『処刑されたはずの悪役令嬢は、3回目の人生で『完璧な悪女』を目指して嫌われたい〜なのに、なぜか今度は王太子殿下から求婚されています〜』

ラムネ

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第8話 水着で品位を落とすつもりが、海の女神として崇められました

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夏だ。海だ。そして、合宿だ。

照りつける太陽、白く輝く砂浜、どこまでも広がる青い海。 王都から馬車で半日。 私たちがやってきたのは、王家が所有するプライベートビーチにある別荘地だった。

名目は『王立学園生徒会・夏季強化合宿』。 実態は、アレクセイ様が私とイチャイチャするために職権乱用で企画した、豪華バカンスである。

「素晴らしい景色だね、リリス。でも、君の瞳の輝きには及ばないけれど」

隣で爽やかに微笑むのは、当然アレクセイ様だ。 リゾート仕様のラフなシャツに、サングラス。 無駄に似合っている。 背後には、荷物持ちとして大量のパラソルやクーラーボックスを抱えたハインリヒ(帝国の皇太子)と、警備担当のガストン、記録係のシドたちが控えている。

「……暑苦しいですわ」

私はわざと不機嫌そうに吐き捨てた。 しかし、内心では燃えていた。

この合宿こそ、私の評判を地に落とす絶好のチャンスなのだ。

貴族令嬢にとって、肌を晒すことは『はしたない』とされる。 ましてや次期王妃候補ともなれば、水着などという恥ずかしい格好はご法度。 もし私が、とんでもなく露出度の高い、品位のかけらもない水着を着て現れたらどうなるか?

『なんてあばずれな女だ!』 『王族の婚約者としての自覚がない!』 『破廉恥極まりない!』

そう罵られ、婚約破棄へのカウントダウンが始まるに違いない!

「(ふふふ……見ていなさい。わたくしが用意した『最終兵器(水着)』の威力を!)」

私はクーラーボックスの中で冷えているスイカを見つめながら、ニヤリと笑った。 今回の作戦名はずばり、『セクシーダイナマイト作戦』。 私のわがままボディ(十五歳にしては発育が良いと評判)を武器に、周囲をドン引きさせてやるわ!

          ◇

別荘の更衣室。 私は持参した水着に着替えた。

選んだのは、布面積が極限まで少ない、黒のマイクロビキニだ。 紐とわずかな布だけで構成されたそれは、動けばポロリしそうな危険な代物。 もはや水着というより、ただの『紐』である。

「お嬢様……本当にそれを着られるのですか?」

着替えを手伝っていたマリア(今回は特別に侍女役として参加)が、顔を真っ赤にして目を覆っている。

「ええ、もちろんよ。これが『大人の魅力』というものよ」

「で、でも、刺激が強すぎます! 心臓に悪いです! それに、そんな格好で外に出たら、日焼けも心配ですし……」

「日焼け上等よ! さあ、行くわよ!」

私はパレオを羽織ることもなく、堂々と更衣室を出た。

ビーチには、すでに男性陣が待機している。 アレクセイ様、ハインリヒ、生徒会メンバーたち。 彼らの視線を一身に集め、私はモデルウォークで砂浜へと進み出た。

「お待たせ!」

バサッ! 私は長い髪をかき上げ、ポーズを決めた。

さあ、見るがいい! このあられもない姿を! そして軽蔑しなさい! 「公爵令嬢がなんという格好だ!」と怒りなさい!

シーン……。

波の音だけが響く。 全員が固まっている。

(お? 効いてる? あまりの破廉恥さに言葉を失った?)

期待に胸を膨らませたその時。

ブーッ!!

ハインリヒが鼻から盛大に鮮血を吹き出して倒れた。

「へ?」

「……ぐ、ふっ……すげぇ……暴力だ……これは視覚への暴力だ……最高だ……」

ハインリヒは痙攣しながら、親指を立てて沈黙した。 え、待って。 気絶するほどショックだった? それとも興奮した?

恐る恐るアレクセイ様を見る。 彼はサングラスをゆっくりと外した。 その瞳は、驚愕に見開かれ……そして、燃え上がるような熱を帯びていた。

「……女神か」

「はい?」

アレクセイ様が、ふらりと私に近づいてくる。

「リリス。君は……君はなんて美しいんだ」

「えっ、いや、あの、はしたなくないですか? これ、ほぼ裸ですわよ?」

「裸? まさか。これは『肉体美という芸術』だ。古代の彫刻を見ているようだ。無駄な装飾を削ぎ落とし、生命そのものの輝きを表現している……!」

彼は私の手を取り、跪いた。

「君のその姿は、海そのものだ。豊かで、神秘的で、すべてを受け入れる包容力がある。……ああ、直視できないほど眩しい」

違う。 そういう高尚な評価はいらないの。 もっと俗物的に「エロい」とか「下品だ」とか言ってほしいの!

「会長、さすがです」

シドが眼鏡を拭きながら(曇っていたらしい)解説を始める。

「その水着は、空気抵抗を極限まで減らし、遊泳能力を最大化するための『機能美』ですね? さらに、黒という色は紫外線を吸収し、肌へのダメージを防ぐ効果もある……計算され尽くしたデザインだ」

「ねぇよ! そんな機能ねぇよ!」

ガストンに至っては、両手を合わせて拝んでいる。

「ありがてぇ……なんか拝みたくなる神々しさだ。リリス様、後で俺の背中にその水着の跡をつけてくれねぇか? 刺青として彫りてぇ」

「変態! 逮捕よガストン!」

結果。 軽蔑されるどころか、「美のカリスマ」「海辺のヴィーナス」として、またしても崇められてしまった。 ハインリヒは蘇生措置を受けながら、「この国の国宝に認定すべきだ」とうわ言を言っている。

私の露出作戦は、男性陣の理性を破壊しただけで終わった。

          ◇

気を取り直して、次は食事だ。 合宿の楽しみといえば、バーベキュー。

ここで挽回する。 「料理下手」かつ「味覚音痴」というレッテルを貼られるために、私が調理を担当することにした。

用意したのは、肉でも野菜でもない。 大量の『激辛香辛料』だ。

ハバネロ、ブート・ジョロキア、そしてこの世界特有の魔界唐辛子『ドラゴンの涙』。 これらを煮詰めた特製ソースを、肉にたっぷりと塗りたくる。 見た目は真っ赤を通り越して、どす黒い赤紫色。 匂いだけで鼻の粘膜が焼けるような刺激臭が漂う。

「さあ、召し上がれ! わたくしの愛情たっぷりの特製BBQですわ!」

私は満面の笑みで、毒物(のような肉)を振る舞った。

「おお、リリスの手料理か! いただきます!」

何も知らないハインリヒが、豪快に肉にかぶりつく。

(ふふふ……さあ、火を吹くがいい!)

「ガツッ、ムシャムシャ……ん?」

ハインリヒの動きが止まる。 顔が急速に赤くなる。 汗が吹き出す。

「か……」

「か?」

「辛っ……!!」

ハインリヒが叫んだ。 よし! 成功だ!

「辛ぇぇぇぇ! なんだこれ!? 口の中が爆発したぞ!?」

「あら、ごめんなさい。味付けを間違えたかしら?」

私は白々しく謝るふりをした。 これで「お前は料理もできないのか」「殺す気か」と怒られるはず。

しかし、ハインリヒは叫びながらも、肉を置こうとしなかった。 むしろ、もう一口かじりついた。

「辛ぇ! 痛ぇ! ……でも、ウメェェェ!!」

「は?」

「なんだこの中毒性は!? 辛さの奥に、肉の旨味が凝縮されてやがる! 噛めば噛むほど、脳天を突き抜けるような刺激と快感が押し寄せてくる!」

ハインリヒは涙を流しながら、猛烈な勢いで肉を貪り始めた。

「これだ! 俺が求めていたのはこの刺激だ! 帝国の宮廷料理なんて上品すぎて退屈だったんだ! これこそが『男の料理』だ!」

アレクセイ様も、優雅にナイフとフォークで肉を口に運んだ。 彼は涼しい顔で咀嚼し、飲み込んだ。

「……素晴らしい」

彼もまた、絶賛した。

「夏バテで食欲が落ちるこの時期に、あえて香辛料を多用することで胃を刺激し、食欲を増進させる……。まさに『医食同源』の考え方だね。それに、このソースには隠し味に果物が使われているのかな? フルーティーな酸味が、辛さを引き立てている」

使ってない。 隠し味なんてない。 ただ適当に混ぜただけだ。

「ガストン、もっと持ってこい! 白飯だ! 白飯を持ってこい!」 「うおおお! 俺も止まらねぇ! ビールが進むぜ!」 「会長の料理、代謝が上がりすぎて痩せそうです!」

生徒会メンバーたちも狂喜乱舞して食べている。 なんなのこの集団。 味覚がおかしいの? それとも私の「悪女スキル」がバグって、全てを「絶品料理」に変換しているの?

私は呆然と、自分の皿に乗った真っ赤な肉を見つめた。 一口食べてみる。

「……辛っ!! まっず!!」

私は即座に吐き出した。 なんでこれを美味しいって言えるのよ! みんな病院に行ったほうがいいわ!

          ◇

日が暮れて、夜の帳が下りる頃。 私たちはビーチでキャンプファイヤーを囲んでいた。

お腹も満たされ、まったりとした空気が流れる。 本来なら、ここで怖い話でもして盛り上がるところだが、私はまだ諦めていなかった。

次の作戦は、『わがままで空気をぶち壊す』だ。

「ねえ、アレクセイ」

私は焚き火を見つめながら、わざと気怠そうに言った。

「わたくし、退屈ですわ。何か面白いものが見たいの。……そうね、例えば『海から花火』とか上がらないかしら?」

無茶振りだ。 花火なんて用意していないし、ここには職人もいない。 「そんな無理を言うな」と嗜められるのを待つ。

「花火、か」

アレクセイ様が少し考え込み、そしてシドに目配せをした。

「リリスの願いだ。……できるね?」

「計算上は可能です。ガストンの『火炎魔法』と、マリア様の『光魔法』、そして私の『風魔法』による制御を組み合わせれば」

「よし、やってみよう」

え? やるの? 魔法で?

数分後。

ヒュ~~~……ドンッ! パラパラパラ……。

夜空に、美しい大輪の花が咲いた。 赤、青、黄色、そして私の瞳の色である紫。 魔法による即席花火大会が始まってしまった。

「たまや~!」 「すげぇ! 俺たち天才じゃね?」 「リリス様、見てください! ハート型にしてみました!」

生徒会メンバーたちが、汗だくになりながら魔法を連発している。 夜空を埋め尽くす光のアート。 それはプロの花火師も顔負けの美しさだった。

「……綺麗」

思わず見惚れてしまった。 いけない、こんなことで感動しては。 私はわがままな悪女なのに。

「気に入ってくれたかい?」

アレクセイ様が、私の肩を抱き寄せる。 焚き火の明かりに照らされた彼の横顔は、反則級に美しかった。

「君が望むなら、夜空の星だって降らせてみせるよ」

「……バカなこと言わないでください」

「本気だよ。君の笑顔のためなら、僕はなんだってできる」

甘い。 空気が甘すぎる。 砂糖を吐きそうだ。

このままでは、またしても「ロマンチックな夜」で終わってしまう。 何か、何かハプニングはないの!?

その時だった。

ザバァァァァァァァン!!

海面が大きく盛り上がり、巨大な水柱が立った。 穏やかだった波が荒れ狂い、地面が揺れる。

「な、なんだ!?」

ハインリヒが剣を抜く。 ガストンたちが戦闘態勢に入る。

水しぶきの中から現れたのは、巨大な触手だった。 一本、二本、三本……無数の触手がうねりながら、月明かりの下にその姿を現す。 それは、伝説の海魔『クラーケン』だった。 しかも、通常の個体よりも遥かに大きく、その体表は禍々しい紫色のオーラに包まれている。

「魔物……!? なぜこんな浅瀬に!」

シドが叫ぶ。

「データにありません! 王家の結界があるはずなのに、なぜ侵入できた!?」

その答えを知っているのは、遠くの崖の上からこの光景を見下ろしている男だけだった。 帝国の宰相補佐官、グスタフ。 彼は水晶玉を片手に、ニヤリと笑っていた。

「ククク……そうだ。その魔物は、私が召喚した古代の変異種。結界など容易く食い破る。さあ、絶望するがいい。そして『魔王の器』であるリリスよ、その力を見せつけろ!」

          ◇

ビーチはパニックに陥った。 巨大な触手が砂浜を叩きつけ、パラソルやBBQセットを吹き飛ばす。

「キャアァァァッ!」 マリアが悲鳴を上げる。

「マリア! 下がってろ!」 ガストンが前に出るが、触手の一撃で吹き飛ばされる。 「ぐはっ!」

強い。 生徒会の精鋭たちが、手も足も出ない。 物理攻撃も魔法も、あの紫色のオーラに弾かれているようだ。

「くそっ、俺の剣も通じねぇ!」 ハインリヒが歯ぎしりする。

「リリス、僕の後ろに!」 アレクセイ様が私を庇うように立つ。

しかし。 私の脳内では、別の計算が働いていた。

(これだ……!)

これこそが、待ち望んでいた「破滅のチャンス」だ。 生徒会の合宿中に、生徒が危険に晒される。 しかも、会長である私が主催した合宿で。 もしここで私が「自分だけ逃げる」という醜態を晒せば? あるいは、パニックになって「みんな死ねばいいのよ!」とか叫べば?

いや、もっといい手がある。 この魔物に、私自身が「生贄」として捧げられればいいのだ。 そうすれば、私は「行方不明(実はこっそり生き延びて逃亡)」として処理され、この国からオサラバできる!

(完璧な計画だわ!)

私はアレクセイ様の手を振り払い、前に飛び出した。

「リリス!?」

「お待ちなさい、魔物さん!」

私は両手を広げ、クラーケンの前に立ちはだかった。 風に靡くマイクロビキニ姿。 無防備極まりない。

「わたくしを食べなさい! この中で一番美味しくて、一番栄養があるのはわたくしよ! さあ、遠慮なくどうぞ!」

私は叫んだ。 さあ来い、触手! 私を捕まえて、どこか遠くの海へ連れ去って!

クラーケンが私を見下ろす。 巨大な目玉がギョロリと動き、私を捉える。 そして、太い触手が振り上げられた。

(来た! さよなら、王太子妃生活! こんにちは、自由なスローライフ!)

私は目を閉じて、
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