新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART5 ~傷だらけの女神~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第五章その1 ~ほんとに勝ったの?~ 半信半疑の事後処理編

胴上げは割と怖い

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「……………………」

 操縦席コクピットに座ったまま、誠はしばし呆然としていた。

 激しい戦いの余韻か、それとも蓄積した脳疲労のせいなのか。いくら考えようとしても、何も頭が働かない。

 あの無敵の魔王と対峙し、死に物狂いで戦って……勝った?

 確かに魔王の姿は消えたが、それが本当に勝利を意味するのか、誠はにわかに判断がつかなかった。

 それでもこのまま座っているわけにはいかない。

 震える指でパネルを操作し、操縦席コクピット隔壁ハッチを開く。

 幾重にもロックされた頑丈なハッチが開くと、光が一気に差し込んできた。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 眩しい!

 強い光が瞼を刺したが、同時に何かの衝撃が誠の全身を叩いた。

 これは……音か。それも人の声だ、歓声だ。

 身の丈100メートルを超える巨大な人型重機・震天を取り囲むように、無数の人々が集まっているのだ。

 主に戦闘服を着た若年兵達である。

 彼らが飛び跳ね、手を振る度に、地鳴りのような衝撃が湧き起こる。

 すぐに救護の兵が大型のエア・バイクに乗って来てくれたが、彼らも話が通じない状態だった。

 ただわけも分からず泣き笑いのような顔を浮かべ、誠をバンバン叩くだけだ。

 怪我を治しに来たのかトドメをさしに来たのか分からないが、ともかく誠は地上へと連れ去られる。

 地に足が着いた瞬間、とんでもない数の人々が殺到してきた。

「うっ、うわああっ!!?」

 悲鳴を上げる誠だったが、彼らはお構いなしに抱きつき、飛びつき、ウエスタンラリアートをかましてくる。

 そのままもみくちゃにされて胴上げされ、担ぎ上げられたかと思うと、高速でいったりきたりを繰り返す。岸和田祭りのだんじりとか、道後の喧嘩神輿に乗ったなら、多分こんな感じなのだろう。

 おめでとう、ありがとうの叫びと共にクラッカーが鳴らされ、信号弾が打ち上げられる。

 おひねりや食券、サービス券まで飛んできて、もう何がなんだか分からなかったが、ふとその暴走がスピードを緩めた。

「……?????」

 誠はやんわりと地上に降ろされ、担ぎ手達が離れていく。

 手刀しゅとうで海を割ったように、左右にわかれていく人々……その向こうに目を凝らすと、1人の少女が走ってくる。

 空色の着物と、時代錯誤な鎧姿。長く伸びた黒髪をポニーテールのように結び、白いハチマキが勇ましい。

 名を大祝おおほうり鶴姫つるひめというこの少女こそ、500年前に活躍した水軍の姫君であり、八百万やおよろずの神がつかわした神人しんじん……つまり救国の聖女なのである。

「黒鷹あああっ、やったわ黒鷹あああっ!!!」

 鶴はスピードを1ミリも緩めず、そのままの勢いで抱きついたので、誠はもんどりうって転倒した。

「ぐはっ!? ちょ、ちょっとヒメ子、待ってくれ!」

 上体を起こす誠だったが、鶴は喜びのままに叫び続けている。

「やったわ黒鷹、ナイスガッツよ! さすがは鶴ちゃんの見込んだ人だわ!」

 そこで鶴の肩に、小さな生き物が飛び乗った。

 たてがみの生えた子犬のようなそれは、鶴の相棒たる狛犬のコマである。

「やり過ぎだよ鶴! でもほんとに良かった! 僕も嬉しいよ!」

 普段はツッコミ役のコマも、今ははしゃぎまくっている。

「……ま、まあそりゃあ、テンションも上がるか……」

 がくがく揺らされながらも納得する誠だったが、そこで更に多数の生き物が駆け寄ってくる。

 コマと同じぐらいの大きさのキツネ、猿、そして牛。

 眼帯アイパッチを付けたワイルドそうな狛犬もいたし、彼らの何倍も大きくて筋肉ムキムキの龍もいる。

 それぞれ稲荷神社、日吉神社、天満宮、八幡宮、龍神社の神使しんし達であった。

「とうとうやりましたね、モウ感動です!」

 牛が手足をばたつかせて飛びつくと、キツネも負けじと誠の頭に飛び乗る。

「まあまあやな、ほんとにまあまあやったで! ワイらに比べたら全然やけど、唐変木とうへんぼくなりにようやったな!」

「そ、それはどうも……」

 誠は恐縮するが、他の神使も口々に好き勝手な事を言ってくる。

 人間界を守りに来た彼らは、誠にだけは厳しい態度だったのだが、今は普段より優しいじゃれつき具合である。

 誠はそこでようやく身を起こした。

「そ、それより他のみんなは……? 志布志隊とか、関東のみんなも……」

「それは平気よ。みんな手当てを受けてるわ」

「そっか……良かった」

 鶴の答えに安堵する誠だったが、次の瞬間、再び猛烈な衝撃を感じた。

「ぐはっ!!?」

 誰かが凄い力でタックルして来たのだ。

 赤く長いものが目の前にちらつき、天地がめちゃくちゃに回転する。

 気が付くと、1人の少女が誠の上に馬乗りになっていた。

「バカ、バカっ! ほんとに心配させてんじゃないわよっ!」

 上に乗った少女は、そう言って潤んだ目で誠を見つめた。

 大人びた顔立ちで、ややウェーブのかかった赤い髪。人ならぬ素性を示すように、頭から2本の角が伸びている。

 鬼神族の末裔たる彼女は、名を望月もちづきカノンといい、誠の前世・戦国時代からの付き合いなのだ。今は洋上の船にいるはずだったが……

「カ、カノン。泳いできたのか……?」

「そうよ、泳いだのよ! 500年ぶりだから、泳ぎ方も忘れてたわ!」

 普段は意地っ張りな彼女も、今は優しい顔で涙を流している。

 その顔を見ていると、ようやく誠にも勝利の実感が湧いてきた。

 終わった。何もかも終わったんだ。

 魔王に勝利し、打ち倒した事で、あの10年に及ぶ絶望の時が幕を閉じたのだ。

 今になって疲労が吹き出し、誠は眩暈を覚えたが、そこで神使のキツネが叫んだ。

「よーし、ほんなら永津様に勝利のご報告や!」

「そうねコンちゃん、この勢いで行きましょう!」

 鶴も立ち上がり、燃える瞳で拳を握った。

「隙を見てうんと話を盛ってやるわ! うまくいけば、沢山ご褒美をもらえるかもしれないわよ!」

 神使達はおお、と喜ぶと、誠を掴んで宙に浮いた。

「風呂に放り込んで清めるで! それから永津様に報告や!」

 誠はそのままぶら下げられ、歓声を上げる若者達の上を運ばれていく。

「あっ、ちょっとおい、速いって! 怖いし!」

 悲鳴を上げる誠だったが、誰も話を聞いてくれないのだ。
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