新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART5 ~傷だらけの女神~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第五章その10 ~何としても私が!~ 岩凪姫の死闘編

鳳天音の神殺し1

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「待っていたぞ、この時を……!!!」

 頭上に浮かぶ天音は、あざ笑うように笑みを浮かべた。

 赤く輝く目で女神こちらを見下ろし、勝利を確信しているようだ。

「夜祖様はいずれかの神を仕留めろとおっしゃったが……必ず貴様が来ると思っていたぞ。偽りの善をひけらかし、私をもてあそんだお前がな……!」

 岩凪姫は何とか体を起こしながら、子供を後ろに押しやった。

 それから天音と会話を試みる。

「……いかに邪気の中とはいえ、仕込んだ刃に気付かぬとはな。よほど念入りに偽装したのか」

「そうでなければ当たらぬからな。だが小細工は終わりだ……! 弱り切った貴様など、最早恐れる理由が無い」

 その瞬間、天音を包む膨大な邪気が、桁外れに膨れ上がった。

 黒衣が激しくなびき、台風のような凄まじい風が吹き荒れる。

 衣服がめくれた腹の辺りに、青紫に輝く何かが見えた。不気味に脈打ち輝くそれは、間違いなく魔王ディアヌスの細胞だった。

「……ディアヌスの肉を移植したのか」

「その通り。あの偉大なる御方の欠片を宿し、私は新たな高みへ進んだ! そしてあのお方を苦しめた人間どもに、復讐すると誓ったのだ!」

「天音、私はお前に…………」

「言うな! もう絵空事には惑わされん! ここで貴様を滅ぼしてくれる!」

 そこで天音は、胸の前で手を叩き合わせた。

 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 次の瞬間、大地が激しく鳴動し、地表に光の魔法陣が現れた。直径は数百メートルに達するだろう。

 それが不気味に輝くと、地の底から無数の魔物が湧き上がってきたのだ。

 餓霊や黄泉の軍勢ではない。

 長く蠢く複数の首、翼竜のような巨大な翼。

 牙を剥き出し、天を呪うように咆え狂うそれらは、禍々しい邪竜の群れであった。

 1体1体が恐ろしく強い魔界の竜が、凄まじい数の群れとなって、空に舞い上がったのだ。

(……魔界の竜か。いかに天音と言えど、このレベルの魔物をこれだけの数召喚するのは、かなりの力を使ったはず。それでもこの手を使ったのは、神である岩凪姫じぶんを想定しているからだ)

(餓霊や黄泉の軍勢では、空を飛んで逃げられる……だからこその魔竜というわけか)

 忙しく思いを巡らせる岩凪姫に、天音は尚も言葉をかけた。

「……そうそう、転移の腕輪があるのだったな? だが聞け。久方ぶりの現世うつしよで、こやつらは血に飢えている。貴様が逃げれば、すぐ避難区に押し寄せるぞ……?」

 天音は嗜虐しぎゃくの笑みを漏らした。

「もちろん戦いが始まれば、そのわらべを真っ先に狙おう。さあどうする?」

「……分かった事を聞く奴だ」

 岩凪姫は虚空から輝く腕輪を取り出した。

 振り返り、子供の手にそれを渡すと、しゃがみ込んで頭を撫でる。

「心配いらぬ、これで帰れるよ」

 子供は泣きそうな顔でこちらを見ていたが、やがて光に包まれて消えた。

「あはっ、あははははははっ!!! やった、これで貴様が逃げおおせるすべは無い!!! ようやくだ、ようやくお前を八つ裂きにしてやれるぞ!!!」

 全てが思い通りに進んだため、天音の狂喜は最高潮に達した。

「……………………」

 岩凪姫はゆっくりと立ち上がった。

 痛む腹に手を当てて、顔を歪める。

 自分でも理解していた。

 呪詛の刃で貫かれ、この邪気の中で長時間活動した。

 そして神雷を防ぐため、多くの霊気を使い果たした。

 残る力はあと僅かだ。

「……………………これまでか」

 もしかしたら、今すぐ治療を行えば、ギリギリ助かるのかもしれない。

 恥も外聞も投げ捨て、妹の元に逃げ帰れば、治癒の魔法をかけてもらえるだろう。

 だがそこで佐久夜姫の顔が思い浮かんだ。

 彼女は泣きそうな顔で、心からこちらの無事を祈ってくれた。そして彼女は、今も懸命に柱を止めようと戦っている。

 それなのに、姉の自分が逃げ戻るわけにはいかないのだ。

「……すまぬ佐久夜。私は……戻れぬかも知れん」

 短く言うと、岩凪姫は視線を上げる。

 このまま天音を放置すれば、世に更なる災厄を振り撒くだろう。

 ならば最後の霊力ちからを振り絞り、自らの手で止めるのみだ……!
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