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覚悟しております。

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砂の王国デュークは、祖国パナギア王国から海路と陸路を行かなければならなかった。
ラクダに揺られて3日目でやっと到着した時には、流石のお転婆メイファもぐったりしていた。

伴として着いてきてくれたのは、侍女のアンリと数名の従者のみであった。

「アンリ…カルロス…皆…私のためにこんな所まで着いてきてくれてありがとうね。」

メイファは少し気弱になって感謝を口にする。



メイファは嫁ぐ覚悟と同時に大きな決意をしていた。

道中のあちこちで噂を耳にしたとカルロスから報告を受けたのだ。

デューク王国は冷酷非道、欲しいものを手に入れるためには手段を選ばない。

祖国パナギア王国は、デューク王国の陰謀により多額の借金を抱え存亡の危機に陥れられていたというのだ。

すべては、エーゲ海の宝石を手に入れるために。

(つまり、姉様を嫁がせる為にパナギア王国を陥れたってことね。

…許せない…

きっと野蛮な王子に違いないわ…

私たちの運命を、自分の欲望を満たすために変えてしまったデュークの王子に復讐するわ。)

メイファの決意は灼熱の国の熱さに負けてはいなかった。




『パナギア王国王女、ケイト・レメディオス・デ・クニーヒ様ご到着でございます。』

通された宮殿の大広間は、砂漠の真ん中とは思えない圧倒されるような豪華な作りだった。

侍従たちが両脇にズラリと居並び、頭を垂れている。

灼熱の砂漠の中に建つ宮殿の主、ギムレット殿下は厳かに現れた。

ギムレットは、王子の立場ではあるが、デューク王国国王が長い間病床についているため、この国の執務にあたっているという。

輝く民族衣装を着た長身のその姿は、シルエットだけでも人々を魅了するほどであった。


思わず魅入られてしまい声を失ったメイファは、気を引き締めて挨拶をした。

「はじめまして、ギムレット殿下。ケイトと申します。」

私は、ぎこちない笑顔で深々と頭を下げ、初謁見の挨拶をした。

「温かいお出迎え感謝致します。」


広間全体を包み込むむせかえるような甘い匂いのせいで目眩がしたメイファは、深いお辞儀をした途端ふらついてしまった。

倒れる!と思った瞬間、メイファを支えたのは、ギムレットだった。

王座の椅子から立ち上がり、すばやく駆け寄ったのだった。

『長旅、疲れたのでしょう。部屋を用意してます、まずはゆっくり休むとよい。』

甘い匂いと優しい言葉で、メイファは一瞬見とれてしまった。
近くで見ると、その目鼻だちはより際立ち、青く澄んだ瞳はエーゲ海を思い出させるような色だった。

私はこの美しく気高い男に復讐するのだ。

「1人で立てます。」

メイファは、支えられた手を振りほどき立ち上がった。

『エーゲ海の気候は過ごしやすかっただろうが、ここは砂漠の国だ。少しずつ慣れて貰えば良い。』

「…覚悟しております。」

キリッとした返答のメイファをみて、ギムレットは少し驚いたようだった。



そう…
私は覚悟したのよ、祖国パナギア王国を陥れたデューク王国に対し、復讐の鬼と化すのよ。
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