トンネルを抜けると、そこはあやかしの駅でした。

アラ・ドーモ

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宝物と、山の子と。

3-5

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「すまんな。実は迷子を探しておるのじゃ」
 駅長が隣駅の副駅長と話している間、僕はひたすら祈っていた。
 桃くんが無事に見つかりますように。誘拐なんかされてませんように……って。
 寄さんは大丈夫ですよと言ってはくれるが、もう頭の中はいっぱいいっぱいだ……ただ、すいませんとしか僕は応えることが出来なかった。

「いま担当運転手から連絡があったそうじゃ。車内でわんわん泣いている男の子を保護したとな」
 駅長のその言葉に、ふっと身体から力が抜けそうになった。とにかくよかった……

 あとはこの子たちみんなを無事に家にまで届けることと、そして……万年筆を見つけないと。最終電車が行ったあと、ホーム下もくまなく探さなければ。

 程なくして、下り電車が到着した。
車内には、涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになっている子どもが一人。
 桃くんだ! よかった、ケガもなさそうだし。

「ごめんなさい……ごめんなさい」小さな声が耳を打つ。

「分かってはおるかもしれんが、絶対に怒るでないぞ」
 駅長が小声でアドバイス。分かってる。子供には様々な事情があってのことだし……と、九人の子供たちと共に、僕は桃くんの小さな手をそっと握った。

「えきいんさん、ごめんなさい……」
 桃くんの手に握られていた物、それは、僕の万年筆だった。
 よかった! でも何故この子が⁉︎
「うんとね、えきいんさんのポケットから落っこちたのをひろったの。渡そうとしたら、転んじゃって……」
 慌てて万年筆を見てみるが、目立った傷はない。となると……
 恐る恐るキャップを外してみる。
 なんてこった……万年筆の生命ともいうべきペン先が、ぐにゃりと曲がっていた。

「怒られるのこわくて電車の中に隠れてたら、ドアが閉まっちゃって……」
 そういうことだったのか。うん。この子は悪くない。宝物を無造作にポケットに入れていた僕の方にこそ責任がある。

 でも、まずは……

「ありがとう桃くん。僕の万年筆を届けてくれようとしたんだもんね。大丈夫だよ。お兄ちゃんは怒ってないからね」
 泣きじゃくる小さな身体を、僕はぎゅっと抱きしめた。

 すると……

「ごめん、まさつき」「まさつきごめんなさい」「ごめんなさい!」
 僕の背中を、身体を、九人の山の子たちが一斉にぎゅーっと抱きしめてきて……

 そして、泣き出した。
 ホーム全体に響くくらいの大きな声で。

「ちょ、なんでみんなも⁉︎ うん、わかったから、ね」
 大合唱は止むことを知らない、どうすればいいんだろう、一刻も早くみんな泣き止ませなければ……

「こンっっっの変態誘拐犯がぁぁぁぁぁーッ!」

 突然、僕の顔面に強烈な一撃が!

「大丈夫、桃⁉︎ どこもケガしてない? もう、目を離したスキに居なくなっちゃうんだもん!駐在さんのとこにまでお姉ちゃん探しに行ったんだよ!」

「違います!! 違いますよ菖蒲さんっ!! その人は変態でも誘拐犯でもありません! れっきとしたうちの駅の職員ですから!!!」

「え……えええええええ~~ッ⁉︎」

 意識が、みるみるうちに遠ざかって……

 だれ……菖蒲……って……





宝物と、山の子と。
おしまい。
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