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第五章その6 ~やっと平和になったのに!~ 不穏分子・自由の翼編
鬼じゃなく女神なのだが
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「あっ、ああああ、あああああっ……!」
岩凪姫は真っ赤になって固まった。
「ほっ、本当に居るではないか! あやつなぜここに……あいたっ!?」
咄嗟に空間転移しようとしたが、光の障壁が出て防がれてしまう。
頭を押さえる岩凪姫に、佐久夜姫はジト目で言う。
「はいはい、逃げちゃだめ。貴重な人材なんだから、ちゃんと味方に引き入れてね」
佐久夜姫はぐいぐいこちらの背中を押して、無理やり車外に押し出した。
そのまま車のドアを閉め、ガチャリとカギをかけてしまう。
「い、妹めっ……!」
岩凪姫はドアにすがりついたが、車両そのものに光の結界がはられていて入る事が出来ない。
「鬼かっ……! い、いや、鬼じゃなく女神なのだが……」
焦るこちらを見つけ、夏木は真っ直ぐ近付いて来た。
(どうしよう……一体どうすればいいのだっ……!?)
身を硬くする岩凪姫。
夏木はしばし立ち尽くし、それから遠慮がちに声をかける。
「あ、あの……岩凪監察官」
「うっ……!」
岩凪姫はなんとか振り返り、取り繕って腕組みした。そのまま赤い顔で尋ねる。
「おっおう、夏木か、どどどどどうしたっ、ななぜ何故ここにいる……?」
「元自衛隊の仲間から連絡を受けて……そいつは、佐久夜さんていう不思議な人に指示を受けたと言ってましたが」
「い、いいい、妹めぇっ……! 重ね重ね極悪非道なっ……!」
岩凪姫の憤慨をよそに、夏木は勢い良く頭を下げる。
「あのっ、先日はすみませんでしたっ!!」
「えっ……?」
「自分はあなたとご一緒出来て、正直舞い上がっていました。無器用な物言いで、不愉快な思いをされたと思います。どうかお許し下さい」
「い、いや、別に不愉快とかでは……ないのだが」
返事に困る岩凪姫をよそに、夏木はようやく顔を上げた。
その眼差しは真剣そのもの、既に戦う男の顔である。
「部隊が動かせず、お困りと聞きました。何か協力させて下さい!」
夏木は胸に手をあて、尚も懸命に語りかける。
「浮ついた気持ちではありません。あなたの、そして困っている人の力になりたいんです……! 自分は旧自衛隊の出ですから、昔馴染みのコネがあります。指揮系統が崩れていても、動いてくれる仲間がいますから……!」
願っても無い申し出だったが、それが後々、彼にどのような不利益をもたらすかは明白である。
独断専行、命令無視。
細胞を欲する支配者層に目を付けられれば、彼は破滅してしまうだろう。
「だ、駄目だ、お前にそのような犠牲は……」
だがそこまで言いかけた時、夏木は強い口調で遮った。
「お願いです、何かさせて下さいっ!!!」
「ひっ!?」
「あなただけじゃ駄目なんです! あなた1人が犠牲になっても、教え子達は悲しむでしょう? だから、だから僕にも手伝わせて下さいっ!」
「……………………」
女神は言葉を失っていた。
紛う事無き本物の勇気。
人々を守ろうとする、真っ直ぐで尊い情熱。
これを否定する神など、世界中どこを探してもいないだろう。
岩凪姫は視線を外し、戸惑いながらも言葉を返した。
「……わ、分かった夏木……そなたに任せよう……」
夏木は弾けるように敬礼する。
「ありがとうございますっ! それでは早速……!」
彼はすぐに野営陣地のテントに駆け込むと、真剣な顔でやりとりを始める。
待機していた黒鷹達の隊の面々も、そしてテント内にいた兵達も、皆が夏木の意見に耳を傾けていた。
経験豊富なベテランたる旧自衛隊の人員は、若者達にとって、いつも良き導き手なのだ。
「すまぬ夏木……頼んだぞ……!」
岩凪姫が呟くと、傍らに佐久夜姫が現れる。
何か言いたげな雰囲気だったので、言われる前に口を開く。
「ええい妹よっ、この岩凪姫を舐めるなよっ! 私だってやる時はやるのだっ!」
「その意気よ。それでこそ私のお姉ちゃんだわ」
佐久夜姫はそう言って微笑んだのだ。
岩凪姫は真っ赤になって固まった。
「ほっ、本当に居るではないか! あやつなぜここに……あいたっ!?」
咄嗟に空間転移しようとしたが、光の障壁が出て防がれてしまう。
頭を押さえる岩凪姫に、佐久夜姫はジト目で言う。
「はいはい、逃げちゃだめ。貴重な人材なんだから、ちゃんと味方に引き入れてね」
佐久夜姫はぐいぐいこちらの背中を押して、無理やり車外に押し出した。
そのまま車のドアを閉め、ガチャリとカギをかけてしまう。
「い、妹めっ……!」
岩凪姫はドアにすがりついたが、車両そのものに光の結界がはられていて入る事が出来ない。
「鬼かっ……! い、いや、鬼じゃなく女神なのだが……」
焦るこちらを見つけ、夏木は真っ直ぐ近付いて来た。
(どうしよう……一体どうすればいいのだっ……!?)
身を硬くする岩凪姫。
夏木はしばし立ち尽くし、それから遠慮がちに声をかける。
「あ、あの……岩凪監察官」
「うっ……!」
岩凪姫はなんとか振り返り、取り繕って腕組みした。そのまま赤い顔で尋ねる。
「おっおう、夏木か、どどどどどうしたっ、ななぜ何故ここにいる……?」
「元自衛隊の仲間から連絡を受けて……そいつは、佐久夜さんていう不思議な人に指示を受けたと言ってましたが」
「い、いいい、妹めぇっ……! 重ね重ね極悪非道なっ……!」
岩凪姫の憤慨をよそに、夏木は勢い良く頭を下げる。
「あのっ、先日はすみませんでしたっ!!」
「えっ……?」
「自分はあなたとご一緒出来て、正直舞い上がっていました。無器用な物言いで、不愉快な思いをされたと思います。どうかお許し下さい」
「い、いや、別に不愉快とかでは……ないのだが」
返事に困る岩凪姫をよそに、夏木はようやく顔を上げた。
その眼差しは真剣そのもの、既に戦う男の顔である。
「部隊が動かせず、お困りと聞きました。何か協力させて下さい!」
夏木は胸に手をあて、尚も懸命に語りかける。
「浮ついた気持ちではありません。あなたの、そして困っている人の力になりたいんです……! 自分は旧自衛隊の出ですから、昔馴染みのコネがあります。指揮系統が崩れていても、動いてくれる仲間がいますから……!」
願っても無い申し出だったが、それが後々、彼にどのような不利益をもたらすかは明白である。
独断専行、命令無視。
細胞を欲する支配者層に目を付けられれば、彼は破滅してしまうだろう。
「だ、駄目だ、お前にそのような犠牲は……」
だがそこまで言いかけた時、夏木は強い口調で遮った。
「お願いです、何かさせて下さいっ!!!」
「ひっ!?」
「あなただけじゃ駄目なんです! あなた1人が犠牲になっても、教え子達は悲しむでしょう? だから、だから僕にも手伝わせて下さいっ!」
「……………………」
女神は言葉を失っていた。
紛う事無き本物の勇気。
人々を守ろうとする、真っ直ぐで尊い情熱。
これを否定する神など、世界中どこを探してもいないだろう。
岩凪姫は視線を外し、戸惑いながらも言葉を返した。
「……わ、分かった夏木……そなたに任せよう……」
夏木は弾けるように敬礼する。
「ありがとうございますっ! それでは早速……!」
彼はすぐに野営陣地のテントに駆け込むと、真剣な顔でやりとりを始める。
待機していた黒鷹達の隊の面々も、そしてテント内にいた兵達も、皆が夏木の意見に耳を傾けていた。
経験豊富なベテランたる旧自衛隊の人員は、若者達にとって、いつも良き導き手なのだ。
「すまぬ夏木……頼んだぞ……!」
岩凪姫が呟くと、傍らに佐久夜姫が現れる。
何か言いたげな雰囲気だったので、言われる前に口を開く。
「ええい妹よっ、この岩凪姫を舐めるなよっ! 私だってやる時はやるのだっ!」
「その意気よ。それでこそ私のお姉ちゃんだわ」
佐久夜姫はそう言って微笑んだのだ。
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