悪魔の子

らろぱ

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村を出てから何時間か歩くと町に着いた。
「国の輸送車はここに来るそうですね」
とドーマスが説明すると「いよいよ始まるのか…」とアベルは嘆息を漏らした。

三人が到着した頃には他の地域から来た兵士がたくさんいた。

「ところで…この中で銃を持ったことのある人はいますか?」
いきなり物騒なことをドーマスに聞かれ驚いていた2人に対してドーマスは牽制した。

「戦場にでたら躊躇いなんてしないでくださいね、そんなことをしたら村には2度と戻れないと思ってください」
その冷酷な発言は村にいたときの温厚なドーマスの影を忘れさせるほどだった。

銃を受け取るために町の真ん中にある武器庫に向かった。
町中を歩くと少しピリついた空気が不安を増す要因となり淡々と歩くドーマスに2人は足が重くなりついていくのがやっとになっていた。

「銃を3丁お願いします」
武器庫の前にいた兵士にドーマスが話し掛けるとすぐに銃を持ってきた。

「良いですか?先程も言いましたが、これを持って戦場に出れば、嫌でも人を殺さなければならない。この銃はあなた達を守る術です。躊躇わずに使ってください。」  
そして2人は銃を渡された。

鉄の鍬よりも重い銃を持ったサイの手には汗が滲んでいた。
それはアベルも同じだった。

「では輸送車がくるまで、待機していてください」
そう言うと兵士は元の配置に戻った。

「では戻りますか」
そしてドーマスに2人はついていった。

元の場所に戻るとさらに徴兵された人達が増えていた。その中には逃げ出してしまう人もいたり、泣き崩れてうずくまる人もいた。
そしてたまに銃声音が聞こえてきたがその事について誰も話すことはしなかった。

「良いですか?しっかりと目に焼き付けときなさい。これが戦争というものなんです」

ドーマスのことが頭に離れることがなかったサイは今の現状に目を背けてしまった。
するとそれを庇うようにアベルはサイの頭を撫でた。
「大丈夫だ。戦場に出たら俺がお前のことを守ってやるからな」

嫁と幼い子供が村で待っているアベルは村には戻られないのではないかと心配になっていたが、若いサイの前で本音を漏らすことはできなかった。今頃、戦争に来たことを後悔しており、「やっぱり俺には無理だ」と言い、笑って見過ごしてくれる人達はここにはいなかった。

少し経つと門が開くのが聞こえた。
その音の方向に皆が目を向けると、偉そうなバッジを着け、敬礼したおじさんが高い台の上にいた。

「諸君らにはこれから戦場に向かってもらう!すぐに支度をし、車に乗り込め!」
その一言だけでおじさんは去っていった。

その後前の方から順番に車に乗っていき、20人ほどが一つの車に押し込まれてぎゅうぎゅうになっているのを目の当たりにした。

「行きましょう」
ドーマスが先頭を歩き、車の前にいた兵士が持つ紙に村の名前と参加人数、参加者の名前を書くと兵士は「ご健闘を祈ります」と敬礼をし、
乗る車の方に指を指した。

前の方には4匹の馬が繋がれており、木でできた馬車である。

そこに乗り込み数時間経った頃にはサイは眠ってしまった。
それを見かねたアベルは起こそうとしたが、それをドーマスは止めた。
「休めるのは今くらいだからな」

「そうですよね」
そしてアベルは首にぶら下げていてペンダントを眺めた。

「絶対に…帰るからな…」
そして、大きな手で握りしめた。
その手は鍬をもつよりも、斧をもつよりも固く握りしめている。

「アベルも休んだ方が良い、これからが大変だからね」
と以前の優しさが戻ったドーマスの気遣いにアベルは胸を撫で下ろした。

日が落ちるにつれ段々と目的地が近づいて来るのがわかった。
そして段々と同乗者たちの顔が暗くなっていく。

そんなピリついた空気を変えるためにある男が口を開いた。

「そういえば噂になってるけどよ…
この戦いに兵士として若い頃戦勝しまくった人がいるらしいんだ!
その人もこの地域にいるといいけどなぁ」

すると男の友人らしき人物は頷き「安心感が得られるよな!」と返していた。

目的地につくと辺り一面にテントが張っており、それに指を差し「あれが今夜の寝床だ」とドーマスは2人に説明した。

皆村にいた頃とは違う、険しい表情をしていた。

荷物をテントに入れるとすぐに、ベルの音が鳴った。

「敵!?」と慌てるサイの肩をドーマスは掴み落ち着かせると「お偉いさんたちが来るだけだ」と言った。

一人用の大きい馬車が何台も兵士たちの前を通った。
兵士たちは何事かと慌てて馬車の方を見ると
中から何人か出て来た。
一目でわかるくらい彼らは高級そうな装飾品を見に纏い戦場には相応しくない格好をしていた。

「何だあいつら?」兵士たちの間に不穏な空気が流れた。
兵士たちがざわざわしていると、馬車に乗る前にいた偉そうなおじさんが出てくるなり怒鳴った。

「貴様ら黙れ!この方々は貴族の皆様であるぞ!」

すると兵士たちは静まり返り、直ぐに頭を下げた。

何をしているのかわからなかったサイだけが頭を上げていたが、アベルがサイの頭を下げさせた。

「なんで頭を下げる必要があるんだ?」

「貴族に歯向かったら何されるか分からないからだ!」

サイはそう言われると渋々頭を下げ続けた。

「ふざけるな!お前らのせいで戦争が始まったんだろうが!」と最初は頭を下げていた若い無精髭を生やした男は怒鳴り付けると、他の頭を下げていた人達も騒ぎ出した。

「醜いなぁ」と貴族の若い男はため息を着くと
無精髭を生やした男に向かって指を指した。
すると一瞬で男は吹き飛んだ。

それを目の当たりにした瞬間、騒ぎはやんだ。

「ロウ!もうやめなさい貴重な戦力なんだから」

「アヤ姉さんは厳しいなぁ
別にこいつらの中にこの戦いが勝てるキーマンはいないしねぇ」

ロウの言葉に何も言い返せなかったアヤは下唇を噛んでいた。

「じゃあ僕らのために命張ってね、低俗の皆様!」

そしてロウとアヤがその場から離れると、皆が緊張感の中から解放され安心感を得たが、サイだけは憎悪の心が残っていた。

「なんなんだよあいつら…!」

「サイ、それは自分の心のうちに留めておけ。」
とドーマスに釘を刺され、何も出来なかったサイは自分自身を悔やみ、テントから離れた。

それをみかねたアベルはサイを追おうとしたが「今は彼も悩む時期だ。それが彼自身の成長に繋がるはずだ。だから私たちは大人として彼を見守ってやろう」
とドーマスがアベルの肩を叩くと「そうですか…」とアベルは答えた。

とりあえず一人になりたかったサイは森を抜けた丘の上に座っていた。
空を見上げると夜空に光る星に気づいた。
しかし、状況は深刻になり幸せな気分だったあの日のことを思い出すと、余計に嫌な気分になった。

サイがため息をつくと、後ろから「君も兵士なのか?」と声が聞こえた。
そして「そうですけど何か?」とサイが後ろを振り向くとそこには貴族であるアヤが立っていた。

「隣失礼するよ」と座られ一瞬にしてはりつめた緊張感を纏わされたサイは背中にかけていた銃を手にとり、アヤに向けた。

「あんたらのせいで戦争が始まったのは本当なのか?」

銃口が震えているのをアヤは見逃さず「震えているぞ」とサイを牽制するも一向に銃を下ろす気配を見せなかったので、アヤは銃口に頭を近づけ「お前に私が打てるのか?」とさらにサイを脅した。

「くそ…!」
サイは銃口を下げ、背中に戻した。
アヤは少し時間が経ち、サイの落ち着きを見計らうと話し始めた。

「先程のお前の質問は本当だ。
すべての責任は私ら貴族にあるんだよ。
だから本当に申し訳ないと思っている」
とアヤの思いがけない答えに対してサイは困惑した。

「元々私らのような欲望に見溢れる貴族は人の上に立つべき存在ではないんだ。
だから戦争も起こるし君らのような平和に暮らしている農民も命を削らなければならなくなる。」

「貴族の方でもまともな人はいるんですね」と少しサイは感心した。

アヤは自分の手を握りしめ、言葉を放った。

「だから私は国を変える。
皆が平等に暮らせる社会を築き上げるためだ。だからこそ、私はこの戦争で勝たなければならない」

立ち上がったアヤはサイの顔を見つめた。
「だから頼むぞ、若き勇気のある兵士よ」

そしてアヤは立ち去り際に一言だけ聞いた。

「お前の名前と村の名前は何だ?」

「桃の村出身のサイです」

「桃の村か…わかった。
サイ、お前の勇気を讃えて、この戦争が終わった後に桃の村には資金援助をしよう。
そして、この話を夢物語にしないように、絶対に叶えると私は君に誓う。
そしてこの話を聞いた君にも手伝ってもらう。
だから絶対に死ぬんじゃないぞ、桃の村のためにも私の誓いのためにも。」

「アヤさん!俺絶対死にませんからね」
とサイは胸高らかに言うと、「期待しているぞ」と背を向けアヤは帰った。

テントに戻るとドーマスとアベルが心配そうな顔をして「大丈夫か?」と話しかけてきたが「大丈夫、もう落ち着いたから」とサイが言うと2人は胸を撫で下ろした。

「2人とも、明日から戦場に出ることになるが、絶対に弱気になってはいけないからな
いつまでも強気でいこう」

ドーマスが胸を叩くとそれを2人は真似をした。

「明日に備えて今日はもう寝よう。」

アベルの合図で寝巻きに3人は入った。

今もそうだが、あのアヤの言葉を聞いたあたりからサイの胸の鼓動は収まることはなかった。





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