空白の3年間

らろぱ

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1話 くだらん

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「夏だなぁ~」
みんみん鳴くセミの鳴き声、扇風機の音、蚊取り線香の匂い、たまにまどから入ってくる風…最高の気分だ。

俺はアウトドア派ではない生粋のインドア派ではあるが…子供の頃の夏休みは家の近所にあったプールにも行かず、友達と虫とりをするわけでもなく、ただただ1日中部屋にこもっていた。
そんな俺は夏が大好きだ。
だって1年でこんなにも陽気な気分になれる季節は夏以外ないでしょ?
まぁ、それは人それぞれなのだが…

「わー!逃げろ逃げろー」
外で子供たちが遊んでる声がする。

そんなときは開いている窓から顔を出しこう言うのだ。
「うるせぇよ!餓鬼はだまって家で宿題でもしとけや!」

そう一喝すると大抵の場合、子供たちはここから一目散に逃げるが最近の子供たちは結構反抗してくるようになった。

「うるさいのはお兄ちゃんだ!だいたいお兄ちゃんが家に引きこもってるからうるさいと感じるんだろ!
はやく家からでてこの場から立ち去ればお兄ちゃんがうるさいと感じることはないし!僕たちだってわいわい遊べるじゃん!」

頭の良い返しだな、暑さでむしゃくしゃしていたのが一気に取り除かれた。そして、深呼吸をして肺に息をためた。

「お前らそこでまっとけよ!今すぐにでもお前らに痛い目をみてもらうからな!覚悟し…」

頭に衝撃が走った。

「大人にもなって何してんだよ!
君たちごめんね!全然遊んでくれて構わないから…」

「いてえなぁ…」

幼なじみのケンが家に訪ねて来る予定だったのを忘れていた。

「…で今日は何のようなの?俺だっていそがしいんだけど」

「忙しいって…部屋に引き込もってなにかすることでもあるのか…?」

「ネットサーフィン」

ケンは無視して話し始めた。

「このままじゃ過去の栄光も腐っちまうぜ、読者はお前のことを待ってるんだからよ」

「3年間もたてば誰だって忘れるさ」

ケンは棚に飾ってあった一冊の小説を手に取った。

「チーズだって漬け物だって長い間待てば美味しくなるもんだろ?」

「チーズも漬け物もただ放置しても美味しくならないさ」

ケンは小説のページをめくった。

「夜道を歩いていると空から一筋の光が差した、
その光は生まれて初めて見た光景だった、私にとって彼女はそういう存在だったのだ…」

ケンがいきなり小説の台詞を言われ恥ずかしくなった。
「よしてくれよ、過去のことは忘れたいんだよ」

ケンは小説を棚に戻すと俺が寝ているベッドの前に座った。
「…お前もう小説は書かないのか?」

「わからん…でも書く可能性がないとも言いきれないかもな…ってかそれを言うためだけにここに来たのか?」

ケンはジーパンのポケットから1通の手紙を俺に渡した。

「明日久しぶりに中学の同級生たちで同窓会をするんだよ、こないか?」

「俺が行くと思うか?」

「あぁ、行かせるさ」

俺は布団をかぶった。
すると、部屋に客人用のお菓子とお茶持ってきた母親が入ってきた。

「ほらどうぞ、トシ!久しぶりにケンちゃんが遊びに来てくれたんだからベッドで寝てないで!起きなさい!」

「はいはい」
布団から出るとさっきケンからもらった同窓会の手紙が落ちた。

「なにこれ…同窓会?いいわねー行ってきなさい!
スーツは用意してあげるから!」

そして母親は部屋から浮き足をたてて出ていった。

「これもお前の作戦か?俺が母親に逆らえないということを知ってやったことか?」

「どうかなぁー?」

誤魔化しているケンに対して少し腹が立ったが母親には逆らえない…

「はぁーお前のせいで明日ゆったりする予定が消えたじゃん」

「いつもゆったりしてるだろ?久しぶりの同級生だ、楽しもうぜ」

ケンが久しぶりにウザく感じたがそれも我慢した。

その後はケンの最近の出来事や結婚まじかの彼女がいることや仕事がうまく行ったことなど聞いていた。

時間が経つのは早い、気づいたらもう次の日の夜になっていた。

「俺…こんなにも勿体無い時間の使い方をしていたのか…まぁいいや」

同窓会はめんどくさったので腹痛で休むことにした。

しかしまた嫌な声が一階から聞こえてきた。

「トシー迎えに来たぞー」

「トシー!ケンちゃんが迎えに来てくれたよー」

「くそぅ…」

布団の中で拳を握りしめた。

そして着替えてケンの車に乗り同窓会の場所へ向かった。
着くともうそこに同級生たちは集まっていた。
すると、1人のやかましい男が話しかけてきた。

「おー!ケン!歳を取ればとるほどかっこよくなるなぁーお前は!…そして隣にいるのは…み、みんな!トシが来たぞー!」

そして周りに人が集まってきて皆が「久しぶり!」と声をかけてきた。


そして何分間かするとさっき話しかけてきたやかましい男が挨拶をし、乾杯をした。

ケンの隣に座っているとさっき来たやかましい男がまた来た。

「何年振りだよトシー」

「委員長はいつまでたっても変わらないよな」

やかましい男というのは中学時代クラスの委員長を3年間つとめて、野球部でもあったので3年間丸坊主で中学時代を過ごした男のことである。

「そうだ!トシ!新作の小説でも書いたのか?
だから今日その小説の宣伝のために来てくれたのか?」

「新作の小説なんて書いてないよ、今日はただただケンに連れられて来ただけ」
手に持っていた酒を飲んだ。

「そうか…まぁ新しいの書けたらいつでも行ってくれ、介護施設にいる人たちのためにたくさん買うからさ」

委員長は中学の時から夢見ていた介護士になっていた。そしてその仕事をいまでも続けている。

「ありがと…でケンはなんでこのタイミングで俺を同窓会に連れてきたんだ?」

委員長も「確かに」と同調してくれた。

「まぁお前に会いたいって言ってたやつがいるからさ…噂をすれば…」

「やっほー久しぶり」
そこには中学の時付き合っていたマナがいた。

「ちょっと2人だけで話さない?」
マナにつれられてベランダに出た。


「さっきケン君が話してくれたと思うけどどうしても会いたかったのはね?」

マナが俺の書いた小説を取り出した。

「この小説にでてくる彼女って誰をモデルにしてるのか…3年前に聞いたけど教えてくれなかったじゃん?
それが聞きたくて…」

俺は3年前に小説を書いた。それはある人の夢を叶えるために書いたものだった。
その小説は見事芥川賞ノミネートまで行ったが、芥川賞は取れなかった。

「そのモデルは…」

「ごめん!言いづらいよね…」
マナが話を遮ってきた。

「いや、全然言えるけど…?」

「え?」

マナがきょとんとした顔でこっちを見てきたので答えた。

「それにでてくる彼女のモデルは俺が小説家になるきっかけになった師匠をモデルにしてるんだよ」

「…そうだったんだ」
マナはなぜか少しがっかりした素振りを見せた。

「どうかした…?」

マナは手に持っていたワインをがぶ飲みした。
「実は…このモデル…私だと思ってたんだよね…
だからずっと私のことを忘れてないと思ってたんだけど違ったんだね…なんか恥ずかしいね私って」

そしてマナは笑った。
しかしその笑いはなにかを誤魔化そうと必死だった。
その誤魔化しもすぐに消えた。
マナは涙を流した。
事情を聞くと、

マナは大学の時に付き合った彼氏との間に子供が出来てそのまま結婚にいくはずだったのだが、彼氏がいきなりマナと子供を残して家から出ていかれたらしい。
マナに子供ができたのはちょうど入社1年目の時だったので会社を辞めて育児に集中しようとしたが、いきなり出ていかれたので頼れるのは実家だけだった。
母親に育児を任せて子供を養うために仕事を探したが入社1年目でやめたこともあり、どこも雇ってくれずこのままじゃ実家にも迷惑がかかるし、生まれてきた子供に可哀想な思いをさせてしまう、そんなときに久しぶりに気分を変えようとこの小説を呼んで3年前のことを思いだし、トシなら養ってくれるかもと思い今日にいたったらしい。

「私ってバカだよね…」
涙を流しながらマナは帰ろうとした。

「ちょっと待って!」
俺はマナを引き留めるとある人に電話した。

「あの!俺…小説書きます…」

「やっとその気になってくれたのか!」

「ですが一つ条件があって…出版社に1人雇ってくれませんかね?」

「…編集長に相談してみるが…多分君が小説を書いてくれるなら…多分OKが出されると思うよ」

俺は「ありがとうございます!」と言い電話を切りマナに今のことを話した。

「マナの中学の時の夢だった出版社に雇ってもらえるよ!」

マナは振り向いてこっちに歩いてきた。
そしてそのまま抱きしめてきた。

「…なんであなたはそんなにも優しいの?」

「優しいと言うか…久しぶりに小説を書きたくなっただけだ」

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