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第四章その4 ~守り切れ!~ 三浦半島防衛編
目覚め始める力
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激しい爆発、舞い上がる火の粉。ほとんど戦場と化した避難区を、カノンは懸命にひた走った。
決戦兵器は港に並ぶ大型格納庫であり、そこまで一気に行かなくては。
送電線は断線し、明かりもまばらではあったが、今はかなり夜目が利く。
足元では、自らが蹴立てたコンクリートがひび割れていく。路面が弱っていたのだろうか、などと図々しい事は思わない。足は既に人ならぬ速さに達し、そんな言い訳が通じる状態では無かったからだ。
格納庫区画の直前に、十人程の鬼が屯していた。皆、歳若い鬼であろう。目を光らせ、戦いの喜びに雄叫びを上げている。
彼らはカノンに気が付くが、カノンはスピードを上げて突っ切ろうとする。相手をしている時間はないのだ。
「逃がすかボケがっ!!」
一際身のこなしの速い鬼……短髪で、腕に多数の金輪を付けたヤツが叫ぶと、瞬時にカノンに追いすがってくる。
太鼓の桴ほどの長さの、太くて頑強な2本の金棒……食らえば戦車でも痛手を被るであろうそれを、彼は大きく振りかぶった。
「くっ……!!」
走りながら、1本目の金棒を身をひねってかわすと、カノンは無意識に手を伸ばす。
そのまま2本目を掴むと、持ち主の鬼ごと振り回し、思い切り投げ飛ばしていた。
空気を裂いて吹っ飛んだそいつは、格納庫の壁を突き破って転がる。彼はすぐに身を起こすも、内心動揺したようだ。
「……て、てめえ……何者だ……!?」
まさか人間の、しかも女に投げ飛ばされたのだ。
まだ歳若いその鬼は呆然としているが、そこで戦場には場違いな子供の声がかけられた。
「……お主、どこかで見たような気がするのぉ」
やがて前方に、小柄で髪の長い、童のような鬼が現れた。
巨大な斧を肩に担ぎ、ぎらぎら光る目でこちらを見据えている。
カノンはそいつに見覚えがあった。見た目が子供っぽい事を気にしていたが、その実力は折り紙つきの猛者だ。
確か『護宝童子』の称号を持つ、紫蓮と名乗る鬼だったはず。
「未熟とはいえ、宇漢を手玉に取る膂力。気配も何だかよく分からん。神に体をいじられでもしたか?」
紫蓮の問いに、カノンは黙って後ずさった。
(戦いで紫蓮が喋る時は、まともに相手をしちゃだめだ。喋るのは狙いがあるから……受け答えは隙を作るだけ)
好戦的ではあるが、他の鬼より頭が良く、そして手強い。この状況で一番逢いたくない相手であろう。
カノンが答えないと見ると、紫蓮はじりじり間を詰めた。
(……恐らくこいつらは、陽動が目的の別働隊。本隊は決戦兵器の所にいるはず。だからこいつは、時間を使って語りかけてきたんだ……!)
カノンはそこまで読み取ったが、だからと言って目の前の強敵から逃げられるわけではない。
……だが、今にも紫蓮が打ち込んでくるかと思われた時。その場に一陣の風が吹き抜けたのだ。
鬼達はくぐもった悲鳴を上げ、目を見開いて倒れていく。
紫蓮は咄嗟に振り返り、斧で相手の攻撃を受けた。激しい金属音が響き、相手はカノンの傍に降り立った。
「……どうやら間に合ったようですね」
彼女は背を真っ直ぐに伸ばし、油断なく鬼どもを見据えた。すらりとした長身で、全身黒のスーツ姿。長い黒髪をうなじでまとめ、手には以前のものと違う、青く輝く太刀を構えていた。
「お、鳳さん……!?」
カノンは驚きで目を見開いた。
「ご無事で何より。遅れて申し訳ありませんでしたが、事情が事情でしたので」
鳳は無器用にウインクしながら、手にした太刀を振ってみせる。
「一撃で致命傷とはいきませんが、どうやら鬼にも通じるようです」
彼女の言葉どおり、倒れた鬼の連中は、うずくまったまま未だ起き上がって来ない。
そもそも鬼神族を斬れるだけで大した刀なのだが、斬ると同時に、何か特殊効果を流し込んだのだろうか。
「霊刀か……いや、それよりお主、前より強くなったか?」
紫蓮が言うと、鳳は口元に笑みを浮かべた。
「こう見えて今は、勇者様の守り手ですから。鎮西ではあなたから逃げましたが……今度はそうは参りません」
鳳が刀を構えると、刀身に先ほどよりも強い輝きが満ちた。
「霊刀『水鏡』……全神連の東国本部より譲り受けたものです。あまり借りを作りたくありませんでしたが」
鳳はそこでカノンに囁いた。
「……仕掛けます。その隙にどうぞ」
カノンが頷く間もなく、鳳は足を前に走らせる。
大地を蹴る音すら聞こえない、無駄のない体捌き、そして剣閃。並の魔族であれば反応すら厳しいだろうが、紫蓮は斧で受け止めた。
「面白い……こういうヤツを待っておった……!」
紫蓮の目が異様な光を帯びると、凄まじい力で巨大な斧を振り回す。
カノンは少し躊躇したが、すぐにその場を後にしたのだ。
決戦兵器は港に並ぶ大型格納庫であり、そこまで一気に行かなくては。
送電線は断線し、明かりもまばらではあったが、今はかなり夜目が利く。
足元では、自らが蹴立てたコンクリートがひび割れていく。路面が弱っていたのだろうか、などと図々しい事は思わない。足は既に人ならぬ速さに達し、そんな言い訳が通じる状態では無かったからだ。
格納庫区画の直前に、十人程の鬼が屯していた。皆、歳若い鬼であろう。目を光らせ、戦いの喜びに雄叫びを上げている。
彼らはカノンに気が付くが、カノンはスピードを上げて突っ切ろうとする。相手をしている時間はないのだ。
「逃がすかボケがっ!!」
一際身のこなしの速い鬼……短髪で、腕に多数の金輪を付けたヤツが叫ぶと、瞬時にカノンに追いすがってくる。
太鼓の桴ほどの長さの、太くて頑強な2本の金棒……食らえば戦車でも痛手を被るであろうそれを、彼は大きく振りかぶった。
「くっ……!!」
走りながら、1本目の金棒を身をひねってかわすと、カノンは無意識に手を伸ばす。
そのまま2本目を掴むと、持ち主の鬼ごと振り回し、思い切り投げ飛ばしていた。
空気を裂いて吹っ飛んだそいつは、格納庫の壁を突き破って転がる。彼はすぐに身を起こすも、内心動揺したようだ。
「……て、てめえ……何者だ……!?」
まさか人間の、しかも女に投げ飛ばされたのだ。
まだ歳若いその鬼は呆然としているが、そこで戦場には場違いな子供の声がかけられた。
「……お主、どこかで見たような気がするのぉ」
やがて前方に、小柄で髪の長い、童のような鬼が現れた。
巨大な斧を肩に担ぎ、ぎらぎら光る目でこちらを見据えている。
カノンはそいつに見覚えがあった。見た目が子供っぽい事を気にしていたが、その実力は折り紙つきの猛者だ。
確か『護宝童子』の称号を持つ、紫蓮と名乗る鬼だったはず。
「未熟とはいえ、宇漢を手玉に取る膂力。気配も何だかよく分からん。神に体をいじられでもしたか?」
紫蓮の問いに、カノンは黙って後ずさった。
(戦いで紫蓮が喋る時は、まともに相手をしちゃだめだ。喋るのは狙いがあるから……受け答えは隙を作るだけ)
好戦的ではあるが、他の鬼より頭が良く、そして手強い。この状況で一番逢いたくない相手であろう。
カノンが答えないと見ると、紫蓮はじりじり間を詰めた。
(……恐らくこいつらは、陽動が目的の別働隊。本隊は決戦兵器の所にいるはず。だからこいつは、時間を使って語りかけてきたんだ……!)
カノンはそこまで読み取ったが、だからと言って目の前の強敵から逃げられるわけではない。
……だが、今にも紫蓮が打ち込んでくるかと思われた時。その場に一陣の風が吹き抜けたのだ。
鬼達はくぐもった悲鳴を上げ、目を見開いて倒れていく。
紫蓮は咄嗟に振り返り、斧で相手の攻撃を受けた。激しい金属音が響き、相手はカノンの傍に降り立った。
「……どうやら間に合ったようですね」
彼女は背を真っ直ぐに伸ばし、油断なく鬼どもを見据えた。すらりとした長身で、全身黒のスーツ姿。長い黒髪をうなじでまとめ、手には以前のものと違う、青く輝く太刀を構えていた。
「お、鳳さん……!?」
カノンは驚きで目を見開いた。
「ご無事で何より。遅れて申し訳ありませんでしたが、事情が事情でしたので」
鳳は無器用にウインクしながら、手にした太刀を振ってみせる。
「一撃で致命傷とはいきませんが、どうやら鬼にも通じるようです」
彼女の言葉どおり、倒れた鬼の連中は、うずくまったまま未だ起き上がって来ない。
そもそも鬼神族を斬れるだけで大した刀なのだが、斬ると同時に、何か特殊効果を流し込んだのだろうか。
「霊刀か……いや、それよりお主、前より強くなったか?」
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「こう見えて今は、勇者様の守り手ですから。鎮西ではあなたから逃げましたが……今度はそうは参りません」
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鳳はそこでカノンに囁いた。
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カノンが頷く間もなく、鳳は足を前に走らせる。
大地を蹴る音すら聞こえない、無駄のない体捌き、そして剣閃。並の魔族であれば反応すら厳しいだろうが、紫蓮は斧で受け止めた。
「面白い……こういうヤツを待っておった……!」
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