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吸血鬼
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吸血鬼は、血を吸った人間を吸血鬼に変える。
そんなおとぎ話がまことしやかに囁かれている。それは、間違いでもあり、真実でもある。吸血鬼は、ある条件を満たせば、吸血した相手を吸血鬼に変えることができるのだから。
その条件とは、想い。
相手に対して強い思い入れがある場合、吸血した相手を吸血鬼に変えることができる。憎悪でも、愛情でもいい。
おそらくこれは、種族の生存本能なのだろう。
なぜなら、吸血鬼は、愛した相手の血を求め、愛しい相手の血ほど甘く感じる。
ただし、吸血鬼は孤独の種族。
永遠とも言える生の代わりに、人間の世界に迫害され、追われ、隠れ住む運命を背負う。それは、寂しさと渇きの苦しみを伴う。それを、愛する相手に背負わせるだけの勇気が僕にはなかった。だから、誰かを同族にしようなんて、思ったことはない。
だけど、ただ一度だけ、衝動に、誘惑に負けて、愛した人の血を飲んでしまった。
もう、忘れかけた遠い昔のことだった。
あの頃、僕は、人間が多く住む街に暮らしていた。
そこで出会った彼女は、とても魅力的な女性だった。公園に行くたびに出会う彼女。いつしか、僕は彼女に惹かれていた。
しかし、その年の渇き。事件が起こった。
ひどい渇きを覚え、赤い目を隠して、出かけた僕の目に飛び込んできたのは、その彼女。僕を見つけると、いつものように微笑んで、手を引いた。いつもの公園で、いつもの噴水のそばで、いつものように。
本当は、彼女を振り切って、すぐに離れるべきだったのだ。しかし、まだ若かった僕には、目の前の魅力的な彼女に、抗えなかった。
気がついたら、彼女の首に牙を立てていた。
その甘い甘いの血で喉を潤していた。
やってしまった。と気づいた時、僕は目の前が真っ暗になった。
彼女は、僕を見て目を見張っていた。彼女に僕は、自分が吸血鬼だと伝えていなかったのだ。驚いた表情の彼女は、急に苦しそうに体を折った。
人間が吸血鬼に変わるところをはじめて見た僕は、その苦しみように戸惑った。
人間から吸血鬼に変わるのは一瞬。
でも、その直後に襲う飢えと渇きに、人間の心が耐えられるはずがない。今までの人生分の渇きが、一気に襲ってくるのだから。
その苦しみが、彼女を殺した。人間としての感覚が、吸血という行為を忌避し、拒否して、渇きに苦しんだ挙句、自ら命絶った。
僕には、何もできなかった。
彼女を見殺しにした。
吸血鬼といえど、不死ではない。
体を刃物で突き刺せば、血が流れる。小さな傷なら、すぐに治ってしまうが、心臓を狙えばその治癒力はかなり抑制される。体から一定量の血液が無くなれば、人間と同じく死に至る。
彼女の変わり様を目の当たりにし、その死を見た僕は、それからすぐ、街を離れて森に移り住んだ。
二度と愛した人間を襲わないように。
誰も、愛さないように。
なのに、長い時とともに、痛みも寂しさも薄れた僕は、サクを見つけた。
そして、愛してしまった。
初めは、娘として。
今は、女性として。
そのことに気づいてしまった。
ただ、その温かさを知った今、その温もりを手放せなかった。
割り切ることも、振り切ることもできない僕は、ただ、目の前に迫る現実に背を向けて、逃げることしかできなかったんだ。
そんなおとぎ話がまことしやかに囁かれている。それは、間違いでもあり、真実でもある。吸血鬼は、ある条件を満たせば、吸血した相手を吸血鬼に変えることができるのだから。
その条件とは、想い。
相手に対して強い思い入れがある場合、吸血した相手を吸血鬼に変えることができる。憎悪でも、愛情でもいい。
おそらくこれは、種族の生存本能なのだろう。
なぜなら、吸血鬼は、愛した相手の血を求め、愛しい相手の血ほど甘く感じる。
ただし、吸血鬼は孤独の種族。
永遠とも言える生の代わりに、人間の世界に迫害され、追われ、隠れ住む運命を背負う。それは、寂しさと渇きの苦しみを伴う。それを、愛する相手に背負わせるだけの勇気が僕にはなかった。だから、誰かを同族にしようなんて、思ったことはない。
だけど、ただ一度だけ、衝動に、誘惑に負けて、愛した人の血を飲んでしまった。
もう、忘れかけた遠い昔のことだった。
あの頃、僕は、人間が多く住む街に暮らしていた。
そこで出会った彼女は、とても魅力的な女性だった。公園に行くたびに出会う彼女。いつしか、僕は彼女に惹かれていた。
しかし、その年の渇き。事件が起こった。
ひどい渇きを覚え、赤い目を隠して、出かけた僕の目に飛び込んできたのは、その彼女。僕を見つけると、いつものように微笑んで、手を引いた。いつもの公園で、いつもの噴水のそばで、いつものように。
本当は、彼女を振り切って、すぐに離れるべきだったのだ。しかし、まだ若かった僕には、目の前の魅力的な彼女に、抗えなかった。
気がついたら、彼女の首に牙を立てていた。
その甘い甘いの血で喉を潤していた。
やってしまった。と気づいた時、僕は目の前が真っ暗になった。
彼女は、僕を見て目を見張っていた。彼女に僕は、自分が吸血鬼だと伝えていなかったのだ。驚いた表情の彼女は、急に苦しそうに体を折った。
人間が吸血鬼に変わるところをはじめて見た僕は、その苦しみように戸惑った。
人間から吸血鬼に変わるのは一瞬。
でも、その直後に襲う飢えと渇きに、人間の心が耐えられるはずがない。今までの人生分の渇きが、一気に襲ってくるのだから。
その苦しみが、彼女を殺した。人間としての感覚が、吸血という行為を忌避し、拒否して、渇きに苦しんだ挙句、自ら命絶った。
僕には、何もできなかった。
彼女を見殺しにした。
吸血鬼といえど、不死ではない。
体を刃物で突き刺せば、血が流れる。小さな傷なら、すぐに治ってしまうが、心臓を狙えばその治癒力はかなり抑制される。体から一定量の血液が無くなれば、人間と同じく死に至る。
彼女の変わり様を目の当たりにし、その死を見た僕は、それからすぐ、街を離れて森に移り住んだ。
二度と愛した人間を襲わないように。
誰も、愛さないように。
なのに、長い時とともに、痛みも寂しさも薄れた僕は、サクを見つけた。
そして、愛してしまった。
初めは、娘として。
今は、女性として。
そのことに気づいてしまった。
ただ、その温かさを知った今、その温もりを手放せなかった。
割り切ることも、振り切ることもできない僕は、ただ、目の前に迫る現実に背を向けて、逃げることしかできなかったんだ。
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