新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART4 ~双角のシンデレラ~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
48 / 110
第四章その5 ~さあ反撃だ!~ やる気満々、決戦準備編

闇の聖者をどう倒すのか

しおりを挟む
「おおおおっ、なんかほんまにいけそうやわ!」

 難波の声を皮切りに、一同は盛り上がった。まるで一学期の終業式が終わり、夏休みを喜ぶ学生のようだ。

 筑波は腰に手を当てて笑い、ひかるは餃子のぬいぐるみでお手玉している。

 隅っこには弥太郎がいたらしく、親指を立てて誠をねぎらってくれた。

(弥太郎すまない、気付かなかった……!)

 誠も親指を立てて応えたが、そこで難波にヘッドロックされた。

「うりうり~、まったく、起きたらすぐにこうなんやもん。鳴っち、あんたほんっっっまにアホやったんやなあ!」

「うぐっ……お褒めの罵倒どうも。けどまだ問題もあるんだ」

 えっ、と一同が固まり、首を回して誠の方を見る。

 騙された、という表情であり、夏休みだと思ったら「明日から補習な!」と言われた生徒のようである。

「鳴っち、あんたほんま外道やな! ほんまにいつもいつも、うちの乙女心をもてあそびおって!」

「……い、いや、そんな事言われても。まだ一番手強い、あの闇の神人が残ってるだろ」

「………………あ、そやな……あの怖い奴か……」

 難波は急に大人しくなった。

 誠は当時気絶していたのだが、直後に難波達が駆けつけ、闇の神人・鳳天音おおとりあまねと戦ったらしい。

 しかし勝負にすらならない一方的な蹂躙じゅうりんで、こちらの部隊は壊滅。彼女が自ら退いてくれなければ、間違いなく全員この場にいなかっただろう。

 カノンの様子が少しおかしいのは、その時のダメージのせいもあるかもしれない、と誠は思った。

「ちなみにその怖ぇ人ってなんだい?」

 伊能が不思議そうに問いかけてくる。

「それは……」

 誠は鳳を横目で見たが、鳳は「お気になさらず、お願いします」と言ってくれた。

「……その、ディアヌスの加護を受けた元人間で、重機だろうが何だろうが相手になりません。しかも遠くからこっちの場所を全部見抜いて、どこまでも追いかけてくるし……いざとなれば餓霊や悪霊だって呼び出せます。たった1人で、避難区丸ごと壊滅させる力があるんです」

「ひでえな、反則だ……魔王以外に、まだそんなヤツがいるのかい」

 伊能もさすがに腕組みして眉をひそめた。

「魔王に砲撃しようにも、そいつがいたらこっちの配置が全部バレる。困ったぜ」

 誠も黙って考えた。

 一番厄介なのは、その強さより感知能力だ。本当にそう痛感した。

(こっちがどう動こうと、全部居場所を読む相手か……今までヒメ子がいただけで、敵がどれだけ攻めにくかったか分かるな……)

 座ったままうつらうつらしている鶴に目をやり、誠は内心感謝するのだったが、そこでコマが前足を上げた。

「ねえ黒鷹、それについては、少し鶴と調べたんだけどさ」

「どういう事だ?」

「黒鷹が気絶した後、僕らはあいつに吸収されて……そこで色々見てきたんだ。確かに感知範囲は長いけど、ディアヌスのエネルギーを受けて活動してるから、魔王とあまり離れられない。それに崇拝すうはいするディアヌスを守るために、あいつは必ず先に立って警戒するよ」

「ふーむ……」

 誠は頭の中で想像してみた。

 ディアヌス本体を飼い主とすると、あの闇の神人はリードの先にいる猟犬のようなものか。もちろん猟犬というには強過ぎるのだが、誠はそこで気が付いた。

(リード……触手を伸ばす……遠くから感知する相手と戦う? 確か北陸で、似たような事無かったか?)

(そうだ、あの時は逆の立場だった。こっちには鶴がいて、敵を遠くから感知できた。敵はそれを逃れようとして……何をした?)

 答えは明確。誠は少し躊躇ためらいながら口を開いた。

「……魔王より先に来るって言ったよな? だったらあいつとだけ先に戦おう……!」

 その場の一同が?マークを浮かべそうだったし、鳳も悲しむだろうが、誠はもう覚悟を決めた。

 皆を見渡し、それからコマに目を向ける。

「酷い言い方なのは分かってるけど……どうせ富士市に来るまでディアヌスを止める方法は無い。だったら先に、最後のポイント以外を開放出来ないかな」

「ええっ!?」

 コマは露骨に慌てている。

「確か能登半島で、邪気が強いと敵の居場所が見えにくかったじゃんか。だから地脈を開放して、そこらじゅう強力な気で覆ったら……あの女もこっちの位置を感知出来なくなるんじゃないかな」

「た、確かに理屈はそうだけどさ。永津様の許可が出るかな?」

 コマは両の前足を上げ、たてがみをくしゃくしゃして悩んでいるが、誠は力強く言った。

「コマに責任はかぶせない、俺が説得してみせる。地脈を開放し、溢れたエネルギーに潜って隠れて、あの女を撃退するんだ。待ち伏せの場所は……少しでも凹凸があって、隠れやすい南アルプス付近がいいか」

 そこで鳳が同意してくれた。

「名案だと思われます、黒鷹様……! 山深い所ですし、少しでも清らかな気が残っている場所。姉を止めるにはそこしかありません。いかがでしょう、船団長殿」

 内心かなり辛いだろうに、彼女の目は覚悟に満ちている。

「……南アルプスでその女を止めて、富士市で魔王を待ち伏せするわけか。とんでもない2連戦だが、どのみち黙ってたらこっちの負けだもんなぁ」

 伊能は口元に不敵な笑みを浮かべ、やはり手で帽子の位置を直した。そうするのが癖になっているのか、もしかしたらサイズの違う形見なのか。

「よっしゃ、この俺が全面的にバックアップするぜ。筑波、参謀方にはお前から話せ。試算してすぐに迎撃準備だが、情報は最重要機密扱い、絶対に漏らすなよ」

「了解した」

 筑波は立ち上がり、白衣をなびかせて退出していく。海老名はついていくかどうか迷っていたが、諦めて顔を伏せた。

 少し顔が赤いような気がするが、そこで伊能は立ち上がった。

「任しとけあんちゃん。日本がバラバラに砕けるなんて、そんなのまっぴら御免だぜ。自分の地図が無意味になっちゃ、ご先祖様が可愛そうだからな」

「よろしくお願いします!!」

 誠は姿勢を正し、伊能に一礼。それから鳳に向き直る。

「鳳さん、あの神殿に……永津彦さんに会えないでしょうか。さっきの許可を貰いたいから」

「わ、分かりました。すぐに打診いたします……!」

 鳳が頷くと、鶴が目をこすりながら誠の傍に来た。

「ヒメ子、まだ寝てていいぞ。ヒメ子が一番大変だし、戦いっぱなしで疲れてるだろ」

「もう平気よ。よく分からないけど、神殿だったら私も行くわ」

「……分かった。ありがとう」

 誠は鶴に感謝する。

 自分はただの人間だし、鶴のように霊的に身分が高いわけではない。鶴がいなければ、永津彦に謁見えっけんする事は叶わないのかもしれない。

 それでも誠は力を込めて言った。

「でも、今回ヒメ子は座ってるだけでいい。今度は俺がお願いするから……!」

 コマも鳳も目を丸くしていたが、鶴は嬉しそうに微笑んだ。

「そうね。黒鷹がそう言うなら、きっと出来るわ」

 誠は頷くが、そこでふと気が付いた。

(ヒメ子……また髪伸びたな)

 艶やかな鶴の髪は、本当に伸びるのが早い。

 以前より更に長くなったそれは、今は完全に肩を越えているのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

元邪神って本当ですか!? 万能ギルド職員の業務日誌

紫南
ファンタジー
十二才の少年コウヤは、前世では病弱な少年だった。 それは、その更に前の生で邪神として倒されたからだ。 今世、その世界に再転生した彼は、元家族である神々に可愛がられ高い能力を持って人として生活している。 コウヤの現職は冒険者ギルドの職員。 日々仕事を押し付けられ、それらをこなしていくが……? ◆◆◆ 「だって武器がペーパーナイフってなに!? あれは普通切れないよ!? 何切るものかわかってるよね!?」 「紙でしょ? ペーパーって言うし」 「そうだね。正解!」 ◆◆◆ 神としての力は健在。 ちょっと天然でお人好し。 自重知らずの少年が今日も元気にお仕事中! ◆気まぐれ投稿になります。 お暇潰しにどうぞ♪

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

処理中です...