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第8話 水着で品位を落とすつもりが、海の女神として崇められました
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夏だ。海だ。そして、合宿だ。
照りつける太陽、白く輝く砂浜、どこまでも広がる青い海。 王都から馬車で半日。 私たちがやってきたのは、王家が所有するプライベートビーチにある別荘地だった。
名目は『王立学園生徒会・夏季強化合宿』。 実態は、アレクセイ様が私とイチャイチャするために職権乱用で企画した、豪華バカンスである。
「素晴らしい景色だね、リリス。でも、君の瞳の輝きには及ばないけれど」
隣で爽やかに微笑むのは、当然アレクセイ様だ。 リゾート仕様のラフなシャツに、サングラス。 無駄に似合っている。 背後には、荷物持ちとして大量のパラソルやクーラーボックスを抱えたハインリヒ(帝国の皇太子)と、警備担当のガストン、記録係のシドたちが控えている。
「……暑苦しいですわ」
私はわざと不機嫌そうに吐き捨てた。 しかし、内心では燃えていた。
この合宿こそ、私の評判を地に落とす絶好のチャンスなのだ。
貴族令嬢にとって、肌を晒すことは『はしたない』とされる。 ましてや次期王妃候補ともなれば、水着などという恥ずかしい格好はご法度。 もし私が、とんでもなく露出度の高い、品位のかけらもない水着を着て現れたらどうなるか?
『なんてあばずれな女だ!』 『王族の婚約者としての自覚がない!』 『破廉恥極まりない!』
そう罵られ、婚約破棄へのカウントダウンが始まるに違いない!
「(ふふふ……見ていなさい。わたくしが用意した『最終兵器(水着)』の威力を!)」
私はクーラーボックスの中で冷えているスイカを見つめながら、ニヤリと笑った。 今回の作戦名はずばり、『セクシーダイナマイト作戦』。 私のわがままボディ(十五歳にしては発育が良いと評判)を武器に、周囲をドン引きさせてやるわ!
◇
別荘の更衣室。 私は持参した水着に着替えた。
選んだのは、布面積が極限まで少ない、黒のマイクロビキニだ。 紐とわずかな布だけで構成されたそれは、動けばポロリしそうな危険な代物。 もはや水着というより、ただの『紐』である。
「お嬢様……本当にそれを着られるのですか?」
着替えを手伝っていたマリア(今回は特別に侍女役として参加)が、顔を真っ赤にして目を覆っている。
「ええ、もちろんよ。これが『大人の魅力』というものよ」
「で、でも、刺激が強すぎます! 心臓に悪いです! それに、そんな格好で外に出たら、日焼けも心配ですし……」
「日焼け上等よ! さあ、行くわよ!」
私はパレオを羽織ることもなく、堂々と更衣室を出た。
ビーチには、すでに男性陣が待機している。 アレクセイ様、ハインリヒ、生徒会メンバーたち。 彼らの視線を一身に集め、私はモデルウォークで砂浜へと進み出た。
「お待たせ!」
バサッ! 私は長い髪をかき上げ、ポーズを決めた。
さあ、見るがいい! このあられもない姿を! そして軽蔑しなさい! 「公爵令嬢がなんという格好だ!」と怒りなさい!
シーン……。
波の音だけが響く。 全員が固まっている。
(お? 効いてる? あまりの破廉恥さに言葉を失った?)
期待に胸を膨らませたその時。
ブーッ!!
ハインリヒが鼻から盛大に鮮血を吹き出して倒れた。
「へ?」
「……ぐ、ふっ……すげぇ……暴力だ……これは視覚への暴力だ……最高だ……」
ハインリヒは痙攣しながら、親指を立てて沈黙した。 え、待って。 気絶するほどショックだった? それとも興奮した?
恐る恐るアレクセイ様を見る。 彼はサングラスをゆっくりと外した。 その瞳は、驚愕に見開かれ……そして、燃え上がるような熱を帯びていた。
「……女神か」
「はい?」
アレクセイ様が、ふらりと私に近づいてくる。
「リリス。君は……君はなんて美しいんだ」
「えっ、いや、あの、はしたなくないですか? これ、ほぼ裸ですわよ?」
「裸? まさか。これは『肉体美という芸術』だ。古代の彫刻を見ているようだ。無駄な装飾を削ぎ落とし、生命そのものの輝きを表現している……!」
彼は私の手を取り、跪いた。
「君のその姿は、海そのものだ。豊かで、神秘的で、すべてを受け入れる包容力がある。……ああ、直視できないほど眩しい」
違う。 そういう高尚な評価はいらないの。 もっと俗物的に「エロい」とか「下品だ」とか言ってほしいの!
「会長、さすがです」
シドが眼鏡を拭きながら(曇っていたらしい)解説を始める。
「その水着は、空気抵抗を極限まで減らし、遊泳能力を最大化するための『機能美』ですね? さらに、黒という色は紫外線を吸収し、肌へのダメージを防ぐ効果もある……計算され尽くしたデザインだ」
「ねぇよ! そんな機能ねぇよ!」
ガストンに至っては、両手を合わせて拝んでいる。
「ありがてぇ……なんか拝みたくなる神々しさだ。リリス様、後で俺の背中にその水着の跡をつけてくれねぇか? 刺青として彫りてぇ」
「変態! 逮捕よガストン!」
結果。 軽蔑されるどころか、「美のカリスマ」「海辺のヴィーナス」として、またしても崇められてしまった。 ハインリヒは蘇生措置を受けながら、「この国の国宝に認定すべきだ」とうわ言を言っている。
私の露出作戦は、男性陣の理性を破壊しただけで終わった。
◇
気を取り直して、次は食事だ。 合宿の楽しみといえば、バーベキュー。
ここで挽回する。 「料理下手」かつ「味覚音痴」というレッテルを貼られるために、私が調理を担当することにした。
用意したのは、肉でも野菜でもない。 大量の『激辛香辛料』だ。
ハバネロ、ブート・ジョロキア、そしてこの世界特有の魔界唐辛子『ドラゴンの涙』。 これらを煮詰めた特製ソースを、肉にたっぷりと塗りたくる。 見た目は真っ赤を通り越して、どす黒い赤紫色。 匂いだけで鼻の粘膜が焼けるような刺激臭が漂う。
「さあ、召し上がれ! わたくしの愛情たっぷりの特製BBQですわ!」
私は満面の笑みで、毒物(のような肉)を振る舞った。
「おお、リリスの手料理か! いただきます!」
何も知らないハインリヒが、豪快に肉にかぶりつく。
(ふふふ……さあ、火を吹くがいい!)
「ガツッ、ムシャムシャ……ん?」
ハインリヒの動きが止まる。 顔が急速に赤くなる。 汗が吹き出す。
「か……」
「か?」
「辛っ……!!」
ハインリヒが叫んだ。 よし! 成功だ!
「辛ぇぇぇぇ! なんだこれ!? 口の中が爆発したぞ!?」
「あら、ごめんなさい。味付けを間違えたかしら?」
私は白々しく謝るふりをした。 これで「お前は料理もできないのか」「殺す気か」と怒られるはず。
しかし、ハインリヒは叫びながらも、肉を置こうとしなかった。 むしろ、もう一口かじりついた。
「辛ぇ! 痛ぇ! ……でも、ウメェェェ!!」
「は?」
「なんだこの中毒性は!? 辛さの奥に、肉の旨味が凝縮されてやがる! 噛めば噛むほど、脳天を突き抜けるような刺激と快感が押し寄せてくる!」
ハインリヒは涙を流しながら、猛烈な勢いで肉を貪り始めた。
「これだ! 俺が求めていたのはこの刺激だ! 帝国の宮廷料理なんて上品すぎて退屈だったんだ! これこそが『男の料理』だ!」
アレクセイ様も、優雅にナイフとフォークで肉を口に運んだ。 彼は涼しい顔で咀嚼し、飲み込んだ。
「……素晴らしい」
彼もまた、絶賛した。
「夏バテで食欲が落ちるこの時期に、あえて香辛料を多用することで胃を刺激し、食欲を増進させる……。まさに『医食同源』の考え方だね。それに、このソースには隠し味に果物が使われているのかな? フルーティーな酸味が、辛さを引き立てている」
使ってない。 隠し味なんてない。 ただ適当に混ぜただけだ。
「ガストン、もっと持ってこい! 白飯だ! 白飯を持ってこい!」 「うおおお! 俺も止まらねぇ! ビールが進むぜ!」 「会長の料理、代謝が上がりすぎて痩せそうです!」
生徒会メンバーたちも狂喜乱舞して食べている。 なんなのこの集団。 味覚がおかしいの? それとも私の「悪女スキル」がバグって、全てを「絶品料理」に変換しているの?
私は呆然と、自分の皿に乗った真っ赤な肉を見つめた。 一口食べてみる。
「……辛っ!! まっず!!」
私は即座に吐き出した。 なんでこれを美味しいって言えるのよ! みんな病院に行ったほうがいいわ!
◇
日が暮れて、夜の帳が下りる頃。 私たちはビーチでキャンプファイヤーを囲んでいた。
お腹も満たされ、まったりとした空気が流れる。 本来なら、ここで怖い話でもして盛り上がるところだが、私はまだ諦めていなかった。
次の作戦は、『わがままで空気をぶち壊す』だ。
「ねえ、アレクセイ」
私は焚き火を見つめながら、わざと気怠そうに言った。
「わたくし、退屈ですわ。何か面白いものが見たいの。……そうね、例えば『海から花火』とか上がらないかしら?」
無茶振りだ。 花火なんて用意していないし、ここには職人もいない。 「そんな無理を言うな」と嗜められるのを待つ。
「花火、か」
アレクセイ様が少し考え込み、そしてシドに目配せをした。
「リリスの願いだ。……できるね?」
「計算上は可能です。ガストンの『火炎魔法』と、マリア様の『光魔法』、そして私の『風魔法』による制御を組み合わせれば」
「よし、やってみよう」
え? やるの? 魔法で?
数分後。
ヒュ~~~……ドンッ! パラパラパラ……。
夜空に、美しい大輪の花が咲いた。 赤、青、黄色、そして私の瞳の色である紫。 魔法による即席花火大会が始まってしまった。
「たまや~!」 「すげぇ! 俺たち天才じゃね?」 「リリス様、見てください! ハート型にしてみました!」
生徒会メンバーたちが、汗だくになりながら魔法を連発している。 夜空を埋め尽くす光のアート。 それはプロの花火師も顔負けの美しさだった。
「……綺麗」
思わず見惚れてしまった。 いけない、こんなことで感動しては。 私はわがままな悪女なのに。
「気に入ってくれたかい?」
アレクセイ様が、私の肩を抱き寄せる。 焚き火の明かりに照らされた彼の横顔は、反則級に美しかった。
「君が望むなら、夜空の星だって降らせてみせるよ」
「……バカなこと言わないでください」
「本気だよ。君の笑顔のためなら、僕はなんだってできる」
甘い。 空気が甘すぎる。 砂糖を吐きそうだ。
このままでは、またしても「ロマンチックな夜」で終わってしまう。 何か、何かハプニングはないの!?
その時だった。
ザバァァァァァァァン!!
海面が大きく盛り上がり、巨大な水柱が立った。 穏やかだった波が荒れ狂い、地面が揺れる。
「な、なんだ!?」
ハインリヒが剣を抜く。 ガストンたちが戦闘態勢に入る。
水しぶきの中から現れたのは、巨大な触手だった。 一本、二本、三本……無数の触手がうねりながら、月明かりの下にその姿を現す。 それは、伝説の海魔『クラーケン』だった。 しかも、通常の個体よりも遥かに大きく、その体表は禍々しい紫色のオーラに包まれている。
「魔物……!? なぜこんな浅瀬に!」
シドが叫ぶ。
「データにありません! 王家の結界があるはずなのに、なぜ侵入できた!?」
その答えを知っているのは、遠くの崖の上からこの光景を見下ろしている男だけだった。 帝国の宰相補佐官、グスタフ。 彼は水晶玉を片手に、ニヤリと笑っていた。
「ククク……そうだ。その魔物は、私が召喚した古代の変異種。結界など容易く食い破る。さあ、絶望するがいい。そして『魔王の器』であるリリスよ、その力を見せつけろ!」
◇
ビーチはパニックに陥った。 巨大な触手が砂浜を叩きつけ、パラソルやBBQセットを吹き飛ばす。
「キャアァァァッ!」 マリアが悲鳴を上げる。
「マリア! 下がってろ!」 ガストンが前に出るが、触手の一撃で吹き飛ばされる。 「ぐはっ!」
強い。 生徒会の精鋭たちが、手も足も出ない。 物理攻撃も魔法も、あの紫色のオーラに弾かれているようだ。
「くそっ、俺の剣も通じねぇ!」 ハインリヒが歯ぎしりする。
「リリス、僕の後ろに!」 アレクセイ様が私を庇うように立つ。
しかし。 私の脳内では、別の計算が働いていた。
(これだ……!)
これこそが、待ち望んでいた「破滅のチャンス」だ。 生徒会の合宿中に、生徒が危険に晒される。 しかも、会長である私が主催した合宿で。 もしここで私が「自分だけ逃げる」という醜態を晒せば? あるいは、パニックになって「みんな死ねばいいのよ!」とか叫べば?
いや、もっといい手がある。 この魔物に、私自身が「生贄」として捧げられればいいのだ。 そうすれば、私は「行方不明(実はこっそり生き延びて逃亡)」として処理され、この国からオサラバできる!
(完璧な計画だわ!)
私はアレクセイ様の手を振り払い、前に飛び出した。
「リリス!?」
「お待ちなさい、魔物さん!」
私は両手を広げ、クラーケンの前に立ちはだかった。 風に靡くマイクロビキニ姿。 無防備極まりない。
「わたくしを食べなさい! この中で一番美味しくて、一番栄養があるのはわたくしよ! さあ、遠慮なくどうぞ!」
私は叫んだ。 さあ来い、触手! 私を捕まえて、どこか遠くの海へ連れ去って!
クラーケンが私を見下ろす。 巨大な目玉がギョロリと動き、私を捉える。 そして、太い触手が振り上げられた。
(来た! さよなら、王太子妃生活! こんにちは、自由なスローライフ!)
私は目を閉じて、
照りつける太陽、白く輝く砂浜、どこまでも広がる青い海。 王都から馬車で半日。 私たちがやってきたのは、王家が所有するプライベートビーチにある別荘地だった。
名目は『王立学園生徒会・夏季強化合宿』。 実態は、アレクセイ様が私とイチャイチャするために職権乱用で企画した、豪華バカンスである。
「素晴らしい景色だね、リリス。でも、君の瞳の輝きには及ばないけれど」
隣で爽やかに微笑むのは、当然アレクセイ様だ。 リゾート仕様のラフなシャツに、サングラス。 無駄に似合っている。 背後には、荷物持ちとして大量のパラソルやクーラーボックスを抱えたハインリヒ(帝国の皇太子)と、警備担当のガストン、記録係のシドたちが控えている。
「……暑苦しいですわ」
私はわざと不機嫌そうに吐き捨てた。 しかし、内心では燃えていた。
この合宿こそ、私の評判を地に落とす絶好のチャンスなのだ。
貴族令嬢にとって、肌を晒すことは『はしたない』とされる。 ましてや次期王妃候補ともなれば、水着などという恥ずかしい格好はご法度。 もし私が、とんでもなく露出度の高い、品位のかけらもない水着を着て現れたらどうなるか?
『なんてあばずれな女だ!』 『王族の婚約者としての自覚がない!』 『破廉恥極まりない!』
そう罵られ、婚約破棄へのカウントダウンが始まるに違いない!
「(ふふふ……見ていなさい。わたくしが用意した『最終兵器(水着)』の威力を!)」
私はクーラーボックスの中で冷えているスイカを見つめながら、ニヤリと笑った。 今回の作戦名はずばり、『セクシーダイナマイト作戦』。 私のわがままボディ(十五歳にしては発育が良いと評判)を武器に、周囲をドン引きさせてやるわ!
◇
別荘の更衣室。 私は持参した水着に着替えた。
選んだのは、布面積が極限まで少ない、黒のマイクロビキニだ。 紐とわずかな布だけで構成されたそれは、動けばポロリしそうな危険な代物。 もはや水着というより、ただの『紐』である。
「お嬢様……本当にそれを着られるのですか?」
着替えを手伝っていたマリア(今回は特別に侍女役として参加)が、顔を真っ赤にして目を覆っている。
「ええ、もちろんよ。これが『大人の魅力』というものよ」
「で、でも、刺激が強すぎます! 心臓に悪いです! それに、そんな格好で外に出たら、日焼けも心配ですし……」
「日焼け上等よ! さあ、行くわよ!」
私はパレオを羽織ることもなく、堂々と更衣室を出た。
ビーチには、すでに男性陣が待機している。 アレクセイ様、ハインリヒ、生徒会メンバーたち。 彼らの視線を一身に集め、私はモデルウォークで砂浜へと進み出た。
「お待たせ!」
バサッ! 私は長い髪をかき上げ、ポーズを決めた。
さあ、見るがいい! このあられもない姿を! そして軽蔑しなさい! 「公爵令嬢がなんという格好だ!」と怒りなさい!
シーン……。
波の音だけが響く。 全員が固まっている。
(お? 効いてる? あまりの破廉恥さに言葉を失った?)
期待に胸を膨らませたその時。
ブーッ!!
ハインリヒが鼻から盛大に鮮血を吹き出して倒れた。
「へ?」
「……ぐ、ふっ……すげぇ……暴力だ……これは視覚への暴力だ……最高だ……」
ハインリヒは痙攣しながら、親指を立てて沈黙した。 え、待って。 気絶するほどショックだった? それとも興奮した?
恐る恐るアレクセイ様を見る。 彼はサングラスをゆっくりと外した。 その瞳は、驚愕に見開かれ……そして、燃え上がるような熱を帯びていた。
「……女神か」
「はい?」
アレクセイ様が、ふらりと私に近づいてくる。
「リリス。君は……君はなんて美しいんだ」
「えっ、いや、あの、はしたなくないですか? これ、ほぼ裸ですわよ?」
「裸? まさか。これは『肉体美という芸術』だ。古代の彫刻を見ているようだ。無駄な装飾を削ぎ落とし、生命そのものの輝きを表現している……!」
彼は私の手を取り、跪いた。
「君のその姿は、海そのものだ。豊かで、神秘的で、すべてを受け入れる包容力がある。……ああ、直視できないほど眩しい」
違う。 そういう高尚な評価はいらないの。 もっと俗物的に「エロい」とか「下品だ」とか言ってほしいの!
「会長、さすがです」
シドが眼鏡を拭きながら(曇っていたらしい)解説を始める。
「その水着は、空気抵抗を極限まで減らし、遊泳能力を最大化するための『機能美』ですね? さらに、黒という色は紫外線を吸収し、肌へのダメージを防ぐ効果もある……計算され尽くしたデザインだ」
「ねぇよ! そんな機能ねぇよ!」
ガストンに至っては、両手を合わせて拝んでいる。
「ありがてぇ……なんか拝みたくなる神々しさだ。リリス様、後で俺の背中にその水着の跡をつけてくれねぇか? 刺青として彫りてぇ」
「変態! 逮捕よガストン!」
結果。 軽蔑されるどころか、「美のカリスマ」「海辺のヴィーナス」として、またしても崇められてしまった。 ハインリヒは蘇生措置を受けながら、「この国の国宝に認定すべきだ」とうわ言を言っている。
私の露出作戦は、男性陣の理性を破壊しただけで終わった。
◇
気を取り直して、次は食事だ。 合宿の楽しみといえば、バーベキュー。
ここで挽回する。 「料理下手」かつ「味覚音痴」というレッテルを貼られるために、私が調理を担当することにした。
用意したのは、肉でも野菜でもない。 大量の『激辛香辛料』だ。
ハバネロ、ブート・ジョロキア、そしてこの世界特有の魔界唐辛子『ドラゴンの涙』。 これらを煮詰めた特製ソースを、肉にたっぷりと塗りたくる。 見た目は真っ赤を通り越して、どす黒い赤紫色。 匂いだけで鼻の粘膜が焼けるような刺激臭が漂う。
「さあ、召し上がれ! わたくしの愛情たっぷりの特製BBQですわ!」
私は満面の笑みで、毒物(のような肉)を振る舞った。
「おお、リリスの手料理か! いただきます!」
何も知らないハインリヒが、豪快に肉にかぶりつく。
(ふふふ……さあ、火を吹くがいい!)
「ガツッ、ムシャムシャ……ん?」
ハインリヒの動きが止まる。 顔が急速に赤くなる。 汗が吹き出す。
「か……」
「か?」
「辛っ……!!」
ハインリヒが叫んだ。 よし! 成功だ!
「辛ぇぇぇぇ! なんだこれ!? 口の中が爆発したぞ!?」
「あら、ごめんなさい。味付けを間違えたかしら?」
私は白々しく謝るふりをした。 これで「お前は料理もできないのか」「殺す気か」と怒られるはず。
しかし、ハインリヒは叫びながらも、肉を置こうとしなかった。 むしろ、もう一口かじりついた。
「辛ぇ! 痛ぇ! ……でも、ウメェェェ!!」
「は?」
「なんだこの中毒性は!? 辛さの奥に、肉の旨味が凝縮されてやがる! 噛めば噛むほど、脳天を突き抜けるような刺激と快感が押し寄せてくる!」
ハインリヒは涙を流しながら、猛烈な勢いで肉を貪り始めた。
「これだ! 俺が求めていたのはこの刺激だ! 帝国の宮廷料理なんて上品すぎて退屈だったんだ! これこそが『男の料理』だ!」
アレクセイ様も、優雅にナイフとフォークで肉を口に運んだ。 彼は涼しい顔で咀嚼し、飲み込んだ。
「……素晴らしい」
彼もまた、絶賛した。
「夏バテで食欲が落ちるこの時期に、あえて香辛料を多用することで胃を刺激し、食欲を増進させる……。まさに『医食同源』の考え方だね。それに、このソースには隠し味に果物が使われているのかな? フルーティーな酸味が、辛さを引き立てている」
使ってない。 隠し味なんてない。 ただ適当に混ぜただけだ。
「ガストン、もっと持ってこい! 白飯だ! 白飯を持ってこい!」 「うおおお! 俺も止まらねぇ! ビールが進むぜ!」 「会長の料理、代謝が上がりすぎて痩せそうです!」
生徒会メンバーたちも狂喜乱舞して食べている。 なんなのこの集団。 味覚がおかしいの? それとも私の「悪女スキル」がバグって、全てを「絶品料理」に変換しているの?
私は呆然と、自分の皿に乗った真っ赤な肉を見つめた。 一口食べてみる。
「……辛っ!! まっず!!」
私は即座に吐き出した。 なんでこれを美味しいって言えるのよ! みんな病院に行ったほうがいいわ!
◇
日が暮れて、夜の帳が下りる頃。 私たちはビーチでキャンプファイヤーを囲んでいた。
お腹も満たされ、まったりとした空気が流れる。 本来なら、ここで怖い話でもして盛り上がるところだが、私はまだ諦めていなかった。
次の作戦は、『わがままで空気をぶち壊す』だ。
「ねえ、アレクセイ」
私は焚き火を見つめながら、わざと気怠そうに言った。
「わたくし、退屈ですわ。何か面白いものが見たいの。……そうね、例えば『海から花火』とか上がらないかしら?」
無茶振りだ。 花火なんて用意していないし、ここには職人もいない。 「そんな無理を言うな」と嗜められるのを待つ。
「花火、か」
アレクセイ様が少し考え込み、そしてシドに目配せをした。
「リリスの願いだ。……できるね?」
「計算上は可能です。ガストンの『火炎魔法』と、マリア様の『光魔法』、そして私の『風魔法』による制御を組み合わせれば」
「よし、やってみよう」
え? やるの? 魔法で?
数分後。
ヒュ~~~……ドンッ! パラパラパラ……。
夜空に、美しい大輪の花が咲いた。 赤、青、黄色、そして私の瞳の色である紫。 魔法による即席花火大会が始まってしまった。
「たまや~!」 「すげぇ! 俺たち天才じゃね?」 「リリス様、見てください! ハート型にしてみました!」
生徒会メンバーたちが、汗だくになりながら魔法を連発している。 夜空を埋め尽くす光のアート。 それはプロの花火師も顔負けの美しさだった。
「……綺麗」
思わず見惚れてしまった。 いけない、こんなことで感動しては。 私はわがままな悪女なのに。
「気に入ってくれたかい?」
アレクセイ様が、私の肩を抱き寄せる。 焚き火の明かりに照らされた彼の横顔は、反則級に美しかった。
「君が望むなら、夜空の星だって降らせてみせるよ」
「……バカなこと言わないでください」
「本気だよ。君の笑顔のためなら、僕はなんだってできる」
甘い。 空気が甘すぎる。 砂糖を吐きそうだ。
このままでは、またしても「ロマンチックな夜」で終わってしまう。 何か、何かハプニングはないの!?
その時だった。
ザバァァァァァァァン!!
海面が大きく盛り上がり、巨大な水柱が立った。 穏やかだった波が荒れ狂い、地面が揺れる。
「な、なんだ!?」
ハインリヒが剣を抜く。 ガストンたちが戦闘態勢に入る。
水しぶきの中から現れたのは、巨大な触手だった。 一本、二本、三本……無数の触手がうねりながら、月明かりの下にその姿を現す。 それは、伝説の海魔『クラーケン』だった。 しかも、通常の個体よりも遥かに大きく、その体表は禍々しい紫色のオーラに包まれている。
「魔物……!? なぜこんな浅瀬に!」
シドが叫ぶ。
「データにありません! 王家の結界があるはずなのに、なぜ侵入できた!?」
その答えを知っているのは、遠くの崖の上からこの光景を見下ろしている男だけだった。 帝国の宰相補佐官、グスタフ。 彼は水晶玉を片手に、ニヤリと笑っていた。
「ククク……そうだ。その魔物は、私が召喚した古代の変異種。結界など容易く食い破る。さあ、絶望するがいい。そして『魔王の器』であるリリスよ、その力を見せつけろ!」
◇
ビーチはパニックに陥った。 巨大な触手が砂浜を叩きつけ、パラソルやBBQセットを吹き飛ばす。
「キャアァァァッ!」 マリアが悲鳴を上げる。
「マリア! 下がってろ!」 ガストンが前に出るが、触手の一撃で吹き飛ばされる。 「ぐはっ!」
強い。 生徒会の精鋭たちが、手も足も出ない。 物理攻撃も魔法も、あの紫色のオーラに弾かれているようだ。
「くそっ、俺の剣も通じねぇ!」 ハインリヒが歯ぎしりする。
「リリス、僕の後ろに!」 アレクセイ様が私を庇うように立つ。
しかし。 私の脳内では、別の計算が働いていた。
(これだ……!)
これこそが、待ち望んでいた「破滅のチャンス」だ。 生徒会の合宿中に、生徒が危険に晒される。 しかも、会長である私が主催した合宿で。 もしここで私が「自分だけ逃げる」という醜態を晒せば? あるいは、パニックになって「みんな死ねばいいのよ!」とか叫べば?
いや、もっといい手がある。 この魔物に、私自身が「生贄」として捧げられればいいのだ。 そうすれば、私は「行方不明(実はこっそり生き延びて逃亡)」として処理され、この国からオサラバできる!
(完璧な計画だわ!)
私はアレクセイ様の手を振り払い、前に飛び出した。
「リリス!?」
「お待ちなさい、魔物さん!」
私は両手を広げ、クラーケンの前に立ちはだかった。 風に靡くマイクロビキニ姿。 無防備極まりない。
「わたくしを食べなさい! この中で一番美味しくて、一番栄養があるのはわたくしよ! さあ、遠慮なくどうぞ!」
私は叫んだ。 さあ来い、触手! 私を捕まえて、どこか遠くの海へ連れ去って!
クラーケンが私を見下ろす。 巨大な目玉がギョロリと動き、私を捉える。 そして、太い触手が振り上げられた。
(来た! さよなら、王太子妃生活! こんにちは、自由なスローライフ!)
私は目を閉じて、
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