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第二章その6 ~目指すは阿蘇山!~ 火の社攻略編
惨劇の門の中で
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「…………ここは……?」
天草は慌てて身を起こした。
百足の中から見た景色だったが、黒い壁に百足が張り付き、中へ沈み込んでいくところで記憶が途絶えている。
(みんな無事かな。変なふうにしがみついたから、私だけ別のところに出たのかも……)
神使どころか、アマビエの姿も見えないのは心細かった。
…………それにしても、やたらと人工的な場所である。魔族の根城というより、人の作った建造物そのものだ。
天草は周囲を見回すが、そこでふと違和感を感じた。
通路上部に設置された、明かり取りの細い窓。床や壁面に記された案内表示。
そのどれもが記憶を刺激し、一つの答えにたどり着いた。
そう、ここは高千穂研の……あの壁の中だ。
「……!!!」
思わず胸がどきりとする。
でも、なぜ? なぜそれがこんな阿蘇の只中にあるのか。
瞬間的に震えが来て、両腕で己の体を抱きかかえた。
抑えようとしても、体の芯から恐怖が湧き上がってくる。
周囲の景色がぐんにゃりと歪み、当時の記憶が思い出された。
響き渡る人々の悲鳴、血しぶきの舞う地獄の光景。
逃げて走って、ようやくたどり着いた白壁の前で、自分は必死に泣き叫んだ。
周囲の人々も泣き喚いていた。
そして人々の顔が天草の方に向いた時、彼らは言った。
お前の親父が閉めているのだと。
(……違う……私は違うんだ……!)
天草はぎゅっと胸元で手を握る。
……怖い。消えてなくなりたい。
でも私は違うんだ。今逃げたら、私はあの人と同じになってしまう。
外で戦っている仲間達のためにも、自分がくじけるわけにはいかない……!
天草はぶんぶん顔を振ると、自らの頬をばん、と叩いた。
それから立ち上がって壁に手を沿え、一歩ずつ歩みを進める。
(大丈夫、道は知ってる……!)
高千穂研を取り囲む分厚い壁は、ある種のダムのように、上部に複数の通路が内包されていた。そしてそれらは、最終的にコントロールルームへ続いている。
(人質は多分、コントロールルームね……)
そこまで敵に見つからずに進めるだろうか。
祈るような思いで歩む天草だったが、そう都合よく事は運ばなかった。
曲がり角の向こうから、重い足音が近づいてきたのだ。
天草は咄嗟に身を隠そうとし、傍らの扉に目を留めた。整備用の補助通路の入り口である。
天草はコックに手をかけたが、扉が曲がっているのか、うまく開いてくれないのだ。
足音の主は通路を曲がり、とうとう姿を現した。
「お、鬼……?」
それはまるで、お伽話の鬼そのものだった。
一人は金棒をかついだ、巨体でがっちりした姿。
もう一人は黒髪を長く伸ばした、童子のような外見であるが、小柄な見た目にもよらず、巨大な斧をたずさえている。
鬼達は天草を見つけると、特に緊張感のない会話を始める。
「なんじゃこりゃ、大人も紛れこんどるんかい」
大柄な鬼が耳をほじりながら言うと、小柄な鬼が頷いた。
「熊襲ども、適当にさらってきたんじゃろ。偉そうにしとる割に仕事が粗いわ」
小柄な鬼はそう言って、天草の方に歩みだす。
「まあええ、捕まえてあいつらに見せれば、少しはわしらの顔も立つじゃろ」
「……くっ!」
天草は後ずさりながら拳銃を構える。
「止まりなさい!」
だが鬼は止まらない。
数瞬の後、天草は発砲するが、弾は鬼の頬に当たり、弾かれて壁に跳ねた。
天草は尚も射撃するが、属性添加された弾丸は、相手に傷一つ付ける事も出来ない。
「わしらは鬼神族ぞ。そんな豆鉄砲が効くものか」
小柄な鬼はあくびをしながら言うと、片手を前に差し出した。
「ほれ、ケガしとうなかったら、大人しゅう捕まれ」
「……随分親切なお子様ね」
「子供はないじゃろ。この紫蓮、1000年以上生きとるんじゃぞ。見た目がこうなのは業じゃ」
「あら、年上だった? それは失礼……」
天草は冷たい汗を感じながら、再び銃の狙いを定める。
もう一度、鬼があくびした時、天草の銃が火を噴いた。
「……別に鉛玉喰う趣味はないがの」
小柄な鬼はそう言って、何かを噛み砕くように口を動かす。
やがて吐き出された弾が床を転がる。
弾は滅茶苦茶に潰れていたが、血の一滴も付着していない。
「……っ!」
天草は戦慄した。
弱点どうこうの話じゃない。
口の中だろうが眼球だろうが、細胞の一つ一つが普通の生き物ではないのだ。
完全に神話の世界の化け物であり、倒すには人型重機のような大型兵器が必要だろう。
「……ま、抵抗したからの。それなりに痛い目はみてもらうか」
小柄な鬼の目に、人ならぬ光が宿った。
斧を握る手に、物凄い力が込められるのを感じ取り、天草は本能的に身を硬くした。
だが次の瞬間、唐突に横の扉が吹き飛んだのだ。
粉塵から現れ出たのは、長い黒髪を結んだ長身の女性、鳳。
そして第5船団からやってきた少年、鳴瀬誠であった。
天草は慌てて身を起こした。
百足の中から見た景色だったが、黒い壁に百足が張り付き、中へ沈み込んでいくところで記憶が途絶えている。
(みんな無事かな。変なふうにしがみついたから、私だけ別のところに出たのかも……)
神使どころか、アマビエの姿も見えないのは心細かった。
…………それにしても、やたらと人工的な場所である。魔族の根城というより、人の作った建造物そのものだ。
天草は周囲を見回すが、そこでふと違和感を感じた。
通路上部に設置された、明かり取りの細い窓。床や壁面に記された案内表示。
そのどれもが記憶を刺激し、一つの答えにたどり着いた。
そう、ここは高千穂研の……あの壁の中だ。
「……!!!」
思わず胸がどきりとする。
でも、なぜ? なぜそれがこんな阿蘇の只中にあるのか。
瞬間的に震えが来て、両腕で己の体を抱きかかえた。
抑えようとしても、体の芯から恐怖が湧き上がってくる。
周囲の景色がぐんにゃりと歪み、当時の記憶が思い出された。
響き渡る人々の悲鳴、血しぶきの舞う地獄の光景。
逃げて走って、ようやくたどり着いた白壁の前で、自分は必死に泣き叫んだ。
周囲の人々も泣き喚いていた。
そして人々の顔が天草の方に向いた時、彼らは言った。
お前の親父が閉めているのだと。
(……違う……私は違うんだ……!)
天草はぎゅっと胸元で手を握る。
……怖い。消えてなくなりたい。
でも私は違うんだ。今逃げたら、私はあの人と同じになってしまう。
外で戦っている仲間達のためにも、自分がくじけるわけにはいかない……!
天草はぶんぶん顔を振ると、自らの頬をばん、と叩いた。
それから立ち上がって壁に手を沿え、一歩ずつ歩みを進める。
(大丈夫、道は知ってる……!)
高千穂研を取り囲む分厚い壁は、ある種のダムのように、上部に複数の通路が内包されていた。そしてそれらは、最終的にコントロールルームへ続いている。
(人質は多分、コントロールルームね……)
そこまで敵に見つからずに進めるだろうか。
祈るような思いで歩む天草だったが、そう都合よく事は運ばなかった。
曲がり角の向こうから、重い足音が近づいてきたのだ。
天草は咄嗟に身を隠そうとし、傍らの扉に目を留めた。整備用の補助通路の入り口である。
天草はコックに手をかけたが、扉が曲がっているのか、うまく開いてくれないのだ。
足音の主は通路を曲がり、とうとう姿を現した。
「お、鬼……?」
それはまるで、お伽話の鬼そのものだった。
一人は金棒をかついだ、巨体でがっちりした姿。
もう一人は黒髪を長く伸ばした、童子のような外見であるが、小柄な見た目にもよらず、巨大な斧をたずさえている。
鬼達は天草を見つけると、特に緊張感のない会話を始める。
「なんじゃこりゃ、大人も紛れこんどるんかい」
大柄な鬼が耳をほじりながら言うと、小柄な鬼が頷いた。
「熊襲ども、適当にさらってきたんじゃろ。偉そうにしとる割に仕事が粗いわ」
小柄な鬼はそう言って、天草の方に歩みだす。
「まあええ、捕まえてあいつらに見せれば、少しはわしらの顔も立つじゃろ」
「……くっ!」
天草は後ずさりながら拳銃を構える。
「止まりなさい!」
だが鬼は止まらない。
数瞬の後、天草は発砲するが、弾は鬼の頬に当たり、弾かれて壁に跳ねた。
天草は尚も射撃するが、属性添加された弾丸は、相手に傷一つ付ける事も出来ない。
「わしらは鬼神族ぞ。そんな豆鉄砲が効くものか」
小柄な鬼はあくびをしながら言うと、片手を前に差し出した。
「ほれ、ケガしとうなかったら、大人しゅう捕まれ」
「……随分親切なお子様ね」
「子供はないじゃろ。この紫蓮、1000年以上生きとるんじゃぞ。見た目がこうなのは業じゃ」
「あら、年上だった? それは失礼……」
天草は冷たい汗を感じながら、再び銃の狙いを定める。
もう一度、鬼があくびした時、天草の銃が火を噴いた。
「……別に鉛玉喰う趣味はないがの」
小柄な鬼はそう言って、何かを噛み砕くように口を動かす。
やがて吐き出された弾が床を転がる。
弾は滅茶苦茶に潰れていたが、血の一滴も付着していない。
「……っ!」
天草は戦慄した。
弱点どうこうの話じゃない。
口の中だろうが眼球だろうが、細胞の一つ一つが普通の生き物ではないのだ。
完全に神話の世界の化け物であり、倒すには人型重機のような大型兵器が必要だろう。
「……ま、抵抗したからの。それなりに痛い目はみてもらうか」
小柄な鬼の目に、人ならぬ光が宿った。
斧を握る手に、物凄い力が込められるのを感じ取り、天草は本能的に身を硬くした。
だが次の瞬間、唐突に横の扉が吹き飛んだのだ。
粉塵から現れ出たのは、長い黒髪を結んだ長身の女性、鳳。
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