104 / 117
第五章その10 ~何としても私が!~ 岩凪姫の死闘編
神雷に何があったのか
しおりを挟む
少し時を遡り、全神連の東国本部である。
神雷の発射は最終段階に入り、言い表せない緊張が本部全体を包んでいた。
術者数十人が神雷を取り囲み、極限まで精神を研ぎ澄ませていく。
「永津様からのご指示である。邪神の出現に備え、全てのエネルギーは使うなとの事。威力を絞った発射とする」
台が告げると、術者達は無言で頷いた。
「大したもんだぜ。あの1人1人が、因幡に匹敵する式神使いなんだろ?」
ふと台の傍で高山が言った。
紺の作務衣姿でボサボサの短髪。敬語も何もあったものではないが、彼にしては真面目に話しているつもりなのだろう。
「その通りですが……体術等は修めておりませんし、咄嗟の術の速度などは、因幡殿の方が格段に上でしょう。あくまで神雷の操作のみに特化しているのです」
台はそう説明してやる。
「……とは言え、その発動は至難を極めます。追尾の軌道などは神雷が己で思考しますが、攻撃する魔物の位置などは、念のため人が確認せねばなりませんから」
「そうよねうっちゃん。式神は単純な意識しか持ってないから、こっちが教えてあげないと」
(うっ、うっちゃんだと……!? 私は300年以上生きているのに……)
因幡が気さくにニックネームで呼ぶのに耐えながら、台はなんとか頷いた。
やがてその時は訪れる。
輝く神雷が、一際強い光を放った…………そう思った瞬間、不可視の波動が押し寄せてきた。
発射直前、攻撃範囲にある全ての敵を確認する作業である。
霊気を広げて触覚の役目を果たす術であり、例えは悪いが、あの南アルプスの山中で、鳳天音が使った感知能力に近いだろう。
これで状況を確認し、最新の魔物の位置と定義を神雷に覚えさせてから発射するわけだ。
…………だがそこで異変が起こった。
神雷を囲むように座っていた術者達が、発射直前にその表情を曇らせたのだ。
「どうした、何が起きたのです!?」
台が問うのと、その映像が頭に飛び込んでくるのがほぼ同時だった。
森の中の社と、周囲に聳える幾多の柱。社の中には邪神の気が感じられる。
(これは……魔族の里!? 邪気の質から恐らく土蜘蛛。夜祖もいるのか……!)
里全体が発光して幾何学模様を発生させており、その光は中央の社へと集中していた。
(里全体が、巨大な呪具のように築かれている。あれで夜祖の思念を増幅、この本部まで届けているのか……!)
そしてとうとう、台にも見えたのだ。その里に捕らわれた、無数の人々の姿がだ。
恐らく数百人はいるだろうか。皆、目を白布で覆われ、体の半分程を青紫の細胞に覆われている。
彼らの意識ははっきりしているようで、時折苦しげに顔を歪めては声を上げていた。
混乱の当初に多数の人々が犠牲になったが、こうしてその一部が夜祖に捕われていたのである。
(迷いの原因はこれか! 魔の細胞が植えつけてある……神雷を撃てばあの者達に当たるのだ……!)
(この発射の直前で、魔とそうでないものの定義がごちゃ混ぜになる。もしそんな事になれば、神雷の制御そのものがおぼつかない……!)
世の人々を守る事を是とする全神連。その正義感が仇となり、強い迷いを生じさせていたのだ。
そこで台の脳裏に、夜祖の姿が浮かび上がった。邪神は獣のように口を引き裂き、こちらをあざ笑っている。
(全て計算ずくだったか……! こちらの動きを察し、起動に合わせて仕掛けたのか……!?)
その推測を裏付けるように、神雷は恐ろしい声で咆えた。
「まずい、すぐに止めよっっっ!!!!!」
台が叫ぶのと、神雷から無数の光が飛び出すのがほぼ同時だった。
やがて映像は、外部のそれへと切り替わった。
闇の中、天を目指した無数の雷龍。
それらは弧を描き、渦を巻くように空を舞う。
闇夜に輝くその様は、巨大な菊花のように美しく見えた。
やがて雷の龍は、次第に渦を広げ始めた。
始めはゆっくりと…………少しずつ速度を増して。
凄まじい咆哮を上げながら、周囲の地表に突進し始めたのだ。
見守る全神連の多くが、勝利を確信しただろう。
発射された雷の龍は、進撃する黄泉の軍勢を蹴散らし、人々を守ってくれる……そう信じていたのである。
だが現実は異なっていた。
雷の龍達は、黄泉の軍勢を素通りした。
唸り声を上げながら、周囲の地表に落下し始めたのだ。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
龍達は牙を剥き、建物や岩山を易々と食い破る。
それはほとんど無差別であり、人の車両も人型重機でさえも、全く例外ではなかった。
「……………………っ」
台は言葉を失っていたし、既に本部は混乱の極みに達していた。
幾多の人員が走り回り、口々に状況確認を行っている。
「なぜ神雷が暴走したのだ?」
「これも魔族の工作ではないのか!?」
そんな言葉が飛び交っている。
恐るべきは夜祖…………智謀に長けた土蜘蛛の神であった。
徹底的に情報を集め、こちらの切り札さえも逆転の一手に利用したのだ。
神雷の発射は最終段階に入り、言い表せない緊張が本部全体を包んでいた。
術者数十人が神雷を取り囲み、極限まで精神を研ぎ澄ませていく。
「永津様からのご指示である。邪神の出現に備え、全てのエネルギーは使うなとの事。威力を絞った発射とする」
台が告げると、術者達は無言で頷いた。
「大したもんだぜ。あの1人1人が、因幡に匹敵する式神使いなんだろ?」
ふと台の傍で高山が言った。
紺の作務衣姿でボサボサの短髪。敬語も何もあったものではないが、彼にしては真面目に話しているつもりなのだろう。
「その通りですが……体術等は修めておりませんし、咄嗟の術の速度などは、因幡殿の方が格段に上でしょう。あくまで神雷の操作のみに特化しているのです」
台はそう説明してやる。
「……とは言え、その発動は至難を極めます。追尾の軌道などは神雷が己で思考しますが、攻撃する魔物の位置などは、念のため人が確認せねばなりませんから」
「そうよねうっちゃん。式神は単純な意識しか持ってないから、こっちが教えてあげないと」
(うっ、うっちゃんだと……!? 私は300年以上生きているのに……)
因幡が気さくにニックネームで呼ぶのに耐えながら、台はなんとか頷いた。
やがてその時は訪れる。
輝く神雷が、一際強い光を放った…………そう思った瞬間、不可視の波動が押し寄せてきた。
発射直前、攻撃範囲にある全ての敵を確認する作業である。
霊気を広げて触覚の役目を果たす術であり、例えは悪いが、あの南アルプスの山中で、鳳天音が使った感知能力に近いだろう。
これで状況を確認し、最新の魔物の位置と定義を神雷に覚えさせてから発射するわけだ。
…………だがそこで異変が起こった。
神雷を囲むように座っていた術者達が、発射直前にその表情を曇らせたのだ。
「どうした、何が起きたのです!?」
台が問うのと、その映像が頭に飛び込んでくるのがほぼ同時だった。
森の中の社と、周囲に聳える幾多の柱。社の中には邪神の気が感じられる。
(これは……魔族の里!? 邪気の質から恐らく土蜘蛛。夜祖もいるのか……!)
里全体が発光して幾何学模様を発生させており、その光は中央の社へと集中していた。
(里全体が、巨大な呪具のように築かれている。あれで夜祖の思念を増幅、この本部まで届けているのか……!)
そしてとうとう、台にも見えたのだ。その里に捕らわれた、無数の人々の姿がだ。
恐らく数百人はいるだろうか。皆、目を白布で覆われ、体の半分程を青紫の細胞に覆われている。
彼らの意識ははっきりしているようで、時折苦しげに顔を歪めては声を上げていた。
混乱の当初に多数の人々が犠牲になったが、こうしてその一部が夜祖に捕われていたのである。
(迷いの原因はこれか! 魔の細胞が植えつけてある……神雷を撃てばあの者達に当たるのだ……!)
(この発射の直前で、魔とそうでないものの定義がごちゃ混ぜになる。もしそんな事になれば、神雷の制御そのものがおぼつかない……!)
世の人々を守る事を是とする全神連。その正義感が仇となり、強い迷いを生じさせていたのだ。
そこで台の脳裏に、夜祖の姿が浮かび上がった。邪神は獣のように口を引き裂き、こちらをあざ笑っている。
(全て計算ずくだったか……! こちらの動きを察し、起動に合わせて仕掛けたのか……!?)
その推測を裏付けるように、神雷は恐ろしい声で咆えた。
「まずい、すぐに止めよっっっ!!!!!」
台が叫ぶのと、神雷から無数の光が飛び出すのがほぼ同時だった。
やがて映像は、外部のそれへと切り替わった。
闇の中、天を目指した無数の雷龍。
それらは弧を描き、渦を巻くように空を舞う。
闇夜に輝くその様は、巨大な菊花のように美しく見えた。
やがて雷の龍は、次第に渦を広げ始めた。
始めはゆっくりと…………少しずつ速度を増して。
凄まじい咆哮を上げながら、周囲の地表に突進し始めたのだ。
見守る全神連の多くが、勝利を確信しただろう。
発射された雷の龍は、進撃する黄泉の軍勢を蹴散らし、人々を守ってくれる……そう信じていたのである。
だが現実は異なっていた。
雷の龍達は、黄泉の軍勢を素通りした。
唸り声を上げながら、周囲の地表に落下し始めたのだ。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
龍達は牙を剥き、建物や岩山を易々と食い破る。
それはほとんど無差別であり、人の車両も人型重機でさえも、全く例外ではなかった。
「……………………っ」
台は言葉を失っていたし、既に本部は混乱の極みに達していた。
幾多の人員が走り回り、口々に状況確認を行っている。
「なぜ神雷が暴走したのだ?」
「これも魔族の工作ではないのか!?」
そんな言葉が飛び交っている。
恐るべきは夜祖…………智謀に長けた土蜘蛛の神であった。
徹底的に情報を集め、こちらの切り札さえも逆転の一手に利用したのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる