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第五章その2 ~おめでとう!~ やっと勝利のお祝い編

最愛の人の『お帰りなさい』……頑張ってよかった…!

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「おっ、お帰りなさいっ、鳴瀬くんっ!」

 玄関の引き戸を開けた途端、鶉谷雪菜うずらたにゆきなが走ってきた。

 歳は誠より7つ上の24歳。金の髪を長く伸ばし、グラマーで目のやり場に困る体を、白いセーターで包んでいる。

 かつて伝説の人型重機部隊・神武勲章レジェンド隊に席を置き、命がけで多くの人を守った彼女は、今は誠たち高縄半島守備隊の指揮官なのである。

 純粋な日本人なのに髪色が金なのは、ディアヌスと対峙し、強い邪気をまともに浴びた後遺症だった。

 実は誠もそうなるかと覚悟したのだったが、女神がくれた太刀のおかげか、同じようにはならなかったのだ。

「待ってたのよ、のわっと!?」

 雪菜は玄関マットを踏んで転びかけたが、気合いで体勢を立て直した。

「……よ、良かった鳴瀬くん、元気になって。あの後すぐ眠っちゃったし、おめでとうも言えなかったから……!」

 雪菜は誠の肩に両手を置き、ぐぐぐ、と頭を下げる。

 それから感極まったように顔を上げた。目にはきらきら眩しい涙が光っている。

「……立派だった……よく頑張ったわ。ほんっとうに、お疲れ様……!」

 世のため人のために恐ろしい魔王と戦い、生きて帰ったら、最愛の人にこの言葉で迎えられる。

 およそ男に生まれて、最も報われる瞬間であろう。

 命の全部を磨り減らすような戦いだったけど、頑張ってよかった。心からそう思えたのだ。

「い、いえ、それほどでも……」

 誠が全身とろけそうになっていると、雪菜の後ろから、もう一人の女性が遠慮がちに顔を出した。

 同じく元・神武勲章レジェンド隊のメンバーであり、『鎮西ちんぜいのジャンヌダルク』の異名を持つ天草瞳あまくさひとみ氏である。

「……お久しぶり、誠くん」

 彼女は少し頬を赤らめ、照れ臭そうにあらぬ方を見て言った。

 紺のタートルネックを着て、下半身はぴったりした白いジーンズ。

 跳ねて元気のいい黒髪は、今日は後ろで一つに結わえられていた。

 ちょっと男っぽい眉の彼女には良く似合う装いだったが、プロポーションは雪菜に負けず劣らずであり、そのアンバランスさが大変けしからん感じであった。

「……他の神武勲章レジェンド隊のみんなは、戦後処理があるから無理だって。先に奪還してた、四国と九州のあたし達だけが来れたってわけ」

 天草はそわそわ目線を動かし、服の裾をぎゅっと握ったまま続ける。

「……ま、まあ、お邪魔かも知れなかったけどね」

「そんな事ないですよ、逢えて嬉しいです。今思えば、九州結構楽しかったですし」

「ほんと? 嬉しい。またぜひ遊びに来てね」

 誠が言うと、天草はようやく安堵の笑顔を見せた。

「さっきから、まあ雪菜がうるさくってね。あの土壇場で、誠くんが魔王に鶉谷うずらたにスペシャルを決めた、って興奮しちゃって」

「だってそれは、師匠として燃えるでしょう?」

 2人は同い歳なので、じゃれ合う様も楽しそうだ。

「うんうん、これぞ和気藹々わきあいあいね。あきわいわいだったかしら?」

 鶴は満足げに頷くと、家の中へと入っていく。

「なっちゃんと池ちゃんはまだかしら」

 そこで鳳が台所から顔を覗かせた。

「それが姫様、一応お呼びしたのですが、池谷中佐は残念ながら来られないそうです。夏木中佐は来られましたが、すぐ戻らなければならないそうで。浜に行ってから帰るそうです」

「なんで浜なの?」

「さあ……岩凪姫様がそちらだとお伝えしたら、挨拶したいとの事で」

「物好きねえ、怒られるのが好きなのかしら」

 鶴は腕組みして思案したが、すぐに刹鬼姫の手を引き、さっさと家に招き入れた。

「まあいいわ、鬼―ズオニーズも来てくれたから、みんなで楽しみましょう」

 九州で鬼とひと悶着あった天草は面食らっていたが、「鶴ちゃんなら、鬼とだって友達になるわよね」と苦笑している。
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