を踏む。

 まず、魔法を発動するための構文――いわば設計図を書き上げることから始まる。

 構文には、【使用する魔力量】【属性】【何をさせるか】という三つの要素が組み込まれている。
 
 これを魔力で丁寧に描き、さらに詠唱で起動することで、初めて魔法として成立するのだ。

 構文が複雑になれば消費する魔力量も増える。暴発させないためには、極めて繊細な魔力コントロールが求められる。これが、中級魔法や上級魔法の習得が難しい理由だ。

 しかも、先ほどルークが見せたのは、極小の魔力量で、風属性を使い、対象を元の位置へ戻す――それらを【簡略構文】かつ【無詠唱】で成し遂げるという、超高難度の芸当。

 簡略すれば当然、発動の成功率は下がり、術者の技量次第で効果が大きく左右される。

 ましてや、それを無詠唱で――。並大抵の理解力と技術では、到底できない。

「んー、俺は一回見た魔法ならだいたいできるからな」

 ガイが胸を張る。あまりに当然のように言うので、ルークも少しだけ唖然とした。

「それは……すごいな」

 率直な感想だった。ルーク自身、魔法に関しては人一倍努力してきた自負があるが、一度見ただけで真似できるなんて、想像もできなかった。

 ララも、どこか疑わしげな目を細める。

「じゃあ、これやってみて。《猛る炎よ、優しき導きに可憐な華となりてその身を咲かせ【ファイアーフラワー】》」

 ララは指先に炎を集め、美しい薔薇の花を象る。炎の花弁がふわりと舞い、辺りに温かな光を灯した。

 その光景を見て、ガイは即座に魔力を練り上げる。

「《猛る炎よ、優しき導きに可憐な華となりてその身を咲かせ【ファイアーフラワー】》」

 発動――完全な再現だった。

 ララが驚愕の声を漏らす間もなく、いくつか魔法を変えて試してみても、ガイはすべて正確に模倣してみせた。

「う、嘘……。一回見ただけで……!」

「だから言ったろ? 魔力さえ足りてれば余裕だって」

 ガイは勝ち誇ったように笑う。
 
 ルークは、その才能に素直に感心しつつも、どこかで違和感も覚えていた。

(……でも、単純な再現と、制御技術は別物だ)

 内心で、冷静にそう分析する。

「じゃあ、ルークの魔法もやってみてよ!」

 ララが無邪気に提案すると、ガイも勢いそのままに本を積み上げ、手をかざした。

 だが――何も起こらない。

 静かな図書館の中、ガイの顔にじわりと焦りの色が滲む。

 ルークは苦笑しながら肩をすくめた。

「ガイ、それじゃダメだ。魔力コントロールが粗すぎて、術式がうまく構築できてない。無詠唱には、魔法のイメージを完全に一致させることが必要なんだ。俺が思い描いてたものと、ガイのイメージは違う」

「ぐぬぬ……! 別のやつならできるかもしれねぇだろ! なんかやってみろ!」

 すっかり火がついたガイが叫ぶ。

 (ふふ、少し意地悪してみようか……)
 
 ルークは、ふと悪戯心を抱く。口元に小さな笑みを浮かべ、両手を向かい合わせに広げる。

 掌の間に、赤黒い渦がゆっくりと巻き起こり始めた。空気がわずかに震え、周囲の気温すら変わる感覚――

 だが、その瞬間だった。

「何をしているんだお前らぁあああ! 館内魔法禁止だって書いてあるだろうがッ!」

 怒号と共に、背後から先生が飛び出してきた。

「うわっ……!」

 ルークは慌てて魔法を中断する。
 
 だがもう遅い。三人は有無を言わさず、図書館の外へと叩き出された。

 外に出ると、夜風が頬を撫でる。

 ふと、顔を見合わせ――

「「「っぷははははは!!」」」

 腹の底から笑いがこみ上げた。

 何がそんなに可笑しかったのか、自分たちでもよくわからない。けれど、笑いは止まらなかった。

「怒られちゃったね」

「だな」

「初日からこれって、俺らバカだな」

 笑い合いながら、自然と心の距離が近づいていくのをルークは感じていた。

 ふとガイが手を叩く。

「よし、学園ギルド行こうぜ! 登録して、ついでに飯も食おう!」

「賛成!」

 ララが元気よく答え、ルークも微笑んで頷く。

 歩き出した道は、すでに街灯が灯り、昼間とは違った賑わいを見せていた。
 
 しばらく進むと、煌々と明かりが漏れる建物が見えてくる。

 掲げられた看板には――『学園ギルド』。

「おお、ここが……」

 ルークは思わず感嘆の声を漏らした。

 中へ入ると、ホールは生徒たちで溢れかえり、まるで市場のような活気に包まれていた。

 正面のカウンターには、忙しそうに動く三人の受付嬢。上部のスクリーンには、ランキングや新着クエスト、討伐対象魔物などの情報が流れている。

「すっげぇな……。俺が知ってるギルドより、はるかに立派だ」

「へぇ? どっかのギルド入ってるのか?」

 ガイが驚いたように尋ねる。

「まあ、一応な。幽霊メンバーみたいなもんだけど」

 ルークは苦笑交じりに答えた。

「えっ、どこのギルド!? 私、結構詳しいよ!」

 ララが興味津々で身を乗り出す。

 ルークはふっと微笑むと、軽くいなす。

「秘密だよ。ほら、行こうぜ」

 その言葉に、二人も顔を見合わせてから小さく頷き、受付カウンターへと向かっていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

《カクヨム様で15000PV達成‼️》悪魔とやり直す最弱シーカー。十五歳に戻った俺は悪魔の力で人間の頂点を狙う

なべぞう
ファンタジー
ダンジョンが生まれて百年。 スキルを持つ人々がダンジョンに挑む世界で、 ソラは非戦闘系スキル《アイテムボックス》しか持たない三流シーカーだった。 弱さゆえに仲間から切り捨てられ、三十五歳となった今では、 満身創痍で生きるだけで精一杯の日々を送っていた。 そんなソラをただ一匹だけ慕ってくれたのは―― 拾ってきた野良の黒猫“クロ”。 だが命の灯が消えかけた夜、 その黒猫は正体を現す。 クロは世界に十人しか存在しない“祝福”を与える存在―― しかも九つの祝福を生んだ天使と悪魔を封印した“第十の祝福者”だった。 力を失われ、語ることすら封じられたクロは、 復讐を果たすための契約者を探していた。 クロは瀕死のソラと契約し、 彼の魂を二十年前――十五歳の過去へと送り返す。 唯一のスキル《アイテムボックス》。 そして契約により初めて“成長”する力を与えられたソラは、 弱き自分を変えるため、再びダンジョンと向き合う。 だがその裏で、 クロは封印した九人の祝福者たちを狩り尽くすための、 復讐の道を静かに歩み始めていた。 これは―― “最弱”と“最凶”が手を取り合い、 未来をやり直す物語

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

処理中です...