導星のレガシー ~世界を導く最後の継承者~

烏羽 楓

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第一章 忍び寄る灰の気配

第17話「静寂の図書館と、秘めた力」

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 ルークは感心したようにうなった。

「なるほどなぁ。なんで闘技ホールと体育館を分けてるんだ? 目的は同じに見えるけど」

 隣を歩くララが笑いながら答える。

「闘技ホールは基本立ち入り禁止なの。夏にやる学年別闘技大会とか、特別なイベントの時だけ使うらしいよ」

「へぇ、そんなのがあるんだ」

 アストレア学園では毎年夏、全校生徒が参加する学年別闘技大会が開かれる。成績次第でランキングが大きく変わるため、生徒たちは血気盛んに戦い、例年会場は熱狂に包まれる。

 ふと、ルークは別の疑問が浮かんできた。

「そういや、MADって何を動力にしてるんだ?」

「大気マナみたいだよ。詳しい仕組みはわかんないけど……あ、壊したら超高額請求が来るらしいから、気を付けないとだね!」

 魔法を操るためには、術者の体内で生まれる〈身体マナ〉と、空気中に漂う〈大気マナ〉を混ぜ合わせ、魔力を練り上げる必要がある。
 
 それをMADは擬似的に行っているというのだから、改めてこの国の魔法技術の高さに驚かされる。

「へぇ、じゃあ――」

「お前は子供かッ!」

 横からガイが鋭いツッコミを入れた。
 
 ルークはぽかんとした顔で首をかしげる。何が悪かったのか、心当たりがない。

 当然だった。

 ルークにとって、今の質問は純粋な探究心から出たもの。嫌がらせでも、話を繋げようとしたわけでもない。ほとんど独り言の延長だったのだ。

「はぁ……。戦闘になるとやたら強いくせに、普段はまるで子供みたいだな」

「そうか? 俺は普通だけど」

「だろうなッ!」

 素直すぎる返しに、ガイは思わず叫びそうになった。

「えー、いいじゃん。ぽわぽわしてて可愛いし、私は好きだけどな~」

 ララは微笑んで言ったが、それは母性に近いものではないかとルークは密かに思った。

 そんな会話を交わしながら、三人は目的地へとたどり着く。
 
 木造の大きな建物に、ガラスを多用した優美な作り。掲げられた石の看板には「大図書館」と刻まれていた。

 重厚な扉を開くと、そこは静謐せいひつな世界だった。天井から降り注ぐ柔らかな光。視界の限り本棚が並び、二階、三階へと本が積み上がるように続いている。

 あまりの荘厳さそうごんさに、思わずルークたちは足を止めた。――いや、"たち"ではなかった。

「あれ? ルークがいないよ?」

「は? 嘘だろ!?」

 ララが振り返った時には、すでにルークの姿は消えていた。

 二人は大声を出すわけにもいかず、手分けして探し始める。
 
 そしてすぐに、ガイが魔法書コーナーの一角で、夢中で本を読むルークを見つけた。

「あれ、なに読んでるんだろ?」

「魔法関係だろ。ここ、魔法書エリアだし」

 そう答えたものの、ガイは疑問を抱く。ルークは確か――

「でも、ルークって自分じゃ魔法がほとんど使えないって言ってなかった?」

 ララが小声で問いかけ、ガイも目を見開いた。

 そうだ。入学式の前、ルークはさらりと言っていた。

「じゃあ、なんで魔法書を……?」

「わかんないけど、今はそっとしておこ?」

 ララは笑顔で手を振り、別の棚へと向かった。

 それぞれが興味のある本を読みふけるうちに、外はすっかり夕闇に包まれていた。
 
 慌てて合流したガイとララは、再びルークを探す。

 今度はすぐに見つかった。魔法書の机に、積み上げられた本の山。その中心に、なおも真剣な顔でページをめくるルークの姿があった。

「うげっ、まさかこれ全部読んだのか?」

「ああ」

 パタン、とルークが一冊の本を閉じた。

 ガイが一冊を手に取ると、びっしり書き込まれた難解な理論と数式に顔をしかめた。どれもこれも、専門的な魔法書ばかりだ。

「ここ、いいな。資料も研究書も、幅広く揃ってるし……入り浸りそうだ」

「ルーク、本好きなんだね!」

 ララが微笑むと、ルークも静かに頷いた。

「本が、というより――魔法が好きなんだ」

 その顔はどこか、少年らしい純粋さに満ちていた。

「でもよ、ルーク。魔法、ほとんど使えないんだろ?」

 ガイが不思議そうに問うと、ルークは肩をすくめた。

「ああ。マナ総量が、たぶんガイの二十分の一もない」

「はああああ!? 俺、人より多い方だけど! それって……一般人より少ないぞ!?」

 ガイの叫びも無理はない。マナの少なさは、魔法社会で生きる上で致命的な弱点だ。

「まぁ、ちょっと色々あってな。でも、問題ないよ」

 ルークはそう言うと、手をかざして本の山に魔力を流す。本たちはふわりと浮き、元の棚へと次々に収まっていった。

「魔法の扱いには、自信があるから」

 その一連の行動に、ララは目を見張った。

「え、いまの……」

「は? ただの風魔法だろ? ララもあれぐらいできるだろ?」

 ガイは呆れたように言ったが、ララは首を横に振る。

 ルークが見せた制御は――ただの風魔法では到底済まない、精密さを宿していた。
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