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第五章その6 ~やっと平和になったのに!~ 不穏分子・自由の翼編

欲しければ、我を宿せ

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(そうだ、殺らなきゃやられる……!)

 不是は立ち上がり、血走った目で周囲を見回す。

 武器に出来そうなものは何もなかった。

 水道は蛇口の金具すら無い、壁のボタンを押すタイプだったし、首吊り防止のため、カーテンは決して破れぬ繊維だった。

 それでも諦められず、闇雲に扉を叩いた。

「ちくしょうっ、ちくしょう開けやがれっっっ!!!」

 やがて騒ぎを聞きつけたのか、刑務官が駆けつけてきた。

 数人が一塊となって部屋に踏み込み、一斉にのしかかって制圧してくる。

「594番、静かにしろ!」

 そんな言葉が聞こえたが、頭で理解していなかった。

 暴れろ、振り払え! じゃなきゃ殺される!

 そんな本能の叫びが木霊し、死に物狂いでもがき続ける。

 しかしそれも束の間、焼けつくような衝撃が走った。スタンガンだ。

 ドラマのように気絶こそしないが、痛みで身動きが取れなくなる。

 動けない……抵抗できない。それは自らの力しか信じぬ不是にとって、死を意味する事態である。

 だがその時、ふと目の前に、外れ落ちたペンダントが見えた。

 特注で作らせたメタルクロムのペンダントは、松ぼっくりをかたどったもの。

 それを目にした時、折れかけた心にどす黒い炎が燃え上がった。

(駄目だっ、まだ諦めねえっ!!! 俺は生きる、生きて助かる!!! こいつら全員ブッ殺してやる!!!)

 しびれる体に鞭打ち、不是は必死に叫んでいた。

 何を言ったのかは覚えていない。ただただ肺の底から、全身から音を搾り出す。

 …………そして次の瞬間だった。

 妙な光が脳裏に見えた。

 暗闇に浮かぶ、どす黒い炎である。

 炎は激しく渦巻きながら、やがてこちらに語りかけてきたのだ。

『…………欲しければ、我を宿せ……!』

 純粋な欲望のみを煮しめたような、至極簡潔な言葉である。

 そして不是の答えも待たず、炎はこちらに押し寄せたのだ。

「~~~っっっ!!!??」

 次の瞬間、抑えていた刑務官どもは吹き飛び、黒焦げの塊になって蒸気を上げていた。

 独房はあちこち炎に包まれ、頭上の天井は吹き飛んでいた。

「……………………」

 不是はゆっくり立ち上がると、独房の外へ歩み出た。

 周囲は既に焼け野原で、瓦礫の山が広がっている。

 まるで巨大な爆弾が落ち、自らの独房だけが、奇跡的に被害を免れたようにだ。

 あたかも

 かつて独房を囲んでいた壁は、不是が部屋の外に出るなり、砂団子のようにもろく崩れ去った。

「………っ!」

 独りでに笑みがこぼれて来た。

 不是は右手を掲げ、凄まじい力で握り締める。

 青紫の雷が、手の表面に駆け巡り、激しい火花が舞い散った。

 直感で確信した。

(分かる、無敵だ。俺は生まれ変わったんだ)

(もう誰にも負けない。もう何におびえる事も無い)

(俺が全てだ、俺がこの世界の新しい支配者だ……!)

 そんな考えが次々浮かんでくる。

 気付けば大声で笑っていた。

 さあ始めよう。クソったれな支配者どもを引き摺り下ろして、俺が新しい神になるんだ。

 だがその前に、落とし前は付けさせてもらう。

 あいつとあの鎧の娘、そしてあの岩凪とかいうでかい女だ。

 あいつらを血祭りに上げる事が、自分が神となる世界の門出なのだ。
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