新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART2 ~鎮西のジャンヌダルク~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第二章その5 ~絶対守るわ!~ 熱血の鹿児島防衛編

第6船団ファイト!

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「いよいよ近付いてきたわね」

 映し出された半透明の地図を眺め、鶴は難しい顔で腕組みした。

 南下しつつある敵戦力は、かつて見たことのない大軍である。

 旗艦きりしまの作戦会議室には、鶴や誠、鳳や神使達をはじめ、参謀方や天草がいる。

 他にも志布志隊や旧自衛官の面々も同席していて、主要な指揮官が勢ぞろいした状態だ。

 一応船団長の島津も着席していたが、肩や頭に神使を乗せておびえていた。

 天草は鶴の地図を見つめて言った。

「遠方から敵陣が見えるのは嬉しいけど……凄い数ね。ざっと7万近く……九州のほとんどの戦力を結集してるんじゃないかしら」

 天草は険しい表情で言葉を続ける。

「敵の主戦力は九州自動車道を南下中。恐らく鹿児島北インター付近で降りて、この鹿児島に侵攻してくるはずね。ただ補助戦力は、付近の通常道路に分かれて移動してる……」

「そうねあまちゃん。一本道なら横からひっぱたけばいいけど、これだとそうもいかないわ。すぐ近くから新手が来るし……」

 鶴は腕組みしたまま眉をひそめる。

 コマは鶴の肩からテーブルに降り、前足で地図をスクロールさせた。

「特にこの大きいの……城喰いがやっかいだね。こいつが来たら、どんな陣も踏み破られて総崩れだ」

 体躯だけでも1500メートル近い城喰いの周囲には、色濃い邪気が広範囲で渦巻いている。

「電磁バリアもとんでもなく強力だし、これじゃ海からの砲撃も効かないよ。黒鷹、どうしようか」

 コマに促され、誠も困ったように答えた。

「最強の矛と盾だよな。その上、こいつを取り囲む大群がいるし……」

 参謀方も懸命に電算機器を操り、様々な戦闘シュミレーションを繰り返していたが、そのことごとくが人の敗走に終わっている。

 今の戦力で、鹿児島を守り切れる可能性はかなり低いだろう。

 鶴は地図を指差しながら誠に言った。

「ねえ黒鷹、私ならこの辺りの山に潜んでやり過ごして、後ろから敵本陣に攻め入るけど」

 鶴が指差すのは、鹿児島から少し西に進んだ山手。川田や河頭こがしらといった集落付近である。

「セオリーならそうだよな。けどこんな絶好の位置、敵が見逃すとは思えない」

 誠は鶴にそう答えた。

「四国のヒメ子の戦いぶりは、敵も知ってるはずだろ? 俺が敵だったら、この辺りを真っ先に調べて潰すな。それか、わざとここを背にして隙を見せて、駆け下りてきたところを取り囲むかするけど」

「それもそうね……」

 会議は重苦しい雰囲気に包まれた。

 誠も懸命に考える。

 圧倒的な兵力差をくつがえすには、奇襲奇策で敵を引っかき回すしかない。

 だがさっき言った通り、それも相手は読んできているはずだ。

 あの旧徳島県の戦いでは、敵の目的は鶴を倒す事だったから、鶴に釣られて動いた事で敵陣が乱れたが…………今度の狙いは鹿児島城塞都市だ。同じ手は通じないだろう。

 だが誠がそこまで考えた時、壮太が不意に声を上げた。

「ああ、わかんねえっ! あの時、武将のおっちゃん達にもっと聞いとけばよかったな!」

「…………武将?」

 誠は壮太の方を見た。

 何かが頭の中で繋がりかけている。

(武将……戦国武将……そうだ、あの霊界の大広間で…………)

「もう一度霊界に繋ぐにしても、ゼノファイア殿は疲れて寝ておりますからね」

 鳳が困ったように言った。

 誠はそこで、鳳の色紙を思い出した。

 鳳があの時手にしていた、六紋銭が描かれた真田のサイン入り色紙。

(真田……真田と言えば、上田城の合戦か……)

 城にこもった真田軍が、徳川の大軍を追い返した戦いである。

(確か、あの戦いで徳川軍を分断したのは……川の水だったよな)

 でも川の水ぐらいで、あの城喰いが揺らぐだろうか。

(川の水……水……?)

 更に誠は、小豆島の戦いを思い出した。

 鬼神族が海を渡って攻めてきて、それを鶴が海上で引っ掻き回して。

 あの時鶴は、新しい神器のたまを使っていた。

 確かその神器の名前は…………

「ああああああっ!!!」

 誠は突然大声を上げてしまった。

 一同はドン引きした表情で誠を見つめているが、鶴と鳳は目を輝かせた。

「黒鷹、何か思いついたの?」

「黒鷹殿、またいやらしい攻め手ですか?」

「い、いや、別にそんな事ないと思うけど……」

 誠がたじろいでいると、コマが元気良く誠の肩に飛び乗った。

「早速聞かせてよ、黒鷹」

 誠は頷いて、天草の方に向き直った。

「天草さん。鹿児島城砦都市の壁って、多分可動式防御アクティブディフェンスですよね?」

「そ、そうね。一応移動できるけど……」

「じゃあ敵と正対しない南側の壁、全部とっぱらえませんか」

「えええっ!?」

 突然の提案に、天草は目を丸くしている。

 さっきからいかに鹿児島を守るかで悩んでいるのに、その守りの壁を取り払うのだから当然なのだが。

「どうせ壁にこもってても、踏み破られるだけなんで。だったらこういうのはどうでしょう」

 誠は皆に手短に説明する。

 鶴の神器や能力、そして鹿児島の戦力や備えを使って、考えられる唯一の勝利方法だったが、一同はごくりとノドを鳴らした。

「もちろんここは第6船団なんで、最終的に決めるのは皆さんなんですけど」

「……そ、それがもし可能なら、勝てるかもしれないけど……」

 戸惑いながら言う天草に、鶴が自信満々で答えた。

「大丈夫よあまちゃん、この鶴ちゃんと黒鷹がいれば、そんな作戦朝飯前よ」

「わ、分かったわ。他に手がないし……こちらもその方針で準備を始めます。上流の取水所にも、急ぎ連絡を……」

 天草は頷き、参謀方も忙しく動き始める。

 だがそこで誠は天草を呼び止めた。

「……ちょっといいですか、天草さん」

「何かしら?」

 天草は振り返る。

 誠は少し迷いながら言葉を続ける。

「……味方への情報伝達ですが、念のため、作戦の一部を伏せて欲しいんです。その……四国でも、おかしな事があったんで」



 忙しく駆け回り、準備に勤しむ衛兵達。

 決戦に備え、布陣を進める自走砲や戦車、そして人型重機。

 元自衛官の面々は、若者達を懸命に励ましていたし、若者達は真剣な目で聞き入っていた。

 そんな勇姿をよそに、鹿児島城砦都市のあちこちには、色とりどりののぼり旗がひらめいていた。

 鶴が用意させたそれらには、『佐世保バーガー』『とんこつラーメン』などの筆文字がおどり、まるで武将の旗印はたじるしのようだった。

 鹿児島で最も高い展望台に立つ鶴は、満足げにその光景を眺める。

「いいわ、やっぱり戦には旗印はたじるしね。これが無ければ始まらないわ」

「いやいや鶴、これじゃ何の戦いだか分からないよ」

 コマは呆れ顔であるが、鶴は上機嫌で言葉を続ける。

「いいのよコマ。ここで負けたら、故郷ふるさとが無くなってしまうんだもの。だから頑張るより所が必要なの」

「それが全部食べ物なのかい?」

 コマは尚も呆れているが、町を行き交う人々や衛兵は、皆それなりに気合いの入った表情をしていた。

『がんばろう九州!』『絶対勝つぞ!』『黒豚のとんかつ!』などの旗を屋根に掲げ、スピーカーから陣太鼓を鳴らした装甲車が行き過ぎると、人々が歓声を上げて応援していた。

 装甲車のサイドには、丸に十の字じゅのじ……つまり、島津藩の家紋が描かれている。

 鶴は展望台の一同……天草や志布志隊の面々に振り返った。

「さあ、士気は十分だわ! 天下分け目の大勝負、ここが一大決戦よ!」

 鶴が右手を前に差し出すと、湯香里とキャシーがその上に手を重ねた。

「ほら、みんなも!」

 湯香里に急かされ、誠や他の隊員も手を置いた。

「わ、私も……年甲斐もなくお邪魔するわ……」

 天草も少し恥ずかしそうに手を添えてくれた。

「それじゃ壮ちゃん、あなたの故郷だから頼むわ!」

 鶴が壮太に目配せし、壮太は力強く頷いた。

「よおしっ、いっくぞおおっ!!! 第6船団~っ、ファイトォーッ!!!」

 おお、と全員が気合いの入った声を上げ、一同は戦いへと赴いた。



 一方その頃、天草の執務室の近く。

 人気の無い通路の脇で、一人の女性が佇んでいた。

 頭の横で髪を縛る、清潔感のある女性。つまりあの秘書官である。

 彼女が壁に手を当てると、ぼんやりと何者かの姿が映った。

「おっ、何か動きがあったか?」

 相手はやや軽い口調で尋ねてくる。

 秘書官は夢見心地のように淡々と答えた。

「……焔様。こちらの作戦の全貌が分かりました」

「了解、でかした。これで俺っちの勝ちは確定だな♪」

 相手は機嫌良さげにそう答えた。
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