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宝物と、山の子と。
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「すまんななみ。実は迷子を探しておるのじゃ」
駅長が隣駅の副駅長と話している間、僕はひたすら祈っていた。
桃くんが無事に見つかりますように。誘拐なんかされてませんように……って。
寄さんは大丈夫ですよと言ってはくれるが、もう頭の中はいっぱいいっぱいだ……ただ、すいませんとしか僕は応えることが出来なかった。
「いま担当運転手から連絡があったそうじゃ。車内でわんわん泣いている男の子を保護したとな」
駅長のその言葉に、ふっと身体から力が抜けそうになった。とにかくよかった……
あとはこの子たちみんなを無事に家にまで届けることと、そして……万年筆を見つけないと。最終電車が行ったあと、ホーム下もくまなく探さなければ。
程なくして、下り電車が到着した。
車内には、涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになっている子どもが一人。
桃くんだ! よかった、ケガもなさそうだし。
「ごめんなさい……ごめんなさい」小さな声が耳を打つ。
「分かってはおるかもしれんが、絶対に怒るでないぞ」
駅長が小声でアドバイス。分かってる。子供には様々な事情があってのことだし……と、九人の子供たちと共に、僕は桃くんの小さな手をそっと握った。
「えきいんさん、ごめんなさい……」
桃くんの手に握られていた物、それは、僕の万年筆だった。
よかった! でも何故この子が⁉︎
「うんとね、えきいんさんのポケットから落っこちたのをひろったの。渡そうとしたら、転んじゃって……」
慌てて万年筆を見てみるが、目立った傷はない。となると……
恐る恐るキャップを外してみる。
なんてこった……万年筆の生命ともいうべきペン先が、ぐにゃりと曲がっていた。
「怒られるのこわくて電車の中に隠れてたら、ドアが閉まっちゃって……」
そういうことだったのか。うん。この子は悪くない。宝物を無造作にポケットに入れていた僕の方にこそ責任がある。
でも、まずは……
「ありがとう桃くん。僕の万年筆を届けてくれようとしたんだもんね。大丈夫だよ。お兄ちゃんは怒ってないからね」
泣きじゃくる小さな身体を、僕はぎゅっと抱きしめた。
すると……
「ごめん、まさつき」「まさつきごめんなさい」「ごめんなさい!」
僕の背中を、身体を、九人の山の子たちが一斉にぎゅーっと抱きしめてきて……
そして、泣き出した。
ホーム全体に響くくらいの大きな声で。
「ちょ、なんでみんなも⁉︎ うん、わかったから、ね」
大合唱は止むことを知らない、どうすればいいんだろう、一刻も早くみんな泣き止ませなければ……
「こンっっっの変態誘拐犯がぁぁぁぁぁーッ!」
突然、僕の顔面に強烈な一撃が!
「大丈夫、桃⁉︎ どこもケガしてない? もう、目を離したスキに居なくなっちゃうんだもん!駐在さんのとこにまでお姉ちゃん探しに行ったんだよ!」
「違います!! 違いますよ菖蒲さんっ!! その人は変態でも誘拐犯でもありません! れっきとしたうちの駅の職員ですから!!!」
「え……えええええええ~~ッ⁉︎」
意識が、みるみるうちに遠ざかって……
だれ……菖蒲……って……
宝物と、山の子と。
おしまい。
駅長が隣駅の副駅長と話している間、僕はひたすら祈っていた。
桃くんが無事に見つかりますように。誘拐なんかされてませんように……って。
寄さんは大丈夫ですよと言ってはくれるが、もう頭の中はいっぱいいっぱいだ……ただ、すいませんとしか僕は応えることが出来なかった。
「いま担当運転手から連絡があったそうじゃ。車内でわんわん泣いている男の子を保護したとな」
駅長のその言葉に、ふっと身体から力が抜けそうになった。とにかくよかった……
あとはこの子たちみんなを無事に家にまで届けることと、そして……万年筆を見つけないと。最終電車が行ったあと、ホーム下もくまなく探さなければ。
程なくして、下り電車が到着した。
車内には、涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになっている子どもが一人。
桃くんだ! よかった、ケガもなさそうだし。
「ごめんなさい……ごめんなさい」小さな声が耳を打つ。
「分かってはおるかもしれんが、絶対に怒るでないぞ」
駅長が小声でアドバイス。分かってる。子供には様々な事情があってのことだし……と、九人の子供たちと共に、僕は桃くんの小さな手をそっと握った。
「えきいんさん、ごめんなさい……」
桃くんの手に握られていた物、それは、僕の万年筆だった。
よかった! でも何故この子が⁉︎
「うんとね、えきいんさんのポケットから落っこちたのをひろったの。渡そうとしたら、転んじゃって……」
慌てて万年筆を見てみるが、目立った傷はない。となると……
恐る恐るキャップを外してみる。
なんてこった……万年筆の生命ともいうべきペン先が、ぐにゃりと曲がっていた。
「怒られるのこわくて電車の中に隠れてたら、ドアが閉まっちゃって……」
そういうことだったのか。うん。この子は悪くない。宝物を無造作にポケットに入れていた僕の方にこそ責任がある。
でも、まずは……
「ありがとう桃くん。僕の万年筆を届けてくれようとしたんだもんね。大丈夫だよ。お兄ちゃんは怒ってないからね」
泣きじゃくる小さな身体を、僕はぎゅっと抱きしめた。
すると……
「ごめん、まさつき」「まさつきごめんなさい」「ごめんなさい!」
僕の背中を、身体を、九人の山の子たちが一斉にぎゅーっと抱きしめてきて……
そして、泣き出した。
ホーム全体に響くくらいの大きな声で。
「ちょ、なんでみんなも⁉︎ うん、わかったから、ね」
大合唱は止むことを知らない、どうすればいいんだろう、一刻も早くみんな泣き止ませなければ……
「こンっっっの変態誘拐犯がぁぁぁぁぁーッ!」
突然、僕の顔面に強烈な一撃が!
「大丈夫、桃⁉︎ どこもケガしてない? もう、目を離したスキに居なくなっちゃうんだもん!駐在さんのとこにまでお姉ちゃん探しに行ったんだよ!」
「違います!! 違いますよ菖蒲さんっ!! その人は変態でも誘拐犯でもありません! れっきとしたうちの駅の職員ですから!!!」
「え……えええええええ~~ッ⁉︎」
意識が、みるみるうちに遠ざかって……
だれ……菖蒲……って……
宝物と、山の子と。
おしまい。
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