新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART5 ~傷だらけの女神~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第五章その10 ~何としても私が!~ 岩凪姫の死闘編

すまない天音

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(なっ、何だと!? あいつでは無い……!?)

 天音は咄嗟とっさに殲滅呪詛を解除した。

 それでも術の余波を食らい、青年のバイクはバランスを崩す。青年自身も投げ出されたし、全身を黒い邪気が波のように走った。

 直撃でないため、すぐに滅びる事は無いだろうが、もうじきちりに変わるだろう。

「……っ!」

 そこで天音は目を凝らした。

 青年の体を走った邪気の波が、不自然に乱れたのだ。

 激しく火花が飛び、焼け焦げた上着のポケットからこぼれ落ちたのは、小さな肌守りだったのだ。

「バカな、肌守り!? これが気配の正体か!」

 天音は焦って身構えた。

 これを持って近付いたため、女神の接近と勘違いしたのだ。

 しかしただのお守りにしては、込められた気が強すぎる。

 分霊わけみとはいかぬまでも、守り袋の範疇はんちゅうでは無かった。

 そして天音は気が付いた。

 倒れた男が笑ったのだ。信念を貫いた男の顔だ。大事な仕事を終えた表情だ。

 それが意味するものは…………

「!!!!!?????」

 背筋が凍るような感覚を覚え、天音は弾けるように振り返った。

 そこに女神が迫っていたのだ。

 手には光の刃が輝いている。残された霊力を極限まで収束しており、天音の体も貫くだろう。

 もし万が一相打ちでも、立っているのは恐らくあいつだ。そもそも力や頑丈さでは圧倒的に負けているのだ。

 迫り来る女神を見据えながら、天音は混乱の極みに達していた。

 術の発動が間に合わない。回避すらもままならない。

(バカな、バカな……折角ここまで追い詰めたのに……復讐できると思ったのに!!!)

 悔しさの余り、血の涙が目に溢れた。

(どうしていつもこの世界は、私をあざけり続けるのだ!!!)

 ………………次の瞬間、天音の体に衝撃が走った。

 激しい衝撃ではない。特に痛みも感じなかった。

 眼前に迫った女神は、手にした刃を虚空に消して、両手で天音を抱き寄せていたのだ。

「…………?????」

 一瞬、時が止まったように感じた。

「……すまない天音」

 女神は天音を抱いたまま、そう静かに語りかける。

「お前は立派な弟子だった。つたない私の子育てが、お前を苦しめてしまったのだ……!」

(~~~~~っっっ!!!!!!)

 瞬間、天音の中に、無数の記憶が蘇ってきた。かつて人だった頃に過ごした日々の記憶だ。

 全神連の家系に生まれ、幼くしてその素質を認められた。次代の神人として、女神に直接指導された。

 その事が嬉しく、また誇らしく、いつも女神の後をついて走ったのだ。

 光に満ちたその思い出は……今の天音にとって、何物にも替えがたい苦痛だった。

「ぐっ、ぐおおおおおおっっっ!!!!!」

 天音は女神を振り払った。

 全身の気が乱れる。腹に収めた魔王の細胞が、壊れたように脈打っている。

 闇に堕ちたこの身にとって、あの感覚は何より危険な代物だった。

 天音は必死に耐えようとした。

 割れそうに痛む頭を押さえ、苦しみながらも片手を掲げる。

 女神に向けて、最後の術を発しようとした。

 しかし出来ない。

 今少しでも力を使えば、魂が粉々に砕けそうだ。

「くそっ……くそおおおおおおっ!!!!! 重ね重ね忌々しい!!!!!」

 叫ぶと同時に、天音は空に舞い上がった。

 身の内を駆け巡る憤怒と憎悪を言葉に込めて、眼下の女神にぶつける。

「どのみち貴様は助からん、そのままそこで朽ち果てろ!!! 私が、私が勝ったのだ!!!」

 天音は身をひるがえすと、夜空を駆けて逃げ去ったのだ。
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