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新しい世界
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吸血鬼は、人間よりずっと丈夫だ。多少の怪我は一瞬で治ってしまうし、風邪を引いたりなんかもしない。死というものも、心臓を直接破壊しない限りには、ほぼありえない。
だからケイは、サクを吸血鬼にすることで生きながらえさせた。
そして、サクの世界は一変した。
見るものも、聞く音も、味も、全てが人間の頃と変わった。敏感になるものもあれば、鈍感になるものもあった。例えば、視力はすごく良くなったし、聴力もすごく上がったが、食べたものの味はよくわからなくなったし、寒いとか暑いとか外気の感覚も変わった。
一変した世界に戸惑ったものの、ケイがひとつずつ、疑問に答えてくれたから、サクに不安はなかった。
ただ、唯一何度やっても慣れなかったのは。
「ほら、サク」
「ま、待って……」
「今日は、自分でやるって約束だよね?」
目の前のケイは、楽しそうにサクを見つめている。
サクはといえば、躊躇していた。ちなみに、サクは現在、ソファーに座ったケイの膝の上に座らされている。さらに、今日は逃げられないようにと、サクの腰をケイが抱きかかえていて、身動きが取れない。
「ほら、ここだよ」
躊躇うサクを促すように、ケイは空いてる方の手で、自分の首をトントンと叩く。
「わかってるけど」
「牙の使い方はわかるでしょ? ほら、早く」
促すケイは、ニコニコと楽しそうだ。サクは、そんなケイを恨めしそうに見たが、どうしても離してくれないことはわかっているので、そっと口を開けた。
喉はすごく渇いている。
吸血鬼になりたてのサクは、一度の吸血で沢山の血を飲むことはできないし、すぐに渇いてしまう。だから、こうして、こまめにケイから血をもらうのだが、この行為は何度やっても慣れない。
ケイの綺麗な肌に、小さな牙をそっと立てる。ぷつりと皮膚が裂ける感覚が苦手だった。
でも、それを乗り越えると、甘い香りの血が口の中に広がる。喉がというより、心が満たされる。
ゆっくりと牙を抜けば、傷はすぐに消える。こぼれた血を舐めとれば、ケイの肌は綺麗なものだった。
「うん、上手になったね」
楽しそうに頷いたケイは、サクを抱えていない方の手で、その頭を撫でた。そして、一度、ぎゅっと抱きしめる。サクの髪に顔を埋めて、大きく深呼吸したケイは、満足そうに微笑むと、ゆっくりとサクを解放した。
「よし、じゃあ、お茶にでもしようか」
そう言って立ち上がるケイの背をみて、サクは首をかしげる。なんか、変な感じがする。いつものんびりしたケイなのに、今日はほんの少しピリッとした空気がある。それは、昨日の夜、ケイが出かけて、帰ってきてからだった。
ふと、窓辺に目をやると、蝙蝠が一匹来ていた。その蝙蝠は、ケイの使い魔だ。
「ねぇ、ユエ。ケイ、昨日何かあったの?」
「……俺からは言えねぇ」
そういうと、何故か慌てたようにいってしまった。
直後、カップ手にケイが戻ってくる。
「ユエと、何か話してたの?」
カップを渡しながらそう首を傾げたケイに、サクは思い切って聞いてみることにした。
「ケイが昨日何してたか聞いたら、言えないって慌てて逃げちゃったんだけど。……ケイ、昨日何してたの?」
すると、思いのほか、すぐに答えが帰ってきた。
「後始末」
「え?」
「サクの仇を討って来たんだよ」
にっこりと笑って、ケイはいう。
「……仇」
「そう。この家の場所もばれちゃ困るからね」
そう言って、カップに口をつけるケイを、サクは唖然と見る。
「なんでそんなこと聞いたの?」
「なんか、ケイ、いつもと違うから」
「そっかー。久しぶりに暴れたからかな。気を付けないとね」
何に気を付けるのだろうか。疑問に思ったものの、サクにはそれ以上、聞くことができなかった。
ただ、ケイを本気で怒らせると怖いらしい、ということは、心に刻んだのである。
だからケイは、サクを吸血鬼にすることで生きながらえさせた。
そして、サクの世界は一変した。
見るものも、聞く音も、味も、全てが人間の頃と変わった。敏感になるものもあれば、鈍感になるものもあった。例えば、視力はすごく良くなったし、聴力もすごく上がったが、食べたものの味はよくわからなくなったし、寒いとか暑いとか外気の感覚も変わった。
一変した世界に戸惑ったものの、ケイがひとつずつ、疑問に答えてくれたから、サクに不安はなかった。
ただ、唯一何度やっても慣れなかったのは。
「ほら、サク」
「ま、待って……」
「今日は、自分でやるって約束だよね?」
目の前のケイは、楽しそうにサクを見つめている。
サクはといえば、躊躇していた。ちなみに、サクは現在、ソファーに座ったケイの膝の上に座らされている。さらに、今日は逃げられないようにと、サクの腰をケイが抱きかかえていて、身動きが取れない。
「ほら、ここだよ」
躊躇うサクを促すように、ケイは空いてる方の手で、自分の首をトントンと叩く。
「わかってるけど」
「牙の使い方はわかるでしょ? ほら、早く」
促すケイは、ニコニコと楽しそうだ。サクは、そんなケイを恨めしそうに見たが、どうしても離してくれないことはわかっているので、そっと口を開けた。
喉はすごく渇いている。
吸血鬼になりたてのサクは、一度の吸血で沢山の血を飲むことはできないし、すぐに渇いてしまう。だから、こうして、こまめにケイから血をもらうのだが、この行為は何度やっても慣れない。
ケイの綺麗な肌に、小さな牙をそっと立てる。ぷつりと皮膚が裂ける感覚が苦手だった。
でも、それを乗り越えると、甘い香りの血が口の中に広がる。喉がというより、心が満たされる。
ゆっくりと牙を抜けば、傷はすぐに消える。こぼれた血を舐めとれば、ケイの肌は綺麗なものだった。
「うん、上手になったね」
楽しそうに頷いたケイは、サクを抱えていない方の手で、その頭を撫でた。そして、一度、ぎゅっと抱きしめる。サクの髪に顔を埋めて、大きく深呼吸したケイは、満足そうに微笑むと、ゆっくりとサクを解放した。
「よし、じゃあ、お茶にでもしようか」
そう言って立ち上がるケイの背をみて、サクは首をかしげる。なんか、変な感じがする。いつものんびりしたケイなのに、今日はほんの少しピリッとした空気がある。それは、昨日の夜、ケイが出かけて、帰ってきてからだった。
ふと、窓辺に目をやると、蝙蝠が一匹来ていた。その蝙蝠は、ケイの使い魔だ。
「ねぇ、ユエ。ケイ、昨日何かあったの?」
「……俺からは言えねぇ」
そういうと、何故か慌てたようにいってしまった。
直後、カップ手にケイが戻ってくる。
「ユエと、何か話してたの?」
カップを渡しながらそう首を傾げたケイに、サクは思い切って聞いてみることにした。
「ケイが昨日何してたか聞いたら、言えないって慌てて逃げちゃったんだけど。……ケイ、昨日何してたの?」
すると、思いのほか、すぐに答えが帰ってきた。
「後始末」
「え?」
「サクの仇を討って来たんだよ」
にっこりと笑って、ケイはいう。
「……仇」
「そう。この家の場所もばれちゃ困るからね」
そう言って、カップに口をつけるケイを、サクは唖然と見る。
「なんでそんなこと聞いたの?」
「なんか、ケイ、いつもと違うから」
「そっかー。久しぶりに暴れたからかな。気を付けないとね」
何に気を付けるのだろうか。疑問に思ったものの、サクにはそれ以上、聞くことができなかった。
ただ、ケイを本気で怒らせると怖いらしい、ということは、心に刻んだのである。
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