新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART6 ~もう一度、何度でも!~

あさくらやたろう-BELL☆PLANET

文字の大きさ
2 / 160
第六章その1 ~絶対勝てない!?~ 無敵の邪神軍団編

押し寄せる絶望の使徒

しおりを挟む
(……子供の頃、こんな映画があったような気がする)

 迫り来る巨躯きょくを眺めながら、誠は他人事のように考えた。

 日本が平和だった頃、両親と見たアニメ映画にこんなシーンが出てきたのだ。

 怒れる森の化身のように駆ける巨蟲きょちゅうは、あくまで想像上の生き物だったはずだが……それに勝るとも劣らぬ化け物が、今目の前に現れていた。

 端的に説明するなら、大型の輸送車にとり憑いた怪物。つまり九州で遭遇そうぐうした『火車』に似ていた。

 天井部分にそびえるのは、炎をまとった人型の上半身。車体下部からは蜘蛛のような足が突き出し、凄まじい速度で地を蹴立てていた。

 ……しかし従来の火車とは、あちこち細部が異なるのだ。

 火車では4本だった腕は増え、長短合わせて10本近くが確認出来る。

 優美な曲線を描く上半身の硬皮は、人の造形と言われても納得する形状フォルムだったし、洋風のかぶとのような頭部は、顔の下半分に人のような肌が露出していた。

 一方で運転席部分は大きく破損し、そこから巨大な女の顔が覗いている。

 それは不気味な笑みを浮かべていたが、たなびく髪や顔の造形は、寒気がするほど美麗だった。

 餓霊というより、神話に名だたる悪魔の彫像。

 怪物というより、知性を持つ高位の堕天使。

 そんな禁忌きんきにも似た感覚を、見る者に抱かせるのだ。



 !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 隊員達は人型重機を操り、弾丸を次々に叩き込むが、『追撃者』の顔は笑うばかりだ。

「あかんわっ、なんちゅう硬い電磁障壁シールドやねん!」

 機体のモニターに映るショートカットの少女・難波が叫んだ。

 普段はおちゃらけた言動が多く、隊のムードメーカー的な彼女も、今はそんな余裕がなかった。

 弾丸に特殊な電磁力をコーティングし、威力を飛躍的に高めているはずなのに、いかに弾を連射しようと、全く攻撃が通らないのだ。

「このみっ、弾っ!」

 別の輸送車に乗る機体が、難波の人型重機に銃の弾倉マガジンを投げて寄越した。

 モニターに映るのは、やや波うつ髪を長く伸ばした少女・カノン。

 誠が率いる人型重機小隊の副官であるが、頭には2本の角が生えている。

 人ならぬ鬼である彼女は、訳あって前世の誠と出会った。そして誠が討ち死にした後、その生まれ変わりを500年も待ってくれていたのだ。

「無駄撃ちしないで! 協力して同じ相手に叩き込むのよ!」

 指揮らしき指揮を取れない誠に代わって、カノンは必死に他のメンバーを鼓舞していた。

 早く参加しなければ、自分がしっかりしなければ……!

 理屈では分かっていたが、誠は何も出来なかった。

 どんな時も自分達を励ましてくれた女神・岩凪姫は、悪神どもの罠に倒れた。

 そしてその原因が、他ならぬ誠にあったからだ。

 苛立つ被災者達の罵倒……いや、それすらも敵の策略だったのだが……ともかく心無い言葉に苛立った誠は、およそ人間とは思えぬ言動をした。

 それに怯えた子供が逃げ、女神はたった1人でその子を連れ戻そうとしたのだ。

 だが全ては敵の罠であり、結局女神は命を落とした。

(……もし俺が怒りに身を任せなければ、岩凪姫は無事だったはずだ)

 耐え難い自責の念に襲われる誠だったが、そこで肩に手が置かれたのに気づいた。

「……っ!?」

 振り返ると、後ろの補助席に座る少女が、心配そうにこちらを見つめている。

 長い黒髪をポニーテールにまとめ、古風な着物に鎧姿。

 名を大祝鶴姫おおほうりつるひめという彼女は、本来は明るくすっとんきょうな性格であり、日本を取り戻す冒険において、随分振り回されたものだ。

 ……けれど今は見る影もない。

 役目を終えた彼女は、魂の崩壊で消滅する時をただ待つばかりだ。

 だがそんな命の危機にも関わらず、彼女は誠を気遣っていた。

「大丈夫よ黒鷹、あなたのせいじゃないわ。ナギっぺは、ナギっぺのやりたいように頑張ったんだから……!」

 鶴は肩に置く手に力を込める。

「だからお願い。私、ナギっぺに報いたいの……! ナギっぺが守りたかった分まで、私達が頑張りましょう……!」

「………………っ!!!」

 誠はしばし鶴を見つめていたが、やがて前に向き直る。

 完全に何かが納得出来たわけじゃない。

 それでも体が動いたのは、鶴が願ってくれたが故だ。

『自分のためではなく、鶴のために戦う』

 その言い訳を用意してくれた事で、自責の念で動けなくなっていた誠は、とりあえず現実と向き合う事が出来たのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...