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第五章その7 ~その柱待った!~ 魔族のスパイ撃退編
ガンパチの暴露
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その場に踏み込むと同時に、誠は状況を把握した。
以前連れて来られた東国本部の広間だったが、今この場にいるのはかなり少人数である。
奥にはあの青い長髪の女性・台がおり、更にその後ろには、全神連・西国本部の最高顧問たる幼子が。つまり大和くんと五十鈴ちゃんが座っていた。
2人のすぐ傍には巨大な椅子があり、そこに闘神・永津彦の姿もある。
虚空には映像が映し出され、件の巨大な柱に加え、付近に屯す御柱方が見えた。
「良かった、何とか間に合った……!」
誠が呟くとほぼ同時に、台が怒声を上げてこちらを睨んだ。
「何用か、この無礼者めっ!」
今は怒りで目を見開き、青い長髪が、霊力を帯びて舞い上がっている。前回とは威圧感がまるで違うが、そんな事は今どうでもいい。
「そもそもどうやってここに? 懲罰方も、その他の警邏もいたはずでは」
台はそこでこめかみに手をやった。
後で知ったのだが、館に設置された監視用の宝玉に同期し、状況を確認していたらしい。
折り重なり、目を回している警邏の者が見えただろうし、彼らの背に、小さな足跡がついているのも分かったはずだ。
台は驚愕の表情で呟いた。
「背の足跡……!? これはまさか……!」
「そうや、ワイらやで!」
そこで誠が出てきた魔法陣が輝き、神使達が飛び出した。
子犬サイズのキツネ、狛犬、牛、猿。そして彼らより数倍大きい、筋肉質でずんぐりした龍である。
キツネは着地しながら誠に叫んだ。
「とうへんぼく、今は味方したるけど、あとでたっぷりおしおきやで! 別にワイらをさし置いて、竜宮に行った事を怒ってるんやないからな!」
「いや、ドンピシャで私怨だろっ!」
ツッコミを入れる誠をよそに、台は狼狽した様子で神使達を見渡す。
「あ、あなた達は神の使い。なのに全神連の私より、そんな輩に味方するのですか……!?」
そこで眼帯を付けた狛犬・ガンパチが、誠の頭に飛び乗って答えた。
「いいや、台様は立派なお方じゃい。時々ワシの肉球を触らせろと迫る以外はな」
「ううっ……!」
台は一瞬たじろいだ。
「そっ、それは……言わない約束でしょうにっ……!」
「ともかくそんな立派な台様と、このとうへんぼくのどっちを信じるかなんぞ言うまでもないんじゃ。けどな」
ガンパチは真っ直ぐに台を見据えて言った。
「台様は外には出られん。何かを見るにも、他の奴らの目を通してじゃ。じゃがこいつは直に見とるし、だからこそ気付く事もあるんじゃい!」
そこで牛とキツネも、誠の左右の肩に飛び乗ってきた。
「天神様は、広く真理を愛するお方。こウシて集まったのも何かの縁、まずは彼の話を聞きましょう!」
「せや、こいつはトウヘンボクやけど、稲荷大明神様が目をかけとる奴なんやで!」
更に誠の前に、猿と龍がさっと飛び出た。
「柱の杭打ちは、厄除け鎮守の大事な行事。厄除けで名高い日吉大神様の神使として、あっしも見逃せないんでさあ!」
サルはそこで隣の龍をちらちら見る。龍は筋肉ポーズをとるのに夢中になっていたからだ。
「ええと、辰之助さんは何か言わないんで?」
「俺は竜神様のお使いだ。気合いのあるヤツを応援するのが使命なんでな!」
龍は次々ポーズを変えながら言った。
「それが救国の志なら尚更だ! 昇り竜のごとき開運パワーで、ただひたすら後押しするのみっ!」
龍の言葉に、誠は思わず反応してしまう。
「開運か。それがほんとなら有難いけど……」
台は信じられないといった表情で、神使達を眺めた。
「あ、あなた達っ……よくもそんな事を……!」
だがそんな台に、大和くんや五十鈴ちゃんまでもが追いうちをかける。
「台ちゃん、その人の話を聞いてほしいのです!」
「そうですわ、聞いてほしいのですの!」
「し、しかし……」
全神連でもかなり身分が高い2人に、さすがの台も返しに詰まるが、そこで永津彦がトドメをさした。
「……構わぬ台、聞いてやれ」
低く唸るような永津彦の言葉に、流石の台も観念したようだ。
3人に頭を下げると、誠の方に向き直った。
「……仕方がありません。して不躾な輩よ、何故この場に来た」
「はい、単調直入に申し上げます。その封印、検めさせていただきたい」
「理由は」
「魔が細工してる可能性が高いためです」
「魔の工作だと!? 馬鹿を申すな! 我らは万全の守りを敷いてきた。特に御柱方は、この千年ほぼ外と接触していないのだ!」
「言葉は無意味、押し問答です」
予想していた反応に、誠は台との会話を打ち切る。
それから虚空の映像を見据えた。
「御柱方の皆さんにお願いがあります。どうかそこを出て、神雷の所に行っていただきたい」
今まで凍りついたように状況をうかがっていた御柱方だったが、やがて先頭の1人が大映しにされた。
歳は50代くらいだろうか。
一見人柄の良さそうな人相であるが、特徴の無い……本当に目立たない人物だった。儀式用の正装を着ていなければ、どこにでもいる中年男性としか思えなかっただろう。
「全神連・御柱方の頭目・有待と申します……」
男は静かにそう言って、画面上で誠を睨む。
「神雷に近づけとの事ですが……何故でしょうか」
「言葉は押し問答、さっき言った通りです。やましい所が無いなら行けるはず」
誠は男を観察しながら告げる。
「先ほど館が揺れ動いたのはご存知でしょう。あれは転移の魔法陣をいじり、御柱方の1人を神雷の階に送ったのです。もちろん他の全神連も試しに送りましたが……結果は予想通り。御柱方の人間のみに、神雷が反応したのです。まるで魔族がいたかのように」
以前連れて来られた東国本部の広間だったが、今この場にいるのはかなり少人数である。
奥にはあの青い長髪の女性・台がおり、更にその後ろには、全神連・西国本部の最高顧問たる幼子が。つまり大和くんと五十鈴ちゃんが座っていた。
2人のすぐ傍には巨大な椅子があり、そこに闘神・永津彦の姿もある。
虚空には映像が映し出され、件の巨大な柱に加え、付近に屯す御柱方が見えた。
「良かった、何とか間に合った……!」
誠が呟くとほぼ同時に、台が怒声を上げてこちらを睨んだ。
「何用か、この無礼者めっ!」
今は怒りで目を見開き、青い長髪が、霊力を帯びて舞い上がっている。前回とは威圧感がまるで違うが、そんな事は今どうでもいい。
「そもそもどうやってここに? 懲罰方も、その他の警邏もいたはずでは」
台はそこでこめかみに手をやった。
後で知ったのだが、館に設置された監視用の宝玉に同期し、状況を確認していたらしい。
折り重なり、目を回している警邏の者が見えただろうし、彼らの背に、小さな足跡がついているのも分かったはずだ。
台は驚愕の表情で呟いた。
「背の足跡……!? これはまさか……!」
「そうや、ワイらやで!」
そこで誠が出てきた魔法陣が輝き、神使達が飛び出した。
子犬サイズのキツネ、狛犬、牛、猿。そして彼らより数倍大きい、筋肉質でずんぐりした龍である。
キツネは着地しながら誠に叫んだ。
「とうへんぼく、今は味方したるけど、あとでたっぷりおしおきやで! 別にワイらをさし置いて、竜宮に行った事を怒ってるんやないからな!」
「いや、ドンピシャで私怨だろっ!」
ツッコミを入れる誠をよそに、台は狼狽した様子で神使達を見渡す。
「あ、あなた達は神の使い。なのに全神連の私より、そんな輩に味方するのですか……!?」
そこで眼帯を付けた狛犬・ガンパチが、誠の頭に飛び乗って答えた。
「いいや、台様は立派なお方じゃい。時々ワシの肉球を触らせろと迫る以外はな」
「ううっ……!」
台は一瞬たじろいだ。
「そっ、それは……言わない約束でしょうにっ……!」
「ともかくそんな立派な台様と、このとうへんぼくのどっちを信じるかなんぞ言うまでもないんじゃ。けどな」
ガンパチは真っ直ぐに台を見据えて言った。
「台様は外には出られん。何かを見るにも、他の奴らの目を通してじゃ。じゃがこいつは直に見とるし、だからこそ気付く事もあるんじゃい!」
そこで牛とキツネも、誠の左右の肩に飛び乗ってきた。
「天神様は、広く真理を愛するお方。こウシて集まったのも何かの縁、まずは彼の話を聞きましょう!」
「せや、こいつはトウヘンボクやけど、稲荷大明神様が目をかけとる奴なんやで!」
更に誠の前に、猿と龍がさっと飛び出た。
「柱の杭打ちは、厄除け鎮守の大事な行事。厄除けで名高い日吉大神様の神使として、あっしも見逃せないんでさあ!」
サルはそこで隣の龍をちらちら見る。龍は筋肉ポーズをとるのに夢中になっていたからだ。
「ええと、辰之助さんは何か言わないんで?」
「俺は竜神様のお使いだ。気合いのあるヤツを応援するのが使命なんでな!」
龍は次々ポーズを変えながら言った。
「それが救国の志なら尚更だ! 昇り竜のごとき開運パワーで、ただひたすら後押しするのみっ!」
龍の言葉に、誠は思わず反応してしまう。
「開運か。それがほんとなら有難いけど……」
台は信じられないといった表情で、神使達を眺めた。
「あ、あなた達っ……よくもそんな事を……!」
だがそんな台に、大和くんや五十鈴ちゃんまでもが追いうちをかける。
「台ちゃん、その人の話を聞いてほしいのです!」
「そうですわ、聞いてほしいのですの!」
「し、しかし……」
全神連でもかなり身分が高い2人に、さすがの台も返しに詰まるが、そこで永津彦がトドメをさした。
「……構わぬ台、聞いてやれ」
低く唸るような永津彦の言葉に、流石の台も観念したようだ。
3人に頭を下げると、誠の方に向き直った。
「……仕方がありません。して不躾な輩よ、何故この場に来た」
「はい、単調直入に申し上げます。その封印、検めさせていただきたい」
「理由は」
「魔が細工してる可能性が高いためです」
「魔の工作だと!? 馬鹿を申すな! 我らは万全の守りを敷いてきた。特に御柱方は、この千年ほぼ外と接触していないのだ!」
「言葉は無意味、押し問答です」
予想していた反応に、誠は台との会話を打ち切る。
それから虚空の映像を見据えた。
「御柱方の皆さんにお願いがあります。どうかそこを出て、神雷の所に行っていただきたい」
今まで凍りついたように状況をうかがっていた御柱方だったが、やがて先頭の1人が大映しにされた。
歳は50代くらいだろうか。
一見人柄の良さそうな人相であるが、特徴の無い……本当に目立たない人物だった。儀式用の正装を着ていなければ、どこにでもいる中年男性としか思えなかっただろう。
「全神連・御柱方の頭目・有待と申します……」
男は静かにそう言って、画面上で誠を睨む。
「神雷に近づけとの事ですが……何故でしょうか」
「言葉は押し問答、さっき言った通りです。やましい所が無いなら行けるはず」
誠は男を観察しながら告げる。
「先ほど館が揺れ動いたのはご存知でしょう。あれは転移の魔法陣をいじり、御柱方の1人を神雷の階に送ったのです。もちろん他の全神連も試しに送りましたが……結果は予想通り。御柱方の人間のみに、神雷が反応したのです。まるで魔族がいたかのように」
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