トンネルを抜けると、そこはあやかしの駅でした。

プロローグ

0-2

　それほど難しくもなかった学科問題、そしてとにかく苦手な面接……と。

　そうなんだ、面接……口下手なのもそうだけど、自分の家庭環境を話すのが、これが何より嫌で。

　物心ついたときにもう父親はいなかった。いや、いなかったというより最初から存在していなかったのかもしれない。
　それでも別に僕はなんとも思わなかった、いないのはしょうがないし、それに敢えて母さんにそれを聞こうともしなかったし。
　周りから比べられるとあまり裕福じゃなかったかもしれないけど、それでも家の中は暖かかった……でも。

　中学2年の春。今まで普通だった母さんの言葉とか行動が、なんか目に見えておかしくなってきて。
　そして最後には、僕のことを忘れてしまっていて。
　大きな病院へ連れて行ったら、どうも母さんの脳には腫瘍ができていたらしく、それが原因で妙な言動とか行動をしていたんだとか。
　もう手術するには遅すぎたらしい、泣く暇もないほどに毎日は早く過ぎていって……気がついたときにはもう母はこの世には存在しなかった。
　代わって僕の家に来た人が母さんの母さんで、いわゆるおばあちゃん。
　でも生前いろいろあって母さんと仲が良くなかったみたいで……高校に入って僕とおばあちゃんとの二人での生活が始まった。

　面接の時間。

　中年太りの目立つ二人の面接官を前に、僕は、そう、今までの家庭の経緯を話した。

　……やっぱりだ。ずん、と重苦しい沈黙が部屋に漂っていた。

「苦労、したんだね……」予想通りの答え。嫌なんだこれが。相手のそういった顔を見るのも。
　さらにはお決まりの、趣味は？ とかわが社を選んだきっかけは？ とか通り一辺倒なものばかり。長い時間がただただ過ぎてゆく。

　唯一気になったのが「電車とかは好きかな？」って問いかけに、それほどでも……とつい答えてしまったこと。
　あれはマイナス評価かな……とはいえ時すでに遅し。

　でも数日後に山崎先生から聞いた言葉は「おめでとう！」だった。
　よかった……助かった。

　そうして、先生以外誰に別れを言うわけでもなく、感動の一片も感じられない卒業式を迎え、僕は早々に旅立った。