新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART4 ~双角のシンデレラ~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

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第四章その4 ~守り切れ!~ 三浦半島防衛編

鬼は本来、戦闘狂

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 夜の闇に紛れ、刹鬼姫達は疾走する。

 特に気配は消していないが、派手に餓霊が暴れているため、人の注意はそちらに向けられているはず。それでも幾つかの感知機器センサーがこちらをとらえ、警報ブザーが鳴り響いていた。

「ピコピコピコピコ、やっかましいわっ!!!」

 刹鬼姫は太刀を振り、力任せにカメラを壊した。いや、カメラというより、それが備わる建物ごとぶち壊したというべきか。

 瓦礫が宙に舞い上がり、後続の鬼達に衝突するが、そんな事で傷つくような一族ではない。

 巨体の剛角、わらべのような紫蓮を筆頭に、一族の中でも血気にさかる連中が、手に手に武器を持って続いているのだ。

 気付いた守備隊の歩兵が弾丸をばらまくが、それも鬼達には無意味であった。

「おあああああっ!!!」

 銃弾を肌で、顔で、眼球ですら弾きながら、両手に太鼓のバチのような金棒を持った鬼が突進する。

 名を宇漢うかんという彼は、しなやかで筋肉質な体をソデ無しの着物に包んでいる。

 腕には金輪かなわを幾つもはめ、短髪からは2本の角が覗いていた。

 彼は歓喜の笑みを浮かべ、金棒を横殴りに一振りする。

 たったそれだけで人間どもは吹っ飛び、かたわらの荷車にぐるま……確か装輪装甲車そうりんそうこうしゃと呼ばれるものが、ぐしゃぐしゃになって宙に舞った。

 彼は元々好戦的な性格で、過去に幾度も全神連の猛者を討ち取った事から、五老鬼から『征儡王せいらいおう』の称号をもらっている。

 彼以外の配下も、戦いが飯より好きな者ばかりだし、刹鬼姫もそれは同じだ。

(そうだ、これが鬼神族のあるべき姿、戦いを愛してこそ双角天様の子孫だ……! あの里抜けした阿呆とは違うのだ……!)

 刹鬼姫はそう思いながら、砲撃してくる車両を太刀で叩き割った。

「楽しいな姫さん、血がたぎるぜ……ありゃ?」

 剛角があらぬ方を見ながらしゃべり、キョロキョロと刹鬼姫こちらを探している。

「どっち向いて喋ってるんだ、剛角!」

 刹鬼姫は怒鳴ったが、そこで懐から紙の図を取り出した。剛角に言った手前、道に迷っては恰好かっこうがつかぬ。

 夜目やめの利く双眸そうぼうで地図を睨むと、くしゃりと丸めて後ろに放った……が、その際、自らの左手首の腕輪が見えた。

 五老鬼曰く、

『転移術の腕輪だ。危ない時、目的を果たして逃げる時。そして捕まりそうになった時に使え』という事らしい。

 だが逃げるつもりは毛頭ない。敵を蹴散らし、目的を果たして、かばねの中を堂々と凱旋がいせんするのだ。

「この奥の格納庫の並びだ、全員突っ込め! 後戻りは出来んぞ!」

 港に立ち並ぶ大型格納庫、そのうちどれに目当てのものがあるかは分からない。だったら端から潰していけばいいだけだ。

 刹鬼姫は太刀を振りかぶると、格納庫の壁を両断する。

「……ハズレか、次!」

 刹鬼姫は次々壁をぶち破った。

 守備隊はどんどん集まってくるが、配下の鬼がいくつかに別れて足止めしている。

 やがて5つ目の格納庫をぶち抜いた時、刹鬼姫は目当てのものを確認した。

 まだ白いカバーがかけられているが、凄まじく巨大なものが横たわっている。

 カバーから覗く人型の手は、およそ普通の人型重機とは比較にならないサイズである。

 事前の情報通り未完成のようで、無数の機器やケーブル、そして沢山の作業員が、横たわる巨体を囲んでいた。

「見つけた、これが震天か……! こんな玩具おもちゃでディアヌス様に……肥河之大神ひのかわのおおかみ様に勝てると思っているのか!」

 恐怖と混乱で悲鳴を上げる人間達を、刹鬼姫はののしった。

 それから太刀を振りかぶり、配下の鬼に指示を出す。

「ものども、叩き壊せ!!!」

 人間達もそうはさせじと応戦してくるが、巨大な人型重機の銃弾でもない限り、鬼神族を傷つける事は叶わない。

 鬼達は人々を薙ぎ払い、横たわる決戦兵器へと迫った。

 刹鬼姫は歓喜の笑みを浮かべる。

「これで鬼神族の面子も保たれる。新しい日の本において、我らの所領しょりょう安堵あんどとなるのだ」

 だがそこで、1人の男が刹鬼姫に声をかけた。

「……や、やめてくんねえかな、鬼?の大将……!」

 白衣を着た痩せた男で、無精ひげを生やし、いかにも弱そうな風体ふうていである。衣はあちこち破れかけ、血で赤く染まっていた。

 男は背を丸め、しばし荒い息をついたが、やがてこちらを睨み付けた。

「こいつはなあ、この国の希望なんだ。鬼だか何だか知らねえが……そうおいそれと壊させるかよ……!」

「言いたい事はそれだけか、青瓢箪あおびょうたん

 刹鬼姫は男を見下ろしながら言った。

「邪魔立てするなら殺す。やれ剛角!」

「うい」

 剛角はそう答え、首を傾げながら金棒をかついだ。片手の小指で耳をほじくり、男の前に進み出る。

 気の進まない時の彼の仕草だが、別に戦いが嫌いなわけではない。単に弱い相手に興味が無いだけだ。

「……ま、気骨があるのは嫌いじゃないがな。悪く思うなよ」

 剛角はやにわに金棒をもたげ、振り下ろす。

 激しい衝突音が格納庫に木霊こだまし、人間達の悲鳴が聞こえた。
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