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第四章その9 ~攻撃用意!~ 山上からの砲撃編
対ディアヌス最終決戦・作戦開始
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第3船団の旗艦・武蔵に据えられた『対ディアヌス臨時特別司令部』は、言い知れぬ緊張感に包まれていた。
広大な区画を埋め尽くす作業員達……しかし彼らの立てる物音は軽微である。
どうしても声を発さねばならない者だけが遠慮がちに会話していたが、先日までの喧騒とは比べ物にならない。
「…………っ」
耐え難い息苦しさを感じ、雪菜は腕を組み直した。
左手で右のわき腹を押さえ、右手は左腕の肘を抱える。腕の重みを押し返そうとしていなければ、肺が呼吸を忘れてしまいそうだ。
まるで天敵に備えて息を潜めるような感覚であり、こういう時は人も獣も同じなのだろう。
魔王の接近と共に西の空は黒く染まっていき、あたかも夜の様相だった。
目玉だけを動かして確認すると、時刻は午後の3時前。魔王の侵攻具合にもよるが、そろそろ決戦の時が近い。
普段じゃれ合っているつかさやヒカリも、一切ふざける事なくモニターを見据えていた。
(……鳴瀬くんも頑張ってるんだから、私だって……!)
雪菜はそう己を奮い立たせた。
テンペストを探し、九州に向かった彼からの連絡は無いが、あの子ならきっと諦めないはずだ。
「魔王ディアヌスが福士川渓谷を通過、そのまま東進します」
やがて正面のメインモニターには、現在の魔王の姿が映し出された。
暗雲と霧に包まれた渓谷部に、黒い巨体が闊歩している。
鎧のような外皮と、複数の角の生えた頭部。女のような長い髪と、鋭い牙がむき出しになった口元。
強い邪気の中でも使用出来る、有線ケーブル式の通信方式だったが、それでも画面にはノイズが走っていた。
映像が広角に切り替えられると、魔王の前方に無数の餓霊が進んでいるのが分かる。
「なるほどな。闇の神人……あのお嬢さんが逃げ帰ったんで、露払いの軍勢が前に出たってわけだ」
仁王立ちしていた船団長の伊能は、いつものように渋い顔で呟いた。肩に羽織ったトレンチコート、そしてボルサリーノ帽も普段のままだ。
「……シンプルだな。砲撃までに見つからなきゃ勝ち、見つかればこっちの負けか」
「最後はそういうもんですよ、大将」
伊能の言葉に、つかさはバンダナを締め直しながら答える。彼が発言すると、大体その後にヒカリが喋るものだが……
(まさか、この状況でボケたりしないわよね……?)
雪菜は心配になってヒカリを見たが、ヒカリは腕組みしたまま目を閉じている。
凛とした横顔に見とれそうになりながら、なぜ普段からこういう態度をしないのよ、と雪菜は不思議に思った。
……それからどのぐらいの時が経ったのか……やがて運命の言葉が発せられた。
「ディアヌス、間もなく富士川付近に到達。予定作戦区域です……!」
「ようし、そんじゃあみんな、いっちょ頼むわ。長い長い悪夢だったが……これで終わりにしようじゃねえの……!!」
船団長の伊能は、片手で帽子を深く被り直した。口元には例のごとく笑みを浮かべ、つかさに目で合図する。
「了解、対ディアヌス攻略戦、作戦開始!」
号令は稲妻のように駆け巡り、各地の人員に伝えられた。
正面のメインモニターには、最低限のライトで航行する6隻の艦影が映し出された。
第5船団旗艦・三島。
第6船団旗艦・霧島。
第4船団旗艦・出雲。
第2船団旗艦・陸奥。
第1船団旗艦・宗谷。
そして第3船団の旗艦・武蔵。
全ての船団の旗艦が、旧神奈川県沖の相模湾に集結しているのである。
「全旗艦、防護天蓋・完全開放」
「各祭神、露出します」
オペレーターの報告と共に旗艦の天蓋が開くと、祭神達の鎧のような巨体が次々立ち上がった。
雪菜も良く知るガレオン、そして第6船団のゼノファイア。
第4、第2船団のアリスクライムとレオンヴォルグ。
雪のように白い巨影は、第1船団のホーリーダイヤモンド……そして黄色に輝く1体が、第3船団のエクスクロスだ。
相模湾に立ち上がった巨躯達は、それぞれの体色に近い光を帯びて輝いた。立ち上がった理由は明白、全ての力を発揮するためである。
祭神達は体の光を強めると、用意されたケーブルを握った。
「各祭神、エネルギーチャージ開始」
「伝導ケーブルに超電磁伝導保護膜展開」
次の瞬間、それぞれの艦から伸びるケーブルに膨大なエネルギーが走った。まるで海を這う光の龍であり、ケーブルに接した海水が、蒸気を上げて舞い上がっていく。
間もなく光は陸地に到達。砂浜でケーブル連結部を見守る班を衝撃波が襲ったが、彼らは怯む事なく持ち場を死守している。
「第一次エネルギー、熱海連結区を通過」
「計測完了、減衰率軽微。予定通り0コンマ4未満」
見守る船団長の伊能が、たまらず口元に笑みを浮かべた。
「く~っ、みんないい仕事しやがるぜ……!!」
雪菜も同じ思いだった。
突貫工事の作戦にも関わらず、己の出来る仕事を最大限こなしてくれている。こうした物言わぬ大勢の人々のおかげで、今まで自分達が戦えたのだ。本当の国守る勇者は、きっと彼ら自身なのだろう。
そんな雪菜の内心をよそに、地図上では光の道が続いていく。
「伝導エネルギー、伊豆スカイライン上を横断、ケーブル並びに接合部異常なし」
「三島連結区を通過、愛鷹山山頂へ」
光は瞬く間に伊豆半島を越え、愛鷹山へと駆け上っていった。
広大な区画を埋め尽くす作業員達……しかし彼らの立てる物音は軽微である。
どうしても声を発さねばならない者だけが遠慮がちに会話していたが、先日までの喧騒とは比べ物にならない。
「…………っ」
耐え難い息苦しさを感じ、雪菜は腕を組み直した。
左手で右のわき腹を押さえ、右手は左腕の肘を抱える。腕の重みを押し返そうとしていなければ、肺が呼吸を忘れてしまいそうだ。
まるで天敵に備えて息を潜めるような感覚であり、こういう時は人も獣も同じなのだろう。
魔王の接近と共に西の空は黒く染まっていき、あたかも夜の様相だった。
目玉だけを動かして確認すると、時刻は午後の3時前。魔王の侵攻具合にもよるが、そろそろ決戦の時が近い。
普段じゃれ合っているつかさやヒカリも、一切ふざける事なくモニターを見据えていた。
(……鳴瀬くんも頑張ってるんだから、私だって……!)
雪菜はそう己を奮い立たせた。
テンペストを探し、九州に向かった彼からの連絡は無いが、あの子ならきっと諦めないはずだ。
「魔王ディアヌスが福士川渓谷を通過、そのまま東進します」
やがて正面のメインモニターには、現在の魔王の姿が映し出された。
暗雲と霧に包まれた渓谷部に、黒い巨体が闊歩している。
鎧のような外皮と、複数の角の生えた頭部。女のような長い髪と、鋭い牙がむき出しになった口元。
強い邪気の中でも使用出来る、有線ケーブル式の通信方式だったが、それでも画面にはノイズが走っていた。
映像が広角に切り替えられると、魔王の前方に無数の餓霊が進んでいるのが分かる。
「なるほどな。闇の神人……あのお嬢さんが逃げ帰ったんで、露払いの軍勢が前に出たってわけだ」
仁王立ちしていた船団長の伊能は、いつものように渋い顔で呟いた。肩に羽織ったトレンチコート、そしてボルサリーノ帽も普段のままだ。
「……シンプルだな。砲撃までに見つからなきゃ勝ち、見つかればこっちの負けか」
「最後はそういうもんですよ、大将」
伊能の言葉に、つかさはバンダナを締め直しながら答える。彼が発言すると、大体その後にヒカリが喋るものだが……
(まさか、この状況でボケたりしないわよね……?)
雪菜は心配になってヒカリを見たが、ヒカリは腕組みしたまま目を閉じている。
凛とした横顔に見とれそうになりながら、なぜ普段からこういう態度をしないのよ、と雪菜は不思議に思った。
……それからどのぐらいの時が経ったのか……やがて運命の言葉が発せられた。
「ディアヌス、間もなく富士川付近に到達。予定作戦区域です……!」
「ようし、そんじゃあみんな、いっちょ頼むわ。長い長い悪夢だったが……これで終わりにしようじゃねえの……!!」
船団長の伊能は、片手で帽子を深く被り直した。口元には例のごとく笑みを浮かべ、つかさに目で合図する。
「了解、対ディアヌス攻略戦、作戦開始!」
号令は稲妻のように駆け巡り、各地の人員に伝えられた。
正面のメインモニターには、最低限のライトで航行する6隻の艦影が映し出された。
第5船団旗艦・三島。
第6船団旗艦・霧島。
第4船団旗艦・出雲。
第2船団旗艦・陸奥。
第1船団旗艦・宗谷。
そして第3船団の旗艦・武蔵。
全ての船団の旗艦が、旧神奈川県沖の相模湾に集結しているのである。
「全旗艦、防護天蓋・完全開放」
「各祭神、露出します」
オペレーターの報告と共に旗艦の天蓋が開くと、祭神達の鎧のような巨体が次々立ち上がった。
雪菜も良く知るガレオン、そして第6船団のゼノファイア。
第4、第2船団のアリスクライムとレオンヴォルグ。
雪のように白い巨影は、第1船団のホーリーダイヤモンド……そして黄色に輝く1体が、第3船団のエクスクロスだ。
相模湾に立ち上がった巨躯達は、それぞれの体色に近い光を帯びて輝いた。立ち上がった理由は明白、全ての力を発揮するためである。
祭神達は体の光を強めると、用意されたケーブルを握った。
「各祭神、エネルギーチャージ開始」
「伝導ケーブルに超電磁伝導保護膜展開」
次の瞬間、それぞれの艦から伸びるケーブルに膨大なエネルギーが走った。まるで海を這う光の龍であり、ケーブルに接した海水が、蒸気を上げて舞い上がっていく。
間もなく光は陸地に到達。砂浜でケーブル連結部を見守る班を衝撃波が襲ったが、彼らは怯む事なく持ち場を死守している。
「第一次エネルギー、熱海連結区を通過」
「計測完了、減衰率軽微。予定通り0コンマ4未満」
見守る船団長の伊能が、たまらず口元に笑みを浮かべた。
「く~っ、みんないい仕事しやがるぜ……!!」
雪菜も同じ思いだった。
突貫工事の作戦にも関わらず、己の出来る仕事を最大限こなしてくれている。こうした物言わぬ大勢の人々のおかげで、今まで自分達が戦えたのだ。本当の国守る勇者は、きっと彼ら自身なのだろう。
そんな雪菜の内心をよそに、地図上では光の道が続いていく。
「伝導エネルギー、伊豆スカイライン上を横断、ケーブル並びに接合部異常なし」
「三島連結区を通過、愛鷹山山頂へ」
光は瞬く間に伊豆半島を越え、愛鷹山へと駆け上っていった。
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