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第六章その1 ~絶対勝てない!?~ 無敵の邪神軍団編

最悪の邪神・千里眼

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「千里眼!? どういう相手だコマ」

 誠の問いに、コマは冷や汗を流しながら答えた。

「千里眼……千里巌徹之神せんりいわどおしのかみだよ。邪神の中でも最悪の相手だ。なんでこんなに早く復活……」

 コマの言葉はそこでさえぎられた。

 邪神が発した矢が、凄まじい邪気を帯びてこちらをかすめていったのだ。

 例えるなら光の柱、極太のレーザー光であり、被災者を乗せたバスも、それを守ろうとした人型重機も、一瞬のうちに蒸発していた。

 光が通り抜けた大地は、大きくえぐり取られている。

 他の隊の指揮官が、懸命に指示を送った。

「ぼ、防御をっ! 属性添加機てんかきが焼きついてもいいっ、フル稼働でシールドを張れ!」

 車両は全ての属性添加機を稼働させ、後方に光の障壁を……強固な電磁シールドを発生させた。

 だが次の矢が発せられると、そのシールドごと貫かれた。

「さっ、散開して蛇行っ、狙いを絞らせるな!」

 また別の隊で指示が飛んだ。

 車両班は複雑な軌道で蛇行するが、それすらも無意味だった。

 再び矢が発射されると、光は幾筋にも分裂する。

 そのまま各車両を追尾して、一撃の元に破壊したのだ。

 強固な電磁シールドは、まるで薄い飴細工に熱湯をかけたように易々と射抜かれていた。

 これが邪神の……地の底に封じられ、全神連がその復活を恐れてきた者達の力である。

「見える範囲なら、どこまででも当てて来るよ。蛇行しても必ず当てる、そういう能力なんだから……!」

 コマは前足を上げ、たてがみをくしゃくしゃとむしった。

「まだ完全に具現化してないのに、ここまで強いなんて……」

「完全に復活したらどうなる?」

「遠距離戦なら、ディアヌスよりもずっと上だよ! このままじゃ……」

「くっ……!」

 誠は歯噛みし、懸命に考えた。

 追いすがる強力な餓霊の集団、更には防御不可能な邪神の攻撃。

 鶴もコマもどうする事も出来ず、頼れる女神は今はいない。

 誠は決断し、隊員達と鶴に告げた。

「このままじゃ全滅する! 俺が囮になるから、ヒメ子とコマは機体から降りろ!」

「なっ……!?」

 隊員達は画面上で絶句したが、やがて難波が怒鳴り返した。

「バカ鳴っち、何考えとんねん!? あんた1人で何が出来るんよ!」

 カノンも、宮島も香川もわめいていたが、誠も引くつもりはない。

「他に方法が無いっ、全滅よりマシだ!」

 誠は振り返り、鶴の座席のベルトを外した。

「ヒメ子、降りろ」

「嫌っ!!!」

 鶴は誠の座席の背もたれにしがみついた。

「嫌よっ、私も一緒に行くっ!」

「駄目だ降りろっ、お前まで死んだら、」

「嫌っ、絶対絶対っ、ぜったい嫌っ!!!」

 鶴は泣きながら首を振った。

「私、ずっと後悔してた! あの500年前、なんで黒鷹を見送ったんだろうって……だからもう嫌なの、離れ離れで死ぬのは嫌なのっ……!!!」

 必死の嘆願、懸命の表情だった。

 汗ばむ頬に髪が張り付き、涙がとめどなく伝い落ちている。

「ヒメ子…………」

 誠は呆然と彼女を見つめていたが、そこで再び爆発が起こった。

「黒鷹っ、言い争ってる時間は無いよ!」

 誠の肩でコマが叫んだ。

「…………っ!」

 誠はしばし戸惑ったが、再び前に向き直る。

「べ……ベルト締めろ、ヒメ子……」

 辛うじてそれだけ言うと、機体を操作し、輸送車の荷台から飛び上がらせる。

 爆風や強烈な邪気の影響が激しかったが、それでも懸命に姿勢を保つ。

 手にした銃を構えると、邪神に向けて一撃を放った。

 だが邪神の周囲に光のバリアが輝くと、当然のようにこちらの攻撃を弾いた。

「…………っっっ!!!」

 次の瞬間、遠く離れていながらも、邪神に睨まれたのが直感で分かった。

 巨大で恐ろしい目で見据えられたように、全身が萎縮し、レバーを握る手が硬直する。

 殺気を込めた視線だったが、別にこちらを憎んでいるわけではない。

 ただ飛び交うはえを見るように、何の感慨もない殺意なのだ。

 背負う矢がまた1本消え、邪神が弓を構える。

 邪神の上半身に模様が浮かび……胸に浮かんだ顔型の紋章それが、笑うように牙をむいた。

(……っ!!!)

 誠は咄嗟に機体を右に動かした。

 機体に備わる全ての属性添加機を作動、全力の慣性力を発生させて。

 それでも光は迫っていた。というより、誠の動きに合わせて誘導され、カーブを描いていたように思う。

 やけにゆっくりと、スローモーションで……けれど光の軸の中心は、ほんの数ミリのズレすらもなく誠の機体の操縦席を狙っている。

 機体の前に電磁シールドを展開したが、そんなものが通用しないのは分かっていた。

 完全にやられた……そう思ったのだが、次の瞬間、誠の機体を白い光の球が包んだ。

 射撃は恐ろしい勢いで押し寄せ、光の球を激しく叩いた。
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