3 / 33
プロローグ
0-3
しおりを挟む
一か月の研修の後、さっそく僕は駅へと配属された。
いままでお客として駅は使ったことはあったけど、駅員としてお客を見るのなんて無論生まれて初めてだった。
そして入社最年少は僕だけ。まあそれに関しては予想通りだった。成人してないのは僕だけ。
それに……前にも話した通り、僕は背が若干低いのもあって、お客さんに「まあ、かわいい駅員さんね」と毎回のように言われてしまう。嬉しいんだか恥ずかしいんだか。
いやいやそうじゃない。駅の話だ。
まずは配属されて3か月ほど諸先輩方の下についていろいろ教えられる。
これを「試雇」と呼ぶそうだ。いわゆるお試し期間とでもいうのだろうか……
お試しとはいえやることはみんなと変わらないことだらけ。切符の料金とか清算の仕方はともかく、他会社線への乗り換え案内や近所のショッピングモールへの案内。果ては銀行の開店時間やらラーメン屋の場所まで……
僕が思っていた駅員の仕事とは全然違うことばかりやらされる。別に不本意じゃあないんだけど、そう、理想と現実っていうのかな……
一日で手帳が埋まっちゃうんじゃないかってくらい様々なことを学ばされた。
切符の販売機、自動改札機が切符を詰まらせたときの修理の仕方、ダイヤを見て急行と普通とどっちが速いか……
「疲れたでしょ、覚えることいっぱいあるからね」
僕の指導に就いてくれた先輩が、昼食のカレーを猛スピードでかきこみながらも笑顔で話してくれた。うん。ほんと笑顔の明るい先輩なんだ。
「でもマジで忙しいのはこれからだからね」
さて、ホームに行ってマイク片手に列車監視。
「ま、まもなく5番線に〇〇行の普通……すいません快速電車が到着いたします。き、黄色い線の内側までお下がりください」
「ほらほら落ち着いて話しな。早口だとみんな聞き取れないよ」
「す、すいません」大失敗だ。マイクのスイッチ握ったまま謝ってた……心臓が口から出そうだ。
そこそこ大きい鉄道会社ゆえに、配属される駅も比較的大きなとこが多い。
僕が住んでたところより、たくさんの人が通って、乗って、そして降りて……
「大丈夫、こんなの慣れだよ慣れ。俺だって志乃田クンくらいの時は毎回バカやってたしね、それよかミスを精神的に引きずっちゃうことの方が重大だって、もっと気を楽に持ちな」
とは言うものの、ね……
早番は、まだ日の上らないうちから出勤して、駅を「起動」させることから始まって、
遅番は逆に、夕方から出勤して、最終列車を見届けて全部の駅のスイッチを切るところまで。
いずれにせよ、たまの休日もずっと寝てばかりだった。こんなことなら運動部に入って基礎体力とかきっちりつけとけばよかったな、なんて後の祭り。
気が付いたら、カレンダーをもう3枚破り捨てていた。
試雇期間はなんだかよく分からないうちに終わりを告げ、これからは正社員として……
どこの駅に配属されるんだろう。
お客さんがいい人ばかりのところがいいな、ここ酔っ払いが多すぎて遅番は毎回怖い思いしていたし。
電車が遅れても響かないところがいいな、ここ電車遅延ですぐパニック状態になるし。
そう、できたら忙しくないところ。
でも事務所へ行ったとき、異動通知の張り出しの掲示板に僕だけ名前がなかった。
え、どういうこと……? 自分が何かやらかした……とか⁉
とどめに事務の先輩が「志乃田、駅長が呼んでるよ」って。
ちょ……なんなんだよ一体!!
直々に呼び出されたという恐怖で頭の中がグルグル回る中、僕は駅長室の重厚なドアをノックした。
「志乃田……正月くんか。周りからは結構頑張ってるって聞いてるよ」
定年間近の白髪の駅長がゆっくりと僕に話しかけてきた。
この話し方からして解雇とかじゃない気がする……でもなんだろうこの不安は。
駅じゃないとこに飛ばされるとかなのかな、いやだ、それだけは絶対に!
「まことに恐縮なんだが、君に出向をお願いしようと思ってね」
しゅっ……こう? なんだろう、初めて聞く言葉だ。
いままでお客として駅は使ったことはあったけど、駅員としてお客を見るのなんて無論生まれて初めてだった。
そして入社最年少は僕だけ。まあそれに関しては予想通りだった。成人してないのは僕だけ。
それに……前にも話した通り、僕は背が若干低いのもあって、お客さんに「まあ、かわいい駅員さんね」と毎回のように言われてしまう。嬉しいんだか恥ずかしいんだか。
いやいやそうじゃない。駅の話だ。
まずは配属されて3か月ほど諸先輩方の下についていろいろ教えられる。
これを「試雇」と呼ぶそうだ。いわゆるお試し期間とでもいうのだろうか……
お試しとはいえやることはみんなと変わらないことだらけ。切符の料金とか清算の仕方はともかく、他会社線への乗り換え案内や近所のショッピングモールへの案内。果ては銀行の開店時間やらラーメン屋の場所まで……
僕が思っていた駅員の仕事とは全然違うことばかりやらされる。別に不本意じゃあないんだけど、そう、理想と現実っていうのかな……
一日で手帳が埋まっちゃうんじゃないかってくらい様々なことを学ばされた。
切符の販売機、自動改札機が切符を詰まらせたときの修理の仕方、ダイヤを見て急行と普通とどっちが速いか……
「疲れたでしょ、覚えることいっぱいあるからね」
僕の指導に就いてくれた先輩が、昼食のカレーを猛スピードでかきこみながらも笑顔で話してくれた。うん。ほんと笑顔の明るい先輩なんだ。
「でもマジで忙しいのはこれからだからね」
さて、ホームに行ってマイク片手に列車監視。
「ま、まもなく5番線に〇〇行の普通……すいません快速電車が到着いたします。き、黄色い線の内側までお下がりください」
「ほらほら落ち着いて話しな。早口だとみんな聞き取れないよ」
「す、すいません」大失敗だ。マイクのスイッチ握ったまま謝ってた……心臓が口から出そうだ。
そこそこ大きい鉄道会社ゆえに、配属される駅も比較的大きなとこが多い。
僕が住んでたところより、たくさんの人が通って、乗って、そして降りて……
「大丈夫、こんなの慣れだよ慣れ。俺だって志乃田クンくらいの時は毎回バカやってたしね、それよかミスを精神的に引きずっちゃうことの方が重大だって、もっと気を楽に持ちな」
とは言うものの、ね……
早番は、まだ日の上らないうちから出勤して、駅を「起動」させることから始まって、
遅番は逆に、夕方から出勤して、最終列車を見届けて全部の駅のスイッチを切るところまで。
いずれにせよ、たまの休日もずっと寝てばかりだった。こんなことなら運動部に入って基礎体力とかきっちりつけとけばよかったな、なんて後の祭り。
気が付いたら、カレンダーをもう3枚破り捨てていた。
試雇期間はなんだかよく分からないうちに終わりを告げ、これからは正社員として……
どこの駅に配属されるんだろう。
お客さんがいい人ばかりのところがいいな、ここ酔っ払いが多すぎて遅番は毎回怖い思いしていたし。
電車が遅れても響かないところがいいな、ここ電車遅延ですぐパニック状態になるし。
そう、できたら忙しくないところ。
でも事務所へ行ったとき、異動通知の張り出しの掲示板に僕だけ名前がなかった。
え、どういうこと……? 自分が何かやらかした……とか⁉
とどめに事務の先輩が「志乃田、駅長が呼んでるよ」って。
ちょ……なんなんだよ一体!!
直々に呼び出されたという恐怖で頭の中がグルグル回る中、僕は駅長室の重厚なドアをノックした。
「志乃田……正月くんか。周りからは結構頑張ってるって聞いてるよ」
定年間近の白髪の駅長がゆっくりと僕に話しかけてきた。
この話し方からして解雇とかじゃない気がする……でもなんだろうこの不安は。
駅じゃないとこに飛ばされるとかなのかな、いやだ、それだけは絶対に!
「まことに恐縮なんだが、君に出向をお願いしようと思ってね」
しゅっ……こう? なんだろう、初めて聞く言葉だ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる