空白の3年間

らろぱ

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克服(続 )

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あの頃はただ必死に師匠を越える作品を作ることに没頭していた。

1日師匠の家の家事をして、時間が余ったら小説を読んでもらう。
そんな毎日を過ごしていた。

「昼ごはん出来ましたよ」

「おーさんきゅー」

師匠はパソコンを閉じ、書類をまとめて昼ごはんが用意された机の前に来た。

「おー!今日は素麺か!いただきまーす!」
勢いよく昼ごはんを食べ進める師匠を見るとなんだかほっこりした。

「それにしても師匠の家結構広いし、家事もまともに出来ない師匠が今までどうやって1人で生活してきたんですか?」

師匠の家は都会から電車で1時間、そこからバスで30分かかかる結構田舎なところに住んでいた。
THE日本の木造建築というような家、しかも結構広く敷地面積も結構あった。

「家事がまともに出来ないというのはひどい言われようだなぁ」

「俺がこの家に来たときは床はごみとほこりだらけだし、皿も使ったまんまで洗いもせず、洗濯物も乱雑にしてた人が何をおっしゃるのやら…」

「君は口だけは達者だなぁ…その個性をもっと小説を書くのに活かさんかい…」

師匠が素麺を勢いよく食べていると、いきなり苦しそうな表情をしだした。
「慌てすぎですよ!はい、お茶!」

師匠がお茶を飲み干した。

「いやー、やっぱり君の気遣いと家事は素晴らしい
本当にいつも助かってるよ」

少し照れくさくなった。
あの師匠に褒められるとは…本当に嬉しかった。

「家事とか、料理も母から教わって…」

「君のお母さんは相当すごい人であり、君のことを誇りに思うだろうね
こんなにも完璧に自分が教えたことを理解できて、それを実行出来るんだから」

「俺なんか小説家としても売れてないし、頭もよくない、出来るのは家事くらいですから…本当に親には迷惑かけてますよ…こんなドジな俺を誇りには思ってないと思いますよ」

「そんなことないさ」
師匠に言われると少し真実味が増してきた。

そういえば師匠のお母さんやお父さんとは会ったことがないが…
どんな人だったのだろうか…
こんなにも優秀な作家の育ての親だ、なにかすごいものを持っているに違いない。

「師匠のお母さんはどんな人だったんですか?」

師匠は箸を置き、注ぎなおしたお茶を一口飲んだ。

「私の母は普通の人だよ、そんな頭が桁外れで良い人でもないし…でも父は結構頭も良かったよ…人望もあったからみんなに好かれていたよ、でも私が中三の夏に病気で倒れてそのまま帰らぬ人となったけどね…」

俺が黙り込むと師匠は「ごちそうさま」と言い皿を片付け始めた。

「過去から学べる知識はたくさんある、だけど過去をいつまでも見返してたら先へは進めないだろう?」

「そうですね…」

俺も皿を片付け始めた。

「よし!私は皿を台所に運んだから後は頼む!」

師匠はそそくさと作業机に戻った。

「師匠…そんなんじゃいつまでも家事、身に付かないですよ!俺がいつまでも師匠の家にいるわけでもないんですから!」

「君がいつまでも売れる小説が書けなかったらずっとここにいるつもりだろう?
というかいつまでもいてくれていいんだよ、君が売れる小説が書けたとしても…」

師匠が作業机から台所へと向かってきた。

「師匠…やっと家事をする気に…」

突然師匠が後ろから抱きついてきた。
師匠の良い匂いと、温もりが体全身に伝わって、急激に恥ずかしくなった。

「師匠…!?」

師匠は「そのままで聞いてくれ」と言い話し始めた。

「君が来る前は私の母が家事をしてくれていた、
私は昔から家事だけはできなかった、その事を私の母も亡くなった父も悪いことではないと言っていた。
人間は不完全なものだから私だってお父さんみたいに頭がよくないし…と母は言ってくれて、父も俺だって、頭は良くてもお母さんみたいに家事が出来ないからなぁ、といつも家事が出来なくて泣いていた私を慰めてくれた、そんな母と父が大好きだった。
でも、父が亡くなってから母はより一層私を愛してくれた。私がやりたいことをなんでも叶えてくれた。
でもある日母が倒れた。過労だと医者から言われた。
…私は母をずっと拘束していたんだなぁ、その時から覚悟していた。私は母に自由に生きて欲しい、そう願った。だから、私は小説が売れたお金を渡して母に好きに生きて欲しいと言った。
これで何もかもが解決すると思っていたが、それは間違いだった、その先に残っていたのは孤独だけだっだだよ…」


「師匠…」

「だから、私を1人にはしないでくれ…」

「俺は師匠のことを1人にはしませんよ」
「…」
師匠は何も言わなかった。 

「…師匠?」
反応がなく、少し焦ったがその理由はすぐにわかった。
師匠の方を見ると、俺に抱きついたまま夢の世界へと旅立っていた。
そして妙にお酒の匂いがしたので、師匠の作業机を見ると飲みかけのビール缶がおいてあった。

「昼間っから…」

皿洗いを中断し、師匠をそのままベットに寝かせた。

「皿洗い再開ー」
そして皿洗いに戻った。すると電話が鳴った。
「…マナからか」

高校生の頃から付き合っている彼女のマナからだった。

「どうした?」

「…ごめん…」



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